第55話 国境の要救助者と暗殺者(2)

 

 で、休日。

 出かける前に城のレオナルドへ出した手紙を、城からの使者に届けてもらったが……。


「いかがしましたか?」


 部屋に迎えにきてくれたランディが、答えのわかりきった質問をしてくる。

 もう何年も、同じ返答しか返ってこない。


「勉強で忙しいってさ。父上の誕生日パーティーも、ここ四年は予算関係で開催されてないからなぁ」


 かく言う俺や母上の誕生日パーティーも、経費削減で行われていない。

 メリリア妃だけは、実家から援助を受けてパーティーを行ってるけど俺と母上は呼ばれないんだよ。


「最後に会ったのは7歳の時か。レオナルド、元気かな……」

「殿下……」


 異母とはいえ、兄弟なのにこんなに会えないなんておかしくない?

 前世一人っ子だったから、一人で過ごすのは平気だけどさー。

 一人っ子だったからこそ、もっと構い倒したいというか。

 っていうか、俺は凡人なので王子教育マジ厳しいって気持ちはわかる。

 これ、常人に可能?ってくらい量が多い。

 一通りの座学が終わると立ち居振る舞いにまで口を出される。

 その上、体の成長に合わせて学ぶことも増えるし。

 剣は子ども用から大人用になるし、乗馬、チェス、婚約者への接し方、ダンス、狩り、武器も弓矢や槍の扱いも教わる。

 ただ、レオナルドは未だに婚約者がいない。

 血筋にこだわりを持つメリリア妃が、レオナルドと新聖女マルティアをレオナルドの婚約者に据えるとも思えないし……来年入学したらレオナルドをお茶会に誘って、そこで婚約者を探してもらうのはありかも。

 学院に入れば、メリリア妃の目も届きづらい。

 偶然を装って会うこともできるだろう。

 ……実際のところ、レオナルドは俺をどう思っているのだろうか。

 あの母親の思想に染め上げられて、俺のことを敵のように思ってる?

 だとしたら悲しい。

 俺は仲良くしたいのに。


「せめて元気かどうかを知りたいな」


 ということで手紙を出す。

 城に住む弟に、手紙で近況を聞くのは何年やっても慣れない。

 っていうか、一回くらいレオナルドの直筆の返事をくれてもよくないか?

 返事の手紙はいつも、メリリア妃の侍女が代筆で書いている。

 文字が同じなので、実質俺は何年もこの侍女と文通している状態だ。


「あ」


 そうだ、同じ侍女ならば、あの気性の激しいメリリア妃にずっと仕えている古株ってことだ。

 きちんとその人ように、別用紙でレオナルドの近況を教えてもらえないか——せめて元気かどうかだけ教えてもらえないかを頼んでみよう。

 挨拶が遅くなり申し訳ない。

 いつも私の手紙に返事を書いてくれてありがとう。

 あなたの立場を悪くしたくはないので、この手紙は捨ててくれて構わない。

 ただ、弟が健やかかどうかだけ、それだけは教えてほしい。

 いつも心配している。

 よろしく頼む——と。

 よし!


「待たせてすまない。これをレオナルドに届けてほしい」

「かしこまりました」


 城から手紙を届けてくれる使用人は、俺が月一で来る手紙の返事にすぐ、返事を書くと知っているので待っててくれる。

 今回も優しい眼差しで微笑まれた。

 どういう意味の笑顔だよあれ。

 聖殿派の人なんだろうか。

 お前ごときが聖殿派のレオナルド王子に返事をもらえるわけねーだろばーか!

 身の程を知れ!

 ……とか思われてる?

 どうも貴族の笑顔の裏ってのはわからん。


「……本当に、殿下はお優しい……」

「ん? ランディ、なにか言ったか?」

「いえ! そろそろ参りましょう」

「そうだな。しっかり稼いでくるとしよう!」


 ジェラルドとリーンズ先輩が無駄にした分を、しっかり取り戻さないと。

 事前投資だ、と父上に渡された結晶魔石クリステルストーンが残り五つは洒落にならん。

 絶対怒られる!

 父上は普段温厚だけど、母上のご機嫌と無駄遣いには敏感だ。

 率先して自分が贅沢を止めるような人なのだから。

 ……俺ももう少し大きくなったら、なにか商売を始めた方がいいかな。

 貴族も流行りを意識して投資とか、起業とかするつていうもん。

 俺が売れるもの——うーんなんだろ?

 女性向けでよくあるのは石鹸やポーションだろうか?

 あいにくこの世界にはどっちもあるんだよなー。

 石鹸は、疑問に思ったことないけど、元々の文明レベルを見たあとだと「そりゃあ残ってるよなぁ」としか……。

 ポーションも冒険者にありがちな、魔法アイテム。

 作り方はリーンズ先輩が知っていることだろう。

 冒険者かー。

 時間に余裕があれば、登録だけしておきたいかも。

 この世界の冒険者は、どっちかっていうと傭兵の意味合いが強い。

 こんな時代なので食い扶持を減らすために、冒険者ギルドに子どもが売られるのだ。

 ギルドは適正を見ながらギルド登録のパーティに預け、パーティ内でその子を育てる。

 騎士団では手が回らない晶魔獣討伐などを請け負い、戦闘が多いため死亡率はそれなりに高い危険な職業。

 しかし、魔法が使える貴族が稼ぐために登録したり、学院を卒業後に城や貴族の家に就職できなかった平民がいい稼ぎになると冒険者になったりもする。

 学院で魔法を習うから、そういう平民は冒険者ギルドでも重宝されているとか。

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