閑話2

 アレシア王国首都の某屋敷において、とある一室に二人の男がいた。

 人目を忍ぶように微かな明かりしか点いてないその部屋では緊張感が漂っていた。


 「帝国の方はどうなっている?」


 若い男が初老を迎えた男性に問いかける。


 「いくつかの利権を提示しましたが、色よい返事はまだで…」


 初老を迎えた男は額の汗を拭きながら結果の芳しくない報告を行った。


 「ちっ、あの守銭奴どもめ!」


 激高した若い男が目の前にある机を殴りつける。

 彼らの計画が成功した後に手に入る利権を提示した空約束に過ぎないものに、確実に計画が成功するとは言えない以上、帝国が慎重になるのは当然のことなのだが、この若い男にはそんな話は通用しない。

 それが分かっている初老を迎えた男は、話を逸らそうと別の報告をすることにした。


 「ですが、既に合意している教国と同様に公国も協力頂けるとの報告が上がっております」


 「ふむ、そうか」


 一転して機嫌の良くなった若い男が笑みを浮かべる。

 アレシア王国は、周囲を四つの国に囲まれている。ド・ラール帝国、アラト神教国、フランキ公国、そして迷宮自治都市ヨシュアだ。

 禁断の地の調査によってそれまでのパワーバランスの崩れた各国は、王国に一転押されることとなったものの、迷宮自治都市ヨシュアの独立によって対等な関係を維持するに留まっていた。

 しかし、度重なるヨシュアとの戦いに負け続けた結果、国力を落とした王国は再び各国の脅威に晒されるのを恐れ十七年前の敗戦を最後にヨシュア独立前に発見された”レシピ”の知識を基に国力の強化を図っているところだ。

 そんな中、水面下で進められていた計画を実行しようと試みているのがこの者達だ。

 そして、周辺国で計画に最も協力的なのが異教徒の排除を目的とするアラト神教国だ。彼らが掲げる聖典が亜人の存在を認めていない以上、当然のことである。

 公国は地理的に王国と教国に挟まれている関係上、二国の意向に逆らうことはできない。既に教国が参加に合意していることですんなりと参加を表明することになった。

 問題は帝国だが、周辺国が参加するのに自分達だけが不参加というわけにはいかない。自国だけが技術的に取り残されることに繋がるからだ。今は渋って見せ、条件を吊り上げようとしているだけだ。

 この調子ならなんとなりそうだと若い男は次の事柄に意識を切り替える。


 「それであれは見つかったか?」


 若い男が機嫌が良くなったことにほっとしていた初老の男は、また嫌な話題に触れられたことで内心でため息をつく。


 「は、王国内の未開の地及び地域の伝承からそれらしき場所の捜索を行っておりますがいまだに見つかっておりません」


 「ちっ、見つからんか。どうしてあの地にしかないのだ」


 あんなものがあるから長い間苦労しているのだ。ならば王国内で見つければいいと調査させた若い男だったが、結果が出ないことに苛立ちを覚える。

 これまで発見されていないのだから期待薄ではあったので、残念だが諦めざるを得ないだろう。


 「仕方がない、あれは諦めるとしよう」


 「はっ」


 無駄に金を浪費するわけにもいかないので、初老の男は若い男の決定に胸を撫で下ろす。


 「三年だ、あと三年で事を起こす。準備を怠るなよ?」


 「はっ、仰せのままに」


 三年後、彼らの命運が決まる。その結果はまだ誰も知らない。

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