第11話 一目惚れ(3)

 

「あ、あの、ヒューバート様は、どうして婚約のお話を受けてくださったんですか? わたしなんかより優秀な聖女候補は他にもいるのに……」

「え」


 聖殿側の陰謀だが。

 レナはそれを知らなかったのか?

 いや、待て。

 レナは「聖女候補は他にもいる」と言ってる。

 ……もしかして、今の時点でレナがこの国で最高峰の聖女になり得ると、聖殿は把握してないの、か?


「そもそも聖女こーほというのはどのようにして“ゆうれつ”が決まるんだ?」

「えっと、たいないの結晶魔石クリステルストーンの大きさ、と聞きました。わたしはあんまり大きい魔石ではないそうです」

「魔石は大きさが変わることはないの?」

「いいえ、体と同じように“せいちょう”することもあるそうです。でも、せいちょうしない人もいるのでなんとも……」

「へえ、そうなのか……世の中まだまだ知らないことがたくさんあるなぁ」


 漫画ではレナの体内結晶魔石クリステルストーンは胴体と同じくらいだった。

 聖女が体内に持つ結晶魔石クリステルストーンは、霊魂体アストラルと一体化ひているから見た目にはわからない——と説明があったな。


「体内の結晶魔石クリステルストーンってどうやって見分けるんだ?」

「聖殿の司祭様が霊魂体アストラルを視ることのできる魔法がつかえるのです」

「んん? 魔法であるのならば、教わればおれもつかえるようになるのかな?」

「どうなのでしょうか? 聖殿でのみ、使われる魔法だと思います」

「レナも魔法は使えるのか?」

「わたしはべんきょうちゅうです。聖女になるためには、魔法が“ひっす”ですので」

「そうなのか。おれもまほうはべんきょうちゅうだ」


 レナは回復や治癒、結界の魔法が得意だった。

 それこそチート級なのだが、それはひとえに彼女が幼い頃から血の滲むような努力をして身につけたもの。

 候補になったばかりみたいだから、レナはこれからたくさん努力してあのチート級の魔法の数々を身につけるのだろうな。


「聖女は聖女にしか使えない魔法がたくさんあるのだろう? レナはこれからたくさんべんきょうとれんしゅうをして、リッパな聖女になるのだろうな……」

「……わたし、聖女になれるのでしょうか……」

「? どういう意味だ?」


 漫画のレナはそれはもう国一番の聖女だったぞ。

 どうしてそんなことを言うのだろうか?


「聖殿には優秀な聖女候補がたくさんいるんです。わたしはその中ではサイカイイで……。神聖官の方々には鼻で笑われてて。それなのに、どうしてヒューバート様の婚約者にバッテキされたのかわからなくて」


 へー、そうなのか。

 そんなの聖殿の嫌がらせに決まってるだろーなー。

 あ、もしかして漫画のヒューバートは出会いの時にレナからこの話を聞いて鵜呑みにしていたのだろうか?

 俺と同じく寝る時間に「明日の予定婚約者の相手」って言われて約束の時間より何時間も早く来城されてビキビキに腹立ってるところにこんなこと言われたら、ヒューバートの中のレナのイメージはマジで最悪だろうしなぁ。

 俺はそんなの気にしないけど。

 っていうか、たとえ今の今までの聖殿の対応で腹が立ってたとしても、レナの可愛さで粉砕されてるというか。

 そのくらいレナは可愛い。

 国宝に指定すべき可愛さ。

 そうだ、国宝にしよう。


「だから、えっと、すごくたくさん、褒めていただいて、嬉しいのですが……わたしは、きっと……」

「おれの方こそレナを王家との聖殿のいざこざに巻き込んでしまって、申し訳ないと思う」

「え?」


 最下位、というのは多分本当なんだろう。

 そしてレナは努力で国一番の聖女になった。

 とても健気で頑張り屋だと、漫画に描かれていたからな。

 なにがそこまで漫画の中の彼女を駆り立てたのかまでは、わからないけど。

 少なくとも今この場では、王家と聖殿のいざこざが原因だ。

 だって——父上が昨日言ってた話とレナの話が違う!

 父上は「とても強い結晶耐性を持つ、将来聖女となるのは確実」っていう話だった!

 ハァーーーーーー! 姑息!

 聖殿なんて立派な名前なのに、中身はゴリゴリのゴミ溜まりだぜこりゃあ!

 腐り果ててんのは漫画で読んだ通りみたいだなぁ!


「でも、レナはすごい聖女になる。おれにはわかる。国一番の聖女だ。今はまだ結晶魔石クリステルストーンが小さいかもしれないけれど、せいちょーとともに大きくなるならレナは誰よりも大きな体内結晶魔石クリステルストーンしょゆうしゃになるだろう」

「っ、ど、どうして、そんなこと……わ、わかるんですか……? だって、わたし……!」


 漫画ではそうだったから、とは言えないよな〜。

 うーん、どうしたら説得力を持たせられるだろう?

 あ、そうだ!


「そんなの、おれを一目見てレナにそう思ったからだ! レナはかわいいからな!」

「え」

「うん、びっくりした顔もかわいい! 可憐だ! 世界一かわいい! こんなかわいい子と結婚していいなんて、おれの人生勝ったも同然だ」


 生き延びるためにも、レナを大事にするぞ!

 こんなかわいいなら余計大事にしなければな。


「手紙をたくさん書くよ。レナは聖女のしゅぎょーで忙しいと思うけど。聖殿にぼーがいされたら会いに行くし、会うのをぼーがいされたら、その時は……うーん……ドウシヨウ」

「……っ」


 無理やり会いに行く?

 でもそんなことしたら聖殿と王家の仲がもっと悪くなりそうだしなぁ。


「誰も、聖殿の誰も、わたしなんて……」

「え?」

「……いえ……わたしもヒューバート様に、たくさんお手紙を書きます。ヒューバート様も、王子様としてたくさんおべんきょうが、お忙しいと思いますけれど」

「本当!? 楽しみにしてる!」

「は、はい」


 こうして、婚約者との面談はだいぶ俺がやらかした感じで終わった。

 けどまあ、感触は悪くなかったと思う。

 嫌われた感じはしなかったからなー。

 いやー、それよりも俺の婚約者めちゃくちゃかわいい〜。

 生き延びられる気がもりもり高まってきたぜ!

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