第43話

 「あ、いたいた」


 探索局職員にヨークのパーティー加入を打診された翌々日、フィル達はいつものように探索局の受付の列に並んでいると、聞き慣れた声が聞こえてきたのでフィルはそちらの方へと顔を向ける。

 すると、声の主はフィルの想定通りエリスだったようで、いつもの四人でフィル達が並ぶ列の方へとやってくるようだった。

 やがて、フィル達の前に四人が来ると、ベネットが一歩前に出て頭を下げる。


 「先日世話になった件で改めてお礼を言いたくて。来てくれて本当に助かった。ありがとう。君たちが来てくれなかったら私達はクァールにやられていただろう。それでその…」


 「妾も感謝しておる。そして妾たちに足りないものが分かったというわけじゃ」


 「ふーん、それで?」


 礼を述べた後に何やら言い澱んでいる様子のベネットにシズカがフォローを入れる。

 これからベネット達が話そうとしている本題は、彼女達の相談の結果、ベネットから伝えた方が成功率が高いとのシズカの意見の元進められていることなのでシズカがフォローするのは当然の流れと言える。

 レオはその様子に訝しげな視線を向ける。レオに腹の探り合いをする気などないのだ。


 「あたし達には物理攻撃、ううん、シズカの妖術に頼った偏った攻撃手段しかないってことよ。それであんた達ってわけ。レオの実力はもちろん申し分ないし、びっくりしたけどフィルの弓の腕も凄いってことがわかった。そっちも二人だけだしこっちも足りないものが補える。だからあんた達のパーティーに加えて貰おうと思って」


 「現状では私達は君達に比べて実力不足だというのは分かっている。それでもこれからも努力して君達には損はさせないつもりだ。だからどうか私達に力を貸してほしい」


 「またあの小刀を貸してほしい」


 突然の申し出にフィルは思考が停止してしまう。

 すると、レオはそういうことかと納得しどうするとばかりに肩をフィルの肩にぶつけてきて促した。


 「嬉しいですけど、本当に僕達でいいんですか?」


 「君達が信頼に値する者達だということは先日の件でも明らかだ。よろしく頼む」


 フィルは申し出は嬉しいが、本当に自分達と組んでいいのかが不安なようだ。

 それでも尚頭を下げてくるベネットに対して困惑した顔をしたフィルはレオに助けを求めるように目を向けた。


 「別にいいけどよ、こっちも一昨日ヨークを入れてくれないかって頼まれててな。まだわかんねーけどそれでもいいのか?」


 レオはフィルがこのベネットとか言う女騎士風の娘のことを気に入っていることを知っている。

 だから、別にパーティーに入れるのは構わないのだが、ヨークが入るかもしれないことを先に言っておく必要があると思っていた。

 養成学校の終盤頃にはヨーク達の評判は素行面で言えば最悪に近くなっていた。

 先日のクァールの件でヨーク達の助けに入っていたのでないとは思うが、ベネット達がヨーク達となんらかの確執があった可能性もある以上、レオとしては後で知って揉めるより先に懸念を回収する必要があると思っていた。

 そして、懸念ならもう一つある。


 「うーん、ヨークねー。心バッキバキに折れてたから少しはましになりそうな気がするわね」


 「うむ、あ奴のことは妾も好かんが、エリスに治療されてからはどこか変わったように感じたの」


 「シズカ、それはエリスの歌のせい」


 「む、そうじゃったか。では会ってみて駄目そうじゃったら妾達も考えるというのはどうじゃ」


 「考えるというのは?」


 女性陣の話が盛り上がり始める。

 フィルはこんなに話が長引くなら会議室でも借りれば良かったかなと思い始めていた。

 どう考えても列に並んでいるときにする話ではなく、微妙に目立ってきている。


 「まあ、待て。ここじゃ邪魔になってんだろ。場所変えようぜ」


 そんなフィルの居心地の悪そうな気配を察したレオは今日は迷宮行けないかもしれないなと思いつつ場所を変えるように提案する。

 

 「あっ、そうね。そうしましょう」


 周りの目に気付いたエリスが返事をする。

 近くにいい店があるとエリスに連れてこられた場所は喫茶店だった。

 どうやら四人で探索した後にたまに寄るらしい。

 改めて席に座った六人の中で最初に口火を切ったのはベネットだった。


 「ヨークの件は彼の態度次第というのは君達も同じなのだろう? それで君達がいいと思うなら我々も文句はない。そもそも一番嫌っていた者は死んでしまったしな…」


 やっぱり確執があったのか内心思いつつレオは頷く。

 

「そうか。じゃあこいつはオレがいるとこに入るのに納得してるのか?」


 レオが顎で指したのはマロンだ。

 確かにいつも口喧嘩してるよなあとフィルも思った。


 「白猫がいるマイナスよりフィルがいるプラスの方が大きいと判断した。問題ない」


 「ほう、いい度胸してるじゃねーか」


 「まあまあ」


 また険悪な雰囲気になり始めた二人をフィルが慌てて止める。


 「マロン、昨日はそんなこと言ってなかったじゃないか。ちゃんと認めてるんだろう?」


 「う、ごめん。本心じゃなかった。悔しかっただけ」


 「そーかよ」


 ベネットに諭されたマロンは素直に謝る。

 レオも一応は受け入れたようだ。


 「レオはいいの?」


 フィルはレオの方はどう思っているのだろうかと疑問に思って問いかける。


 「あ? オレは別に何とも思っちゃいねーよ。あっちが突っかかってくるから相手してやってるだけだ」


 余り他人に興味のないレオからすれば子犬がじゃれてきている程度の認識なのだろう。

 興味があるのは迷宮と自分達が強くなることで、自分の懐に入れたのなら興味も持つだろうが、基本的には他にはあまり興味が無いのがレオという男だった。


 「へー、そうだったんだ」


 「そういうとこがムカつく」


 いい雰囲気で会合の場が進んでいく。

 フィルは実のところ凄く喜んでいて、剣を捨てて弓に変えたり辛いこともあったが頑張ってきたことが報われた気がしていた。

 

 「じゃあヨーク君の結論が出てからってことでいいかな?」


 「そうだな。決まったら連絡してくれると嬉しい」


 「わかりました」


 彼女達はベネットの装備がボロボロなので今日は迷宮に行かないようだ。

 そういうことならとフィルは装備の修理を申し出て、遅くなってしまったが迷宮に行くために彼女達と別れた。

 この数日でフィル達のパーティーを取り巻く状況が急展開を迎え、いい方向に進んでいるのを実感する。

 初級探索者に上がるまではあと半月ほどに迫った今、フィルは、今後の探索者生活が輝いているように思えた。


 

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