第44話
フィル達が初級探索者に昇級するまであと十日ほど。
探索局の職員からヨークの説得が出来たので話がしたいとの伝言を受け取り、フィル達は以前使用した探索局の会議室へと足を運んでいた。
「やあ、わざわざすまないね」
「いえ、こちらも気になってたことですから」
「そうかい? そう言ってくれると助かるよ」
前にも会った探索局の職員とフィルは挨拶を交わす。
決まり切ったような建前の挨拶だが、普段から取引先との対応などもしているフィルにとっては慣れたものだ。
「ヨーク君の説得が出来たって聞きましたけど」
「うん、そうなんだ。君達の条件も全て飲んでくれてね」
「へえ、よく説得できたな」
職員によると、レオの挙げた条件もヨークは受け入れたらしい。
最初は、ゴンソやサブという幼馴染を含めた仲間を失ったことによる悲しみに加え、パーティーメンバーを全て亡くしたことで幼い頃からの夢だった特級探索者への道が閉ざされたと思い塞ぎ込んでいたそうだ。
迷宮探索中に一人だけ生き残るというのは、ゲン担ぎなんかを重んじる探索者にとって印象が悪くなるのはままあることだ。
そんなヨークが新しくパーティーを作ることもどこかに加わることも難しいことは分かっていたようで、このまま探索者を引退することも考えていたようだ。
その懸念は探索局の職員達も気付いていたからフィル達に話を持ってきたわけだが、ヨークとしてもこの話は半信半疑だったらしい。
ヨーク達はフィルを見下していたし、そんなヨークには出来なかったクァールの討伐という偉業を成し遂げ自分達よりも実力があることを証明したフィル達が仲間に加えてくれるというのだ。
ヨークを加えるメリットもありそうには思えなかったし、自分がもしその立場なら受け入れるとは到底思えなかったのだから無理もない。
しかし、職員の熱心な対応により志半ばで散った仲間たちの無念を晴らしたくないのかという言葉と、再び特級探索者を目指すチャンスをふいにするのかという言葉が決め手になり前向きに考えるようになったらしい。
レオの出した条件も、英雄の子孫だというプライドを捨て一からやり直すいい機会だと捉えられるようになり受け入れることに決めたようだ。
事情を聴いたフィル達もこれなら大丈夫そうだということになり、ヨークに一度会うことに決めた。
「実はヨーク君もここに来ていてね。呼んでくるからちょっと待っててくれないか」
用意のいい職員にフィルは驚き、レオは呆れた様子で溜め息をついた。
すぐに戻ってきた職員の後ろにはヨークが立っていた。
ヨークはフィル達と目線を合わせると職員の前に出て頭を下げた。
「こないだは助けてくれて感謝する。そして、今までの非礼を詫びさせてくれ。申し訳ありませんでした」
ヨークは最後、今度は深く頭を下げた。
「もし、許してくれて受け入れてくれるなら僕は、いや、俺はチャンスを与えてくれた君達を守る盾として全力を尽くさせてもらうつもりだ。よろしくお願いします」
ヨークが途中で一人称を変えたのは一からやり直す決意の表れだろう。
フィルは笑顔でレオはにやりと笑みを浮かべている。
それをヨークは自分の心意気を買ってくれたのだろうと解釈してほっとする。
「もう僕は気にしていないよ。これからよろしくね、ヨーク君」
「フィル…。君付けなんて他人行儀は止めてくれ。ヨークと呼んでほしい」
「あ、そうだよね。もう仲間だもんね。わかったよ、ヨーク」
「ああ、よろしく」
フィルとヨークはがっちりと握手する。
その様子を見ていたレオは先程と変わらぬ笑みを浮かべながら口を開いた。
「まあ謝らなければいけない相手はフィルだけじゃないんだけどな」
「へ?」
「あはは…」
ヨークは口を半開きにしながらフィルに顔を向けた。
違った。レオのあの笑顔はヨークの心意気を買ったわけではなく、この為のものだったのだ。
フィルは苦笑を浮かべている。
「どういう意味なんだ?」
ヨークの問いに対して、先日ベネット達ともパーティーを組むことになったフィル達がヨークの処遇に対する話をしたところ、彼女達もヨークからの謝罪を希望している旨の話をフィルが伝える。
「そういうことか」
ヨークとしては心当たりがありすぎた。
探索者に成って初日の出来事だ。
完全にゴンソが悪かったあの件は、最初成り行きが分からなかったヨークはゴンソの肩を持ってしまった。
その後事情を知ってからも、舐められたら終わりという探索者の風潮とプライドが邪魔をして謝罪していない。
ヨークとしては、彼女達にもクァールから助けてもらった恩がある。
パーティーを組むことになるのは気まずいものがあるが、謝罪するのはヨークとしてもやぶさかではない。
「わかった、謝罪しよう。いつ会うんだい?」
「えっと、これからかな」
「えっ?」
フィル達はこの後、ベネット達と待ち合わせをしていた。
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