第5話 生き残りたい

 

「ヒューバートでんかは剣と魔法の“じゅぎょう”がお好きですよね」

「うん」


 元々体を動かす方が好きだったし、剣はともかく魔法は前世の世界にはなかったからな。

 ジェラルドも「ぼくもです」と微笑む。

 ああ、ジェラルドは勉強だけでなく魔法もすごい。

 魔力量が多いのもあるけど、操作と命令式を描くスピードが大人顔負けなのだ。

 異世界転生といえばチートだと思うんだけど、俺にはそんなのないんだよなぁ。

 なにせ、悪役王子なのでー。

 せいぜい、顔が多少整ってるくらいだろうか?

 それでもジェラルドの顔立ちには敵わない。

 ザ・普通。

 けど、この国を守る王になるってさっき決めた。

 俺は破滅エンドを回避して、この国を結晶化から守るんだ。


「魔法と、結晶魔石クリステルストーンのことをもっと調べれば、結晶化を治す方法とかも、わかる気がするんだ」

「え?」

「だって結晶化した大地クリステルエリアには結晶魔石クリステルストーンがあるだろう? 俺たちにみたいに体内に結晶魔石クリステルストーンがない人間にとって、魔法を使う時の“ひつじゅひん”。結晶化した大地クリステルエリアでしか採取できないんだ。きっとなにかつながりがあるんだよ!」


 って、思う。

 ファンタジーあるあるだろ?

 力説する俺に目を丸くしていたジェラルドだが、目線を逸らすと唇に指を当てがい考え始める。


「考えたことなかったです。でも、言われてみればなにかあるのかもしれませんね。魔法を使う以外の、結晶魔石クリステルストーンの使い道……ですか」

「そう! なんかないかなって、考えてるんだ。聖女みたいにけっしょうびょーを治したり、ケッカイを張れたりできたら、聖女一人にすべてを背負わせることもない。もっと聖女の“ふたん”を軽くしてやれるんじゃないかな」


 漫画の中のレナは、過労だった。

 だった一人で国中を歩き回り結界を補修し、結晶病患者を治療して、義務で婚約した俺に会いに来たりと毎日大変そう。

 その上、ヒューバートと婚約したことで実家には「聖殿を裏切った」と罵られて居場所をなくし、聖殿からは「王家を乗っとる手伝いをしろ」と命じられる。

 レナは聖殿の陰謀に気づき、それを拒否。

 聖殿でも居場所をなくして、実家からも聖殿からも虐げられていた。

 いやー、レナの生活環境もろくでもねぇなぁ……。


「……今の聖女様は力が弱っているんだろう?」

「はい。ごこーれーですからね」

「王家にもなにか、手伝えることがあればいいって思うんだ」


 それは、将来のレナのためにも、だけど。

 だって婚約破棄の原因は俺の浮気だ。

 レナが国中を歩き回り、留守だったのをいいことに可愛い平民に入れ込む。

 なら、レナの生活環境を変えればいいんじゃね?

 漫画通りなら、苦境にも弱音を吐かない芯が強い女の子だ。

 正殿の言いなりになって、王家——ヒューバートを懐柔すれば居場所を失い虐げられることもなかっただろうに、拒否した。

 そんな誠実な女の子を、漫画のヒューバートは知らずに裏切る。

 でも俺は漫画で読んだから知ってるよ。

 レナはいい子だ。

 破滅エンド回避のためにも、仲良くしたい。

 そしてそのためには、媚びる!

 俺は浮気しないので、どうか国から出て行かないでください!


「ヒューバートでんか、すごいです」

「は?」

「ヒューバートでんかはやっぱり優しいですね! ぼくも大きくなったらヒューバートでんかの“じゅうしゃ”になれるように、もっとたくさん“べんきょー”をがんばります!」


 子爵家のジェラルドは俺の従者にはなれるかもしれないが、側近になるには家の爵位が足りない。

 だから漫画ではランディがヒューバートの側にいたんだよな。

 ランディにはもう会っているが、宰相の息子ってだけでやはり信用度はジェラルドの方が高い。

 とはいえ、父の様子から城の中の王家派を増やした方がいいと思う。

 いずれ側近にしなければならないのなら、味方に引き入れておいた方が無難だよな。


「よし、ジェラルド。午後の訓練にはランディも呼ぼう」

「そうですね。呼んできます!」

「うん、悪いな」

「いいえ! 先に行っててくださいー」


 素直で優しい。

 やっぱり側近にはジェラルドがなってほしいよぅ。

 ——顔を上げて、窓の外を見上げる。

 廊下は閑散としていて、ジェラルドの足音が遠のいていく音が今も響いていた。

 やることは山積みだけど、自分の未来がわかってるならその回避方法もわかるってもんだ。

 破滅エンド回避ものの悪役令嬢ものもたくさん読んできたんだ、きっとなんとかなるさ!

 問題は俺が“令嬢”じゃなく、いずれ国を背負う“王子”ってとこだけどな!


「…………生き残りたい……」


 某SFアニメの主題歌が、脳内で再生された。



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