第42話 新聖女たち

 

 無事に結晶魔石クリステルストーンを得た平民たちに、杖を作る魔導具店を紹介する。

 しかし、困ったことがまた発覚した。

 杖を作るのに、土台の木材が必要なのだ。

 その辺に落ちている木の枝ではなく、属性付与ができる魔樹マギという樹でなければならないという。

 そしてその魔樹、高い。

 三十センチ×五センチが五千ルク。

 ルクはうちの国の通貨単位。

 前世の円と同じぐらいの価値だから、だいたい五千円くらい。

 平民学生に五千円は、でかいよ?

 ひとまず今日は解散ってことで、俺たちだけ研究塔にやってきた。

 集めてきた素材を置かなきゃいけないから。

 で、その悩みをみんなに話したところ。


「バイトをさせたらいいんじゃないかな〜。お茶会の準備に人手がいるでしょう〜?」

「それだ!」


 と、いうジェラルドの天才的発想をランディに伝えると、快くOKしてくれた。

 お茶会は一ヶ月後の予定で、急ピッチ準備中。

 しかし、バイトはいい考えだな。

 定期的にお茶会や夜会の開催はしなきゃいけないから、その都度平民たちに手伝わせるか。

 平民たちも貴族のあれそれとかわかるだろうし、金も手に入る。

 上の学年の平民も巻き込めば結構な人手になるし、土地が狭くなって農業やってた人たちも廃業多発って父上が頭抱えていたし……。

 仕事か……国民に仕事を用意するのも王侯貴族の仕事なんだよな。

 仕事がないと陰謀論にハマりやすくなるって、前世の父さんが言ってたな〜。

 なんか「なんのリスクもなくすぐになんかやってる気になるから」って。

 国民が聖殿にハマっちゃうのも、そういう理由なのかもしれない。

 仕事かぁ……うーん。


「ヒューーーバーーートでんっかぁぁぁぁ!」

「よー、パティ。聖殿から結果が出たか?」

「はい! 新たな聖女に認定されたのは——平民出身の聖女候補、マルティアさんです!」

「マルティア……」


 あっれーーーーーーー?

 聞き覚えがあるぞぉ〜?

 あー、あれだぁー、『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』で、悪役王子ヒューバートを垂らし込んだ、平民の娘の名前だ〜〜〜。

 ワァ〜、偶然にしては出来過ぎだなぁ〜〜〜〜〜。


 ゲロ……。


 現実逃避はやめよう。時間の無駄だ。

 ……え? つまりなに?

 レナをお城で囲ったから、俺の未来の浮気相手だった平民出身のマルティアが聖女になっちゃったの?

 わ、わぁーおー。

 地獄の巡り合わせセンキュー。


「わたしは存じ上げない方ですね」

「能力の方が問題ないのであれば、別にいいんじゃないか?」

「しかし、平民出身ということで城下町は発表直後からお祭り騒ぎです」

「ああ、なるほどね」


 聖殿が平民出身の聖女を擁立したことで、「聖殿には平民の味方!」って宣伝してるようなものなのか。

 そうして王家をさらに孤立させ、平民の近い位の低い貴族も取り込もうという魂胆が丸見えでなんともかんとも。

 だが実際効果は高いだろう。

 平民ってわかりやすい政策の方に飛びつくから。

 これで後日王家が伯爵令嬢のレナを『王家の聖女』として発表したら、そもそも俺とレナの婚約を知らない平民の一部はあからさまに反感を持ちそうだな……。


「よし、ではレナ。申し訳ないんだが、護衛をつけるから、明日の放課後からパティと一緒に結晶病の患者の回診を再開してもらってもいいか? もうすでに四年間でレナの実績も名前も知れ渡っていると思うから、聖女に選ばれなかったことを不思議がる者も多いと思う。そういう人たちに『近く王家から発表がある』『今後もレナは聖女活動を継続する』と言って安心させてほしい」

「はい! わかりました! ……実を言うと、しばらくは学業を優先しなければ、と回診に行けなくてソワソワしていまして……」

「うん、そんな気がしてた」


 レナは各地の病院を回って、結晶病患者の治療を行うのが好きなんだもんな。

 まあ、治療が好きというより、『聖女の魔法』を使って人が救えることが嬉しいんだろう。

 治った人からの「ありがとう」が、レナにはなによりの報酬なのだ。

 まさに聖女。


「結界の方も、もし近隣住民に頼まれたら断らずに補修作業をしてきてほしい。患者の治療も大事だけれど、やはり結晶化津波はなにより恐ろしい」

「わかりました! 積極的に直していけばいいんですね」

「うん、でも、もし聖殿の聖女がやるのなら無理はしなくていいし、やりすぎないでくれ。学業優先は変わらず、だよ。成績が落ちる方が問題だと思って」

「うっ! ……わかりました」


 レナの能力と性格だと、聖殿が新たに認定した聖女の仕事まで奪ってしまいそうだからなー。

 対立は避けたいので、やり過ぎない程度にパティに見張ってもらおう。


「それから今日レナが見つけた結晶の中にいた人間? あれの救助だけど、父上と騎士団に相談してみるよ。こういうのはプロの方がいいと思う。けど、結晶化した大地クリステルエリア内だからレナの力は必要不可欠だと思う。その時は力を貸して」

「はい!」


 例の謎の人物に関してはもう少しレナに話を聞く必要もある。

 どんな状態で、どう助けるのが最適で、生きていた場合と死んでいた場合はどうするのか、とか。

 西なので、ミドレ国の国民の可能性もあるから、その場合はどうするべきか。

 まあ、普通に考えて帰れないから、今後はうちの国で生活してもらうしかないだろう。

 でも、その場合の扱い。

 レナの話だと「男の人か女の人か、よくわかりませんでした!」ということなので、かなり中性的な人物らしいし……。

 にいるのなら、あるいは——聖女——の、可能性もある。

 ミドレの元聖女、とか。

 結晶化耐性で、結晶化することはなかったけれど、身の回りのものがすべて結晶化してしまい抜け出せなくなった、みたいな?

 それだと死んでそうだよなぁ。


「とりあえず石晶巨兵クォーツドールの製造を頑張りつつ、お茶会だな」

「はい、そうですね」


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