第53話 お見舞い聖女と(2)
「シャイン・リザレクション、っていうのはどうかな」
「[シャイン・リザレクション]……」
レナが俺の考えた厨二感たっぷりの名前を呟くと、レナの胸元がほわっと白く光る。
まるで魔法そのものが喜んでいるかのような反応に、俺まで驚いた。
「はい。これからは[シャイン・リザレクション]、と……そう言って使います。ありがとうございます、ヒューバート様」
「い、いや。気に入ってくれたならそれでいいよ」
レナが嬉しそうに俺を見つめてくる。
レナみたいな美少女にこんなふうに見つめられて、死ななくて本当によかったな、って思う。
すごく心配させたみたいだし、俺が倒れてあんなに泣き叫ぶほど……俺は、レナに大切に思ってもらっているんだ。
あ、やばい、泣きそう。
こんな俺のことを、そこまで想ってくれている女の子が今、目の前にいるんだ。
確かに俺は今まで「死にたくないから生き延びたい」って思ってたけど、この嬉しそうな笑顔を浮かべる、俺のことを好きでいてくれる女の子のためにも死にたくない。
レナを悲しませたくないから、死ぬわけにはいかない。
手を重ねると、レナも少し泣きそうな表情。
「本当に心配をかけて、ごめん」
「い、いいえ! わたしの覚悟が足りないのです。……ヒューバート様はいずれ王になられる方。わたしはその隣で、ヒューバート様をしっかり支えられる、王妃にならねばならないのに……泣いて叫んで、本当に情けない姿を晒してしまいました」
意識高ぇ〜〜〜!
いや、そうあっていただけると、王家としてもありがたいですけれど。
「……そんなことを言われたら、俺も警戒心が足りなかった。平民にも軽々しく話しかけてしまって、貴族の挨拶ルールを完全に忘れていたし。反省すべきことばかりだ」
「そんな! 平民の身分の皆さんも、ヒューバート様の気さくさに喜んでおられました! 聖殿はどんどん偉そうになるけれど、殿下は平民にも分け隔てなくお優しい、と」
い、いやぁ、しかし誉められたことではない。母上にも釘を刺されてしまったし」
父上も微妙な顔してたしなぁ。
まあ、「今の王家はそのくらいでもいいのかもしれないな」とか諦めた顔してたけど。
それに母上が怒ってぷんぷんするんだからもー。
「でも、わたしはヒューバート様の、そういう誰にでもお優しいところが好きです」
「レ、レナ」
可愛い、優しい。
病み上がりにそんな優しくされたら……!
「こほん! ……レナ様、そろそろ例のものをお渡しになられてはいかがですか。いつまでもお渡しにならないと、そのまま帰ることになりますよ」
と、口を挟んできたのはパティだ。
いや、はい、忘れてませんよ?
二人きりじゃないって、覚えていますよ?
「例のもの?」
「あ! そ、そうです! そうでした! ……あの、お茶会の前にお弁当を作って一緒に食べるお話をしたのを覚えておいでですか?」
「あ、ああ」
え? まさか?
その話題を今振ってくるということはまさか?
まさか!?
「サンドイッチを作ってきました」
FUOOOOOOOOO!?
……いかん、思わず脳内がフェスに。
「え! い、いいの!? 一緒に食べるの!?」
動揺しすぎて若干言語が不自由になった。
「はい、主治医の先生にもお許しをいただいております。ただ、完全に毒が抜けたかはまだわからないとのことなので、毒抜きのお薬はしっかり飲むように、とのことです」
「あ……ハーーーイ……」
苦いんだよなぁ、アレ。
まあ、お薬なので苦いのは仕方ないんですけども。
えげつねぇ澱んだ緑色なのが不気味すぎて、苦味と舌にまとわりつくような感触が最悪だから好んで飲みたいとは思わんのだが、まあ、まあ。
「というわけで預かってきました、お薬。先に飲んでください、だそうです」
「ウワァ……」
せっかくレナの手作りサンドイッチが目の前にあるのに!
これを先に飲んだらしばらく苦味が邪魔して味わかんないじゃん!
ウワァ、今日ばかりはガチで嫌だぁ!
「……レナぁ」
「はい、なんですか?」
レナの持っていたバスケットの中から、出てきましたよお薬が。
手渡されたのは、ビーカーみたいな大きさの入れ物にたっぷり入った液体。
毒抜きなので体外に排泄するように量が多いんですよ。
これを一日三回飲みます。食前に。
いくら解毒が早かったからと言っても、暗殺特化の毒蜂から毒を受けたので念には念を入れなければならない。
わかる。それはわかるとも。
でもまずいもんはまずい。
ご褒美が欲しい!
「この薬、苦くて味がわからなくなるんだ。だから、また学院でお弁当、作ってきてくれる?」
「! は、はい! 喜んで!」
よっしゃーーー!
俺のやる気が80ぐらいアップしたー!
受け取ったおどろおどろしい液体を、一気に飲み、飲み……飲ん……。
「うっぐ……うぷぅ……ぐぅ」
「が、頑張ってください!」
「んくくくくくく」
まずーーーい!
もう一杯! は、いらない!
「じゃ、じゃあ、レナのサンドイッチ、一緒に食べようか」
「はい! お口に合うといいのですが……」
「大丈夫だよ、レナが一生懸命作ってくれたんだろう?」
それに、味は一切わからない!
安心してほしい!
こんちくしょう!
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