第26話

 マーサによる弓の指南を受けた次の日、フィルとレオは再びゴブリンの洞窟へとやってきていた。

 フィルは腰に小刀を携えているのは変わっていないものの、肩にはエルフィンボウと矢筒をかけるといった前回ゴブリンの洞窟へ探索に来たときには無かった装備を追加している。


 「昨日作った分じゃ足りなかったから鏃がないのが不安だなあ」


 「ゴブリン程度なら鏃なんてなくても刺さるだろ。それよりもまず当てられるかだな。動く的に撃ったことないんだろ?」


 昨日フィルは帰宅した後、レオに改めて謝罪し、レオも気にしてないと返したのちに今後の迷宮探索について話し合った。

 それでわだかまりが消えた二人は、普段通りの関係に納まっている。

 また、フィルは話し合いが終わった後に青鋼での鏃作成に取り掛かったのだが、流石に一日で数を熟せるわけもなく今日は鏃の付いてない木製の矢を持参している。

 そして、鏃がないことに不安を漏らすフィルであるが、レオとしてはまず魔物に当てることが第一であり、ゴブリンを倒すことまでは期待していない。

 ゴブリンも生物である以上、矢が当たれば痛みを感じるし、それによって動きが少しでも止まれば十分なのである。


 「それもそうか。チェインメイルを着ていつもよりも体が重いしまずはそこにも慣れないとね」


 「ああ、練習だと思っていいぜ。まずは良く狙って当てることからだな」


 「うん、ありがとう。頑張るよ」


 先日の探索だと多くてもゴブリンは三匹ほどだった。

 その程度ならレオが一人でも余裕を持って捌ける数なのでフィルが外しまくっても問題はない。

 まずはフィルが弓に慣れること、戦闘に慣れることから始めることにしたのだ。


 「よし、じゃあいこうぜ」


 本日の迷宮探索が始まった。

 十分ほど迷宮を歩いていると、レオがゴブリンの気配に気づいた。


 「フィル、落ち着いていけよ」


 「う、うん」


 初の弓での戦闘ということでフィルはやはり冷静にとはいかなかった。

 ゴブリンが走って迫ってきていたのだが、それが思ってたのよりも速く、狙いにくかったということもあった。

 フィルが放った一矢は明後日の方向に飛んでいき、洞窟の壁面にぶつかった。

 慌てて次を撃とうと戸惑っているうちにレオがゴブリンを全部倒してしまっていた。


 「ごめん…」


 「まずは慣れるとこからだ。あとはオレとフィルに支援魔法を使ってから撃つようにしようぜ。今はいいけどこの先基本になるだろうからよ」


 「あ、うん。そうだね」


 レオはフィルにより実践的な、今後の立ち回りについての訓練という位置付けでゴブリンの洞窟を探索するつもりでいる。

 そのため、今は必要がないもののいずれ必要となる支援魔法を使わせてから行動するように意識付けをするつもりだ。


 (そうだ。僕は支援職なんだからそこから始めないと)


 フィルは、改めて自分の役割を意識して行動するように心がける。

 そして、再びゴブリンと遭遇する。

 支援魔法を掛ける分、初動を早くする必要がある。

 フィルは、支援魔法を二人に掛けてから弓を放つ。今回は魔法を掛けるのが遅すぎてレオが接敵する間際で弓を射ることになってしまった。

 そして、その矢もゴブリンには当たらず脇に逸れていく。


 (今のは遅かった。次はもっと速く)


 フィルは戦いの度に調整していく。

 狙うのは一番遠くにいる敵がいいようだ。当たらずとも相手は警戒して接近するのを躊躇ったりする。その間にレオが他のゴブリンを倒すことで優位に戦闘を行うことができた。

 そうして遂に、フィルの放った矢がゴブリンに突き刺さる。

 当たった個所が肩だったので、倒すことは出来なかったがフィルは手応えを感じていた。


 「やったじゃねーか」


 「うん、ありがとう」


 今の感覚を忘れないよう、あと数度の戦闘を熟して二人はヨシュアへと帰ることとした。

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