第28話

 ベネット、エリス、マロン、シズカの本年度の第三探索者養成学校で女性のみのパーティーとしてはエルフ四人組に続く二番目の評価を受けた一行は、獣の楽園へと探索に来ていた。

 目の前に広がるのは広大な草原、そして人。所々で若い探索者達が獣型の魔物と戦闘を繰り広げている。

 初めて踏み入れた迷宮内は不思議なものに溢れていた。

 洞窟内に入ったはずなのに太陽が降り注ぐ外の風景。見渡す限りに広がる草原。あちこちに存在する魔物。そして魔物と命を削り合う探索者達。

 ベネット達は、その光景に圧倒されていた。


 「こんな所で突っ立ってんじゃねーよ。邪魔だ、貴様ら。どけ」


 背後から乱暴な言葉を投げかけられたベネットは眉をひそめて振り返る。

 苛立ちは感じていても通行の邪魔になっていたのは確かなので、ベネット達は道を譲って謝罪した。

 それが例え、昨日まで毎日顔を合わせていたいけ好かない者達だったとしても。

 とはいえ、初めての迷宮の景色に感嘆して立ち止まっている新人探索者はそこら中にいる。ベネット達を標的にしていたのは間違いなかった。


 「おいおい、びびってんのかよベネットちゃんよぉ。怖かったら抱きしてやろうか? 裸でな」


 「おい、ゴンソ。お前趣味悪いぞ。こんな筋肉女抱いてもゴツゴツして気持ちよくないだろ」


 「違いねぇ」


 何が楽しいのか下品な笑い声を上げるゴンソとサブ。

 そう、そこにいたのはレオにぼこられベネット達にも模擬戦で負け続けて荒んでしまったヨーク達のパーティーだった。


 「随分な物言いだな。模擬戦の時のようにしてやろうじゃないか」


 堪忍袋の緒が切れたベネットが、剣を鞘から抜き放つ。ここまで馬鹿にされたら無理もないことだ。

 迷宮内で場を収める者は存在しない。

 魔物の横取りなど対人トラブルが絶えない迷宮内では、時には殺し合いに発展することもある。

 怪我を負う程度であればそれほどの罰を受けることはないが、殺してしまったらそうはいかない。

 証拠や証人が無ければ不問にされることもあるが、防具についた傷などを見れば戦ったのが人か魔物かを判別するのは容易いためまずばれる。

 同じ階級の探索者同士の戦闘なら全くの無傷というわけにはいかない。もしばれないとすればソロの探索者を不意打ちで倒すぐらいだろう。

 それに、迷宮の入り口周辺ということもあって人眼があるこの場では殺し合いにまでにはならないだろうと判断した若い探索者達は、面白い見世物が始まったとばかりにベネット達を遠巻きに見物し始めた。

 

 「いつまでも見下してんじゃねーぞ。模擬戦と実戦は違うってことを教えてやるよ」


 「僕がいることを忘れてもらっては困る。僕のパーティーメンバーを馬鹿にされて黙っているわけにはいかないな」


 ゴンソが威勢のいい言葉を吐き、ヨークはヨークで頓珍漢なことを言い出す。

 考え事をしながら最後尾を歩いていたヨークは実のところ話の流れが分かっていなかった。

 しかし、最後のベネットの言葉は聞こえていたので、どうやら仲間が馬鹿にされたのだと思ったヨークは、特級探索者になると宣言した自分が他の探索者に、ましてや同期の、しかも女性の探索者に舐められるわけにはいかないと、そんなプライドが刺激されて先程の台詞が口から出ていた。


 「ふん、どうやらあのとき誘いに乗らなくて正解だったようだ。まさかヨークもここまで愚かだとは」


 「本当ね」


 「同意」


 「主ら、覚悟はできておろうな?」


 マロンにシズカ、エリスまでもが臨戦態勢をとる。

 一触即発。

 まさに今、両者がぶつかろうとしたその時。


 「迷宮探索局だ」


 「お前らそこまでだ」


 息を切らせた若い探索者を引き連れた迷宮探索局の職員たちが五人、両者の仲裁に入った。


 

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