第143話 千年越しの再戦(2)
『——ラウトを助けよう』
「!?」
右手に男の手のひらが乗る感覚。
それに、空耳かもしれないけど、今の優しい声は……。
「深い夜に 瞬く星を 見上げながら あなたを想う あなたのところへ 飛んでいけたら 手のひらを 天井に掲げてみても 蝶になれるわけでは ないけれど ヒラヒラと 舞い上がる 声を聴いただけで 心が 踊る 蒼い空に 包まれて どこまでも 広く高く 羽ばたいて 雲も超えて 届け あなたのもとへ 私の心」
レナの歌声で、受け止めた瞬間結晶化するのは耐えた。
四号機も、この質量と熱量を腕だけで受け止めるとは!
けどジリ貧だ。
なんとか、押し返さないと……!
『お前もいつか、平和のためだと言いながら
「ぐっ……くうっ……」
声を荒げるわけでもなく、静かに語られる。
確かに、そんなの見たことないし、見たくもない。
俺の周りの誰か一人でもそんなことになったら俺はきっと悲しくて立てなくなる。
でも——。
「俺は、ラウトがそんなことになっても悲しいよ……!」
『っ! 本当に、うるさい! お前は!』
「っぅーーー!」
重みが、またさらに増す。
機体が飛んでいられない。
ああ、もうクソ! 同調って、ギア上げってどうやるんだよ!
わかんねーし、どうしたらいいんだ!
「ラウト! もうやめろ! 自分を傷つけるのは……!」
『黙れ! 調子に乗るな!』
「っぐ……ううう!」
でも、負けられない。
負けるわけにはいかない。
隣で歌うレナがいる。後ろには父上やは母上やジェラルドやランディやレオナルド、リーンズ先輩やトニスのおっさん、ギギやメメ、あとナルミさん……俺の国の人たち。
向いてないとわかっているけど、父のような王になると覚悟をして生きてきた。
平々凡々な、こんな俺だけれど——周りに支えられてここまで生きてきた。
本当に、本当に。
何度毒を盛られたことか。
その都度助けてくれた人たちがいる。
俺が、俺が守らなきゃ、今、ここで!
「う、お、ああぁぁぁぁっ!」
『! ギアを……!』
少しだけ視界が鮮明になった。
少しだけ押し返すことができた気がする。
もっと、もっと俺に、力を引き出すことができたら押し返せるのでは?
『その調子で気合を入れろ、ヒューバート』
「え?」
今の声は——。
『ラウト、俺たちはこの時代の人間ではない。だからこそ、死者として表舞台には出るべきではない。お前がどれだけ多くの人間を殺してきたとしても、もうお前は神に成ってしまったのだから自分を責めて背負う必要はない。それに、アベルトの想いまで受け継いだヒューバートはしつこいぞ。お前が諦めるまで、きっと諦めない』
「……デュラハン……」
声が聞こえた。
それに、地上からオールドミラーが上昇してきて五号機を攻撃する。
さすがに鬱陶しいのか、ランスを押し込もうとする力に翳りが見えた。
ここだ、とさらに踏ん張る。
「っらぁああああぁっ!」
『バカな……! この短期間で!』
気合を入れろとのことなので、入れて押し返そうとしたらなんとランスを押し返すことに成功。さっきよりだいぶ軽くなっていた。
デュラハンのおかげ……でもヤバい、少し目の前がくらくらする。
見下ろした地上には、片腕の落ちたサルヴェイションがオールドミラーを五基繋げたまま五号機を狙っている。
ライフル型にして、フォローしてくれているのか。
生きている……デュラハンは、生きてる。
よかった!
「そうだぞラウト、俺は、ラウトが諦めるまで、諦めない!」
『っ!』
「わたしもヒューバート様と一緒にラウトにはお説教をします! いい加減にしなさい!」
レナが叫ぶと、視界がより鮮明になった気がする。
五号機の動きが不思議と先ほどより遅く感じるし、見えた。
振り下ろされるランスを避け、続け様に右から回り込んで横薙ぎにしてきた盾を上に裂ける。
さっきまで操縦方法はわかるのに、上手く使えなかったけど……今は体が自然に動く感じだ。
なんだ、これ?
「うわ、あぶね!」
盾を避けたあと蹴り上げてきた。
さすが戦い慣れしているというか、攻撃の流れが美しい。
っていうか四号機って武器ないの?
機体から流れ込んでくる情報をまだ処理しきれていないし、見た感じから持ってないけど剣も魔法も使えない状態ってこれはもう——。
「ラウト!」
『!?』
ならば、と蹴りを避けられて掲げていたランスを再び振り下ろし、串刺しを狙っていた五号機のその腰に飛びつく。
あ、やば。
また背中の飛行用ブースター切れた。
再稼働ってどこ?
むりむり、全部同時にできない。
ナルミさーーーん!
「おえ、あぁぁぁぁあああああっ!」
『っーーー!』
そしてなんとそのまま……五号機を抱えたまま落ちる。
落ちるのこれ、落ちるね?
五号機の質量なら四号機が落ちても浮いてられるんじゃない?
って、思っていたらどうやらブースターが再稼働済みだったらしく、そのまま急降下していく。
そう、俺——四号機が五号機を抱えたまま、地上へ向けてダイレクトダイブアタックしている。
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