ナニカヲワスレテイル
漉凛
第1章 ハジマリ
第1話
-全ての時間が止まった世界に私は立っていた。
街を歩く人々が止まり、空を飛ぶドラゴンは空で動きを止めている。先程まで揺れていただろう木々も動きを止めて、まるでその状態で全てが凍ってしまったように全てのものが止まっているようだ。
「...」
あまりの惨状に言葉を失っていると後ろから声をかけられた。
「ゼロ、何をしているんだ?早く行くぞ」
振り向くとそこには黒髪に不思議な黒とも紫ともいえる目の色をした男が立っていた。
そこに立っていたのは幼い頃から仲良くしているムゲンだった。彼とは何となくいつも一緒にいて、性格が正反対な割には馬が合う、そんな不思議な腐れ縁の親友だ。
どうやら私たちは向かう場所があるらしい。私は首を傾げてムゲンに聞いた。
「一体どこに行こうとしているのかな?」
彼は説明が面倒だというふうに眉間に皺を寄せた。しかし皺を寄せながらもムゲンは答えてくれる。
「イチのところだ」
聞いていてはなんだが、私はイチという者は知らない。聞いたこともない名前が出てきたので、ムゲンの知り合いなのだろう。
ムゲンは当たり前のように時の止まった世界をズカズカと歩いていく。私も全てが凍結したように固まったまま動かない人々を最初は見ていたが、次第に飽きてきたのでそのまま前を向いて歩くことにした。
数十分は歩いただろうか、街の景色から森の景色に変わり、森の奥深くの開いた地形に神殿のようなものが立っているのが見えてきた。
ムゲンは迷いなく、真っ直ぐに進んでいく。神殿のようなものは廃墟と化した建物だった。近くまで行かなければ建物の滅びなどがわからないほど、かなり綺麗な形で保存されていたのだ。地面を踏むとジャリッと砂利を踏む音が聞こえる。
ムゲンはそのまま廃墟と化した神殿のようなものに入っていった。やはり外から見た時と同じように、異様な程に綺麗にされている廃墟だった。地面はガラスでできているのか、下の方に天使の飛んでいる絵のようなものが描かれている。
祭壇のようなところまで行くと、ムゲンは奥の扉のようなものに手を当てた。すると、扉のようなものが光だし、光終わったそこにはただ奥へと進む空間があるだけだった。
全てが真っ白で何も無い空間に私たちは足を踏み入れた。すると、後ろにあったはずの廃墟はなくなり、前も後ろも真っ白な空間だけになった。
ムゲンは私の方を振り返って指を地面に向けた。そして久しぶりに口を開く。
「ゼロ、お前がここに立て」
私は言われた通りに指さされたところに立った。
すると、霧のようなものが現れ、霧が晴れると目の前には真っ白な城がそこにあった。
「さあ、もうすぐ目的地だ」
ムゲンはそう言ってまた歩き出した。
それから少し歩くと少年のような男が真っ白な椅子に腰をかけて座っていた。彼は何かの本を読んでいたようで、私たちに気付くと顔を上げて微笑んだ。
彼の瞳は深紅の赤で何もかもを見透かすような目をしている。銀髪の長い髪の毛を後ろで緩く結んでいて、どこか大人のような雰囲気を感じる。
「ああ、やっと来たんだね。待ってたよ」
彼は形のいい唇を開いてそう言った。
「君と私は会ったことがあるだろうか?」
私は唐突に思ったことを聞いてみる。
「そうだね、私たちは既に何度も会ったことがあるよ」
彼は私の質問が最初から分かっていたかのようにすぐにそう答えた。
どう話を続けていいかわからず私はムゲンの方を見た。彼は静かに私と少年の会話を聞いているばかりで、全く会話に入って来なかったのだ。だからどうしたのだろうと思い、ムゲンのいる方向を見たはずなのにそこには誰もいなかった。
ナニカヲワスレテイル 漉凛 @korin315
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