第228話 番外編 守護神たち(2)

 

「遠慮はいらない。


 右の剣に炎、左の剣に氷結を纏い、一振りで四人を薙ぎ飛ばす。

 魔法騎士たちの合同魔法も、反対の一振りで相殺した。


「……え、ヤバ……」


 真顔で呟くデュレオだが、それを相手にしている騎士たちの方が冗談ではないだろう。

 すぐに体勢を立て直す前衛騎士たちに襲いかかるのは、ディアスが初手で用意していた八つの魔法陣の一つが発動する。


「うわぁぁあああああああああっ!」


 火球が一つ、凄まじい速度で飛び出して騎士たちの足元に落ちると大爆発を起こす。

 その衝撃波で、後衛の魔法騎士たちさえ吹っ飛んだ。

 ほぼほぼ戦闘不能の十名を見て、ディアスは溜息を吐く。


「後衛の魔法騎士たちは五名もいるのだから、援護に二人ほど人数を割きなさい。前衛へ強化魔法の補助を行うだけでだいぶ違う。前衛も二人ほど中衛を置いておけば、即壊滅などということはない。作戦もなしに突っ込んでくるのもよくないな。階級が一番上の者は、全体を見て臨機応変に指示を出さなければダメだろう。実践経験が少ないのであれば、実践経験の多い者が指示を出しなさい。階級の上下は実践経験の前では無意味に等しい」


 そう言いながら、残っていた七つの魔法陣の一つを発動させる。

 方々に騎士たちの転がった場所をすべて包み込む、巨大な治癒の魔法陣。


「かの者たちを癒せ。[サークルヒーリング]」

「う、うう……」

「こ、これは……!」

「こ、これほど広範囲の治癒魔法!?」

「次の十名、前へ出なさい。最初の者たちの失敗を踏まえて、作戦を立てる時間をやろう。そのあとに挑戦する者たちも、前に戦う者たちの戦い方を見て学びなさい。俺に一撃入れずとも、今俺の背後にあるすべての魔法陣を発動させる——を、勝利条件にしてもいい。新たに展開はしないから、残り六つ、頑張って発動させてみなさい」

「「「うっ」」」


 それはそれでとんでもない条件であるような。

 しかし、勝利条件が追加されたのはいいことなのかもしれない。

 そうポジティブに捉えることとして、次のチームが前へ出た。


「強いな」


 十回ほど、騎士団と魔法騎士団のチームとの戦いが繰り返される。

 しかし、結局ディアス・ロス一人にその後魔法を使わせることができたチームは皆無。

 一回戦のチームには、よほど加減をしていたのだろう。

 それを見てシズフがはっきりと断定した。

 ディアス・ロスは、強い。


「まあ、うん……舐めてはいたかもね……」


 デュレオでさえもそう口にする。

 複数の魔法を同時に展開し、同時に消すのは普通ではできない。

 デュレオでさえ、事前の下準備に精神支配系を施すが、それは一度発動すれば魔力を吸い続けるので他の魔法を使っても問題ない——というレベル。

 ディアスの攻撃、防御、強化補助、回復治癒を八つ同時に扱うのは訳が違う。

 単純に魔力が膨大でなければ不可能だし、その魔力をそれぞれの属性に配分、魔法陣を形成するために量を調整、出力して維持までしなければいけない。

 涼しい顔をして、正直外れもいいところだ。


「その剣は杖代わりになっているのか?」

「ああ、鉄に結晶魔石クリステルストーンを砕いたものを混ぜ合わせ、高温と魔力で焼き上げ、雷魔法で打って形を整えたものだ。剣の作り方はよく知らなかったから……まあでも成功したといえると思う」

「無茶苦茶やりやがる」

「俺も剣の作り方など知らんが絶対違うだろ、それ……」


 ディアスが抜いた剣を興味深そうに眺めるシズフと、その作り方に真顔で突っ込むデュレオとラウト。

 しかしふと、デュレオがその作り方に首を傾げた。


「んん? 結晶魔石クリステルストーン? って、加工できるの?」

「魔力を注いで加工するやり方がある。魔導具などは加工して作るものだ」

「ごめんね、ロス家の坊ちゃんが当たり前の常識みたいに言うことって、本当に当たり前かどうか信用ができないの」

「な、なぜっ」

「俺もほぼ同意見だが、アグリットとジェラルドが石晶巨兵クォーツドールを作っている時に、結晶魔石クリステルストーンを加工しているのは見たことがある。……ここまで形を変える加工は見たことはないが」

「ほらね」

「な、なにがだ!」


 つまりディアスがほどよくおかしいということだ。


「……ヒューバート・ルオートニスが魔樹の皮とやらの代わりになるものを探していたが、これではダメなのか?」

「ん、んん……さすがに製造方法が難しいのではないか? 素材は手に入りやすいものだが」

(多分使用魔力量が喧嘩売ってるレベルだろうな)

(鉄と結晶魔石クリステルストーンを魔力を注ぎながら雷魔法で製鉄するとか、喧嘩売ってるだろ……)


 デュレオとラウトはツッコミをきちんと声に出した方がいい。


「だが、この黒い剣は——ギア・フィーネのエンジンにとてもよく似ているな」

「え」

「一度ザードがギア・フィーネのエンジンを取り出して調べているのを見たことがあるが、これと似ていた」

「……、……い、いや。だが、ありえない……千年前に結晶魔石クリステルストーンは存在していない」

「それもそうか」


 そうしてすぐに興味を失うシズフ。

 彼とは反対に、ディアスの顔はより曇った。

 その曇った表情を見て、目を細めるデュレオ。


「……でもギアンなら千年前に結晶魔石クリステルストーンの原型みたいなものは、作り出せてそうだけどね」

「ふん……」




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