第54話 国境の要救助者と暗殺者(1)
そんな毒殺未遂事件から三ヶ月。
研究塔はとんでもないことになっていた。
「全滅か」
「ごめんね、ヒューバート。
「残り五つになりました」
恐ろしい……。
俺が休んでいたあと、遅れを取り戻すために研究塔に来れなくなっていたのだが、その間もジェラルドとリーンズ先輩は
報告書は毎日目を通していたが、一日に三回から八回も定着実験を行っており、集めた
悲しみ。
西の国境にはジェラルドが倒したワイバーンの素体もあるし、要救助者もいるし、どちらにしても行かなければいけない思ってたから別にいいんだけど。
それにしても上手くいきそうなもんなのに、なんでこんなに失敗するんだろう?
素体となる鉄人形も、かなりリクシマに似せて改良されているので、素体は問題ないと思うんだが。
「うーーーん」
「ヒューバートはなにがダメだかわかる?」
「ジェラルドが俺にそんなこと聞くなんて珍しいな?」
「もう自分でもなにがダメなのかわからなくなってる……」
「お、おおう……」
天才にも挫折とかあるんだな。
どちらかというと試しすぎて迷走してる感じ?
ジェラルドの表情が虚無。
「ランディはなにかわかるか?」
「こういうのはさっぱりわかりません!」
ですよねぇ。
レナとパティの方を見ると、二人も首を横に振る。
だよねぇ。
ちなみに先輩は——肩をすかして「やれやれ」になってる。
花の着ぐるみでやられるとやっぱり不気味なんだよなぁ。
仕方なく、ギギが出したこれまでの試験データと最初から今日までの素体設計図を並べてみる。
アニメや漫画は好きだけど、プラモを作るほどお金なかったし武器の名前とかエンジョイ勢の俺には難しくて覚えきれてないので、果たして役に立てるだろうか?
「…………? うん?」
「なにか気づいた!?」
「いや、気づいたっていうか」
ジェラルド、顔が近い。
くそ、イケメンだな。
「……ここ、魔樹を全体に覆った試作二号機からおかしくなってるな、って。特にこれ、
「うん、だから、もしかしたら魔樹の方が強いのかなって試作三号機以降は魔樹皮の面積を削ったんだけど……」
削り始めたのが四号機から十号機。
塩梅が不明すぎて
そう、これだ。
ジェラルドとリーンズ先輩が匙を投げたくなるほどに混迷を極めるきっかけは、多分この
「安定的なのは試作二号機だ。つまり、二号機のように表層を魔樹の皮で覆っていいんだよ。俺とジェラルドは成功体験があったから
「まさか……」
「そのまさかだジェラルド。あの時のワイバーン級の、でかい
失礼ながら、レナと比較して魔樹皮を人皮と考えた時、魔樹皮を減らすのは悪手だと思う。
人間、皮がなければばい菌が入って死んでしまう。
逆も然りなのではないか?
皮がなければ、中に流れる血が流れてしまう。
中身が溢れないように、しっかり覆った方がいい。
「なかなか大胆な発想ですね、殿下。試作だからよいものですが、これを量産することになれば国が破産しそうです」
「う、うーん、そ、そうだなぁ。っていうか、先輩こそ魔樹の皮、よくこんなに持ってましたね?」
「まあ、使い回していますしね。魔樹の皮は魔力で縫えば、好きな形にできるんですよ。コツはいるんですけどね」
「そう! すごかったんだよ、ヒューバート! リーンズ先輩! 魔樹の皮をピタって縫いつけちゃうんだ!」
ジェラルドが興奮するほどのリーンズ先輩の技量。
あの天才が、リーンズ先輩へ尊敬の眼差しを向けてキラキラしてる。
……見た目は生花を着ぐるみにしてるヤバい人だが、やはり単身で研究塔に入るだけあって見た目より中身の方がヤバいのかもしれない。
「あと、わたくしめは魔樹の研究もしてるんです。魔樹は高価ですからね。量産して安価に流通できないか、色々試しているので結構持ってるんですよ」
「わ、わあ、頼もしい……!」
「植物関係はお任せください。この国……いいえ、世界でわたくしめよりも植物に詳しい人間は、きっといませんよ」
た、頼もしいーーー!
……生花の着ぐるみでさえ、なければ……。
「あの、ヒューバート様、それでは……」
「ああ、今週の休み、例の要救助者を助けよう。レナには一番働いてもらうからな」
「は! はい!」
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