第27話
ティナ達四人のエルフの少女は、初の迷宮探索の場としてスライムの森へ来ていた。
「初めての迷宮探索、張り切っていこー!」
「おー!」
「お、おー」
「参りましょう」
元気なティナの呼びかけに各々が反応を返す。息が合っているのかいないのか良く分からない返答はいつものことだ。
スライムは物理攻撃を無効とする性質に加え、なんでも溶かすと言われるほどの消化液を飛ばすことから近接職は邪魔でしかないと言われる程の一見すると凶悪に見える魔物である。
厄介なことこの上ないが、消化液は数メートル程の射程しかなく遠距離アタッカーにとってはいい的でしかない。
しかも、魔法攻撃にはすこぶる弱く、初歩の攻撃魔法でも倒せることから魔法型の遠距離アタッカー限定ではあるが、ビギナー探索者でも倒せる魔物として認知されている。それ故、スライムの森はビギナーダンジョンに認定されている。
魔法職がいないパーティーは行かなければいいだけなのでこの認定は妥当なものだろう。
魔法型の遠距離アタッカーにとっては魔法の練習と小遣い稼ぎを兼ねて狩りに行けるのでパーティーでの探索が休みの際にソロでここに訪れる者もいるぐらいだ。
しかし、スライムを倒す際に気を付けることが一つある。
「いっけええ! サラマンダー!!」
「ちょっ!」
「えっ」
「フィナさん!?」
スライムを見つけたフィナの先走った号令に驚くティナ達三人。
フィナの精霊魔法で呼び出されたサラマンダーは、炎を纏ってスライムに向かって突っ込んでいく。
サラマンダーが通り過ぎた後には、ジュッっと音を立てて蒸発していくスライム達の姿があった。
「フィナちゃん、スライムに炎は駄目だった言ったでしょう?」
「えー、でも全部倒せたじゃん」
「そ、素材がー」
「フィナさん、流石にこれは擁護できませんわ」
そう、スライムは火系統の魔法で攻撃すると蒸発して消えてなくなってしまう。
スライムから採れる素材は、その体を構成するゼリー質の粘体である通称スライムゼリー。梱包材から食材まで幅広い用途のあるスライムゼリーは重宝される。
消化液が残っていて危険ではないかと思われるかもしれないが、スライムは死亡すると消化液が体から零れ落ちるので、スライムゼリーを水で洗ってしまえば問題はない。
そしてフィナは、スライムゼリーごとイフリートの炎で焼き尽くしてしまったので三人に責められているのである。
「だって焼き払うの気持ちいいじゃん。それに剣で切れないのに風魔法だと切れるって意味わかんないし」
「それはそういうものと思って頂くしか」
フィナのあんまりなメタ発言にティナとニーナは言葉もなく、レナも困ってしまう。
それならなんとかフィナを説得したティナ達は、順調にスライム狩りを行うことが出来るようになった。
シルフの魔法でスライムを刻み、ウンディーネで消化液を洗い流す。そんな一連の流れを繰り返すことでどんどんスライムゼリーが集まっていく。
「あっ、薬草発見」
スライムの森の副産物である薬草は、森の至る所に自生している。これも収入源としては侮れないものだ。
自然と共存するエルフにとっては植物は慣れ親しんだものでその植生にも詳しい。
なので、彼女達は薬草も次々に見つけていった。
「もう入らないかなー」
「そうですね。今日は引き揚げましょうか」
探索者用のバックパックもいっぱいになったことで彼女達は今日の迷宮探索を終わりにすることとする。
探索者初日の成果としては、かなりのものとなった。
こうして彼女たちの快進撃は続いていくことになる。
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