第41話 国境の出会い(3)
「でへへ、でへへ」
「じゃあレナ、ぼくの[浮遊]でワイバーンを浮かすね」
「はい、浮かせたワイバーンをわたしが持ってきます。
「うん、数日かかると思うけど……へへへ〜、よかった〜! こんな大きな素体、もったいないもん〜」
そう言ってレナがスタスタと結界の外へと出て行く。
弱まっているとはいえ、あんなデカいワイバーンが王都の方に来なくてよかったなぁ。
それに、本当になんの迷いもなく
普通、いくら耐性があるって言われても絶対怖いだろ?
すごすぎない? 俺の聖女。
…………でへへ……俺の聖女。
「——え」
浮かぶワイバーンの尻尾を掴み、レナがこちらに戻る。
戻ろうとした。
しかし、レナは地面を見下ろして驚いた顔をしている。
「レナ? どうかしたのか?」
「これ、地面に大きな穴が……その下になにかあるんです!」
「ちょ……レナ!?」
ほーい、とジェラルドの魔法で軽くなっていたワイバーンをこちらに放り投げ、レナはワイバーンの死体が隠していた、抉れた大地に開く穴へと飛び降りた。
嘘でしょあの子!
たまに大胆だなー、と思ってたけどそんな行動力あるぅ!?
危なくない!? 危なくない!?
「レナ! 危ない! 戻ってくるんだ!」
「大丈夫でーす! ……あ、わあ、嘘! ……大変です、ヒューバート様! 穴の中に大きな結晶があって……その中に人がいます!」
「え!」
そう言われても、こちらにはなにもわからない。
穴の中になにがあるのか、レナの言葉通りなら結晶があり、その中に人が……人?
「いや、おかしいだろ……レナ、
「はい!」
はい!?
「生きてるの〜?」
「わかりませーん!」
ジェラルドが叫ぶ。
レナも叫び返す。
生きているか、わからない。
でもなんかもうこれ、フラグじゃないか?
セカンドヒロインのフラグ!
まあ、俺はレナが一番でハーレム要員は必要ないけどな。
そろそろ追加の女の子がいてもいいとは思う。
それになんかこう、いかにもイベントって感じじゃないか。
えー、どーーーするぅ〜〜〜?
助けるぅ〜〜〜?
……でもどうやって?
「レナ〜、助けられそうなのかー?」
「わかりませんが……やってみてもいいでしょうか!?」
さすが、人助けには積極的な聖女様……。
でも本当に大丈夫か?
結晶から取り出すって、結晶化治癒の魔法を使うつもり、なんだよな?
助けるのなら、万全を期した方がいい。
助けたあとどうする?
俺たちが乗ってきた乗り合い馬車に乗せるか?
そのあとは?
いきなり連れて帰ってきて、誰が面倒を見る?
生きているのかもわからないし、意識のないままならレナがあの穴の中から連れてこれる?
無理だな。
「レナ、落ち着け! 目標をつけて、今日は帰ろう!」
「え! で、でも!」
「生きているのか死んでいるのかわからないんだろう!? もし生きていたとしても、レナ一人でそこからこっちまで運んでこれるのかー?」
「あ」
はい、後先考えてないですね。
「見えないとぼくも[浮遊]でサポートできないよ〜」
「今日は俺たちだけじゃないし、助けたあとのことも考えないとー! 位置的にミドレの国の人かもしれないしー!」
「そうです、聖女様! 万全の準備をしても救出は失敗することがあります! お気持ちはわかりますが! ここはお戻りください! もしまたワイバーン級の晶魔獣が襲ってきては、対処できません!」
と、俺とジェラルドに賛成して叫んだのは護衛騎士の一人だ。
騎士団の人が言うと説得力が違うな……。
「レナ! 今日は結界補強と目標をつけて、帰ってから救助の話し合いをしよう!」
「そ、そうですね……勝手なことを言ってすみません……」
レナが人を助けたいと思う気持ちは尊いものだ。
誰も否定しない。
けれど、ここは国境。
晶魔獣がうろついていて、危険なのだ。
穴から出てきたレナは、一度こちらに戻ってきてから長めの木の棒を拾って
穴の側に木の棒を突き立てると、木の棒は瞬く間に結晶化した。
あれを見ると、やはり聖女の結晶化耐性すげぇ、となるな……。
「では、結界を強化します」
「ああ、頼む」
「〜〜〜♪」
歌声が響くと、結界が波打つように白く光る。
その波紋のような波が、幾度も幾度も発生しては広がり消えていく。
これが結界強化……まあ、結界の補修作業だ。
何人もの歴代聖女が、国境を回って結界を補強し続けてきて結晶化津波を防いでいる。
それでも
抜本的な解決方法がないのだ。
やはり
「……必ず、近いうちに助けにきます。待っていてくださいね……」
レナの呟きは、なんとなく、俺にとっても救いのような気がした。
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