第4話 変化(2)
ヤバイヤバイヤバイ。
なんとかレナとの婚約を回避しなきゃ!
婚約してしまったらストーリー通りになっちまう!
そうだ、まだ俺には早いですとか、なんとか、色々言って婚約しないって断れ!
「戸惑うのはわかる。だがこれは聖殿側からの申し入れ。今の王家にこれを跳ね除ける力はない」
「え!?」
「すまぬな……ルオートニス王家は、それほどまでに今、弱い。聖女を擁する聖殿なくして、国土も民も守れぬからだ」
「……っ!」
なんってこと……!
俺が想像していた以上に王家の権威は失墜していたのかっ!
「ち、ちちうえ、せーでんに“おおけ”の“けんい”がすべてうばわれたら、どうなるのですか……?」
「……よくて軟禁。最悪処刑。作物を育てても人口が変わらない。しかし土地は減るばかり。すでに口減らしで
「……!!」
「今、聖殿にすべての権威を奪われれば、王族は皆『民のために』と
「ちちうえ……」
父の——国王陛下の机の上には書類がいっぱいある。
それだけじゃない、指先にはインクが散っていて黒く汚れていた。
目の下にはクマ。
朝も夕もなく働いているのを知っている。
昨日の夜も「視察に行く」と言って夕飯を一緒に食べられなかった。
王家は、王族は、父は……こんなに頑張っているのに……。
「……っ」
疲弊した姿。
国を憂い、家族を憂う王にして父。
俺はこんなに真面目に国や民、家族を想う人の血を引いているのか。
前世、迎えに行ってやれなかった父は自分を迎えにきたせいで息子が死んだと知った時、どんな気持ちだっただろう。
親孝行もまともにできずに死んだばかりか、親より先に死んじまってさ。
国とか王とか責任とか、なんで俺がって思うよ。
自分さえ助かればそれでいいって、思ってたけどさ。
この人と母は、あの漫画では死んじまうんだ。
こんなに頑張って働いてるのに。
未来に、希望がない。
俺は——前を向く。
父をまっすぐに見た。
国王陛下のその覚悟に、俺は向き合わなきゃならない。
だって俺は、俺は……!
「……レナ・ヘムズリー嬢とのこんやく、お受けいたします」
「すまない。苦労をかける」
「いいえ。それが——おれがこの国の王子として、生まれてきた“ぎむ”なのですから」
俺は甘ったるいことを言ってる場合じゃないんだな。
顔を上げ、疲弊している父の顔を真っ直ぐに見て覚悟した。
俺はヒューバート・ルオートニスとして生まれてきた。
そして大切に育ててもらっている。
力を失い、衰退するばかりの王家。
近く、ルオートニス王家は完全な聖殿に呑み込まれてしまうのだろう。
まるで
家族を捨てなければ生きられない国民たちの怒りは、きっと王家が背負わなければならない。
俺は『救国聖女〜』のヒューバートのように、この国を終わらせるために生まれてきたのかもしれないな。
でも、それならそれで漫画みたいな終わらせ方は嫌だ。
せめてこの国の国民がこれ以上苦しまないように、帝国に逃そう。
帝国の国土はルオートニスより少し多めに残ってるって言うし。
……俺がこの国を、正しく終わらせよう。
「ヒューバート」
「はい」
「……。……いや……今後も励むように」
「はい!」
頭を下げて、退出する。
多分近々面会する場が設けられるだろう。
婚約が避けられないのであれば、俺はこの国の王子としてこの国と民のためになにをしたらいいのか、もう一度よく考えた方がいいな。
レナとの婚約が避けられない……なら、婚約するしかない。
そして破滅はレナとの婚約破棄、レナの追放が原因だ。
いや、まあ、元凶は俺の浮気だけど。
あ! つまり俺が浮気せずにレナ一筋で結婚して幸せになれば、ひとまず国の結界は維持されて侵食は抑えられる?
次世代に繋げられるかどうかは、正直怪しいところだけど……こうなったら絶対に婚約破棄しない方向で、頑張るしかないな!
「よーし、絶対破滅エンドを回避するぞー!」
でもまずはレオナルドに会いに行こう。
王家の状況を思うと、母親が聖殿に傾倒しているレオナルドの立場は俺より弱いはずだ。
まあ、そんな母親が常に側にいるから、俺はレオナルドとほとんど交流がないんだけど。
「ジェラルド〜」
「あ、ヒューバートでんか。レオナルド様、ダメでした!」
「やっぱりそうかぁ……」
後宮の西に行くと、戻ってきたジェラルドと遭遇した。
レオナルドももう七つ。
そろそろ後宮から出て、城の中で勉強や騎士団の訓練場で剣や魔法の訓練が始まってもいい頃なのだが。
「心配ですね。レオナルド様」
「うん……」
体が弱いわけでもないのに、ずっと母親の側に置かれて視野が狭くならないだろうか。
仕方なく、ジェラルドと城の方に戻った。
勉強は終わったが、午後からは剣の基礎の続きだ。
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