ビギナー探索者編
第23話
早朝、フィル達二人は迷宮探索局までの道のりを肩を並べて歩く。
迷宮探索局は、探索者関係の全ての仕事を統括している場所であり、迷宮に潜る際には必ず立ち寄る場所となる。
都市の中央交差点の四角全ての建物が迷宮探索局のものであり、ビギナー・初級探索者用、中級探索者用、上級探索者用、特級探索者用の建物に分かれている。
もちろん二人が向かうのはビギナー・初級探索者用の建屋となる。
入口に入ると、受付は長蛇の列だ。ビギナー・初級探索者用ということはあって、出入りする探索者の数は四棟の中で断トツで多い。
しかも、探索者養成学校卒業後の初日なのだから全ビギナー探索者が集まっていると言っていい。
ビギナー用の窓口は全部で十二個あり、そのうち十個は獣の楽園で、スライムの森とゴブリンの洞窟はそれぞれ一個ずつしかない。
人気を考えるとそのぐらいの比率になるのは仕方がないのだが、獣の楽園の窓口は全てが長蛇の列ができているのに対して、スライムの森とゴブリンの洞窟の窓口は閑古鳥が鳴いている有様だ。
ある程度この状況を予想していたフィル達は並んで受付することはないだろうと少し余裕をもって家を出てきていた。
フィル達は、獣の楽園の列を横目に見ながら受付の綺麗なお姉さんに探索者養成学校の卒業式に貰ったビギナーの探索者証を提出する。
「おはようございます。こちらはゴブリンの洞窟の受付になりますが間違いないでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
並び間違えはないか確認されたフィルは笑顔で返答する。
「レオさんとの二名のパーティーでよろしいでしょうか?」
「はい」
「いつ頃に帰ってくる予定でしょうか?」
「今日の夕方には帰ってくる予定です」
受付の際には行先と帰還時間を申請する必要がある。これは、予定の時間に帰ってこなかった場合にギルドで捜索隊を派遣するためで、受付での虚偽の申告は探索者資格の没収等の厳罰が用意されている。これは迷惑度の度合いや救出にかかる経費等を考えれば妥当と言えるだろう。
「それでは、ビギナーダンジョンへ入場の探索者は左側の階段を降りてください」
「分かりました」
ゴブリンの洞窟と書かれた木札を渡されたフィルは一礼して受付を去る。
レオと連れ立って階段を降りると、その広大な地下空間に目を奪われる。
「わあ」
「すげえな」
全ての迷宮探索局の建物に繋がっているだろうその空間には無数の魔法陣が設置されている。この転送用の魔法陣も”レシピ”による産物であり、技術を迷宮探索局が独占している。これはいくらでも軍事利用ができる危険なもののため、迷宮への行き来以外での使用を禁じて他国への漏洩を防ぐためである。
そして、いくつかの区画に分かれていてフィル達が降りてきたところからはほとんどの魔法陣に移動できないようだ。これは探索者の階級によって潜れる迷宮が決まっているので低階級の探索者が上位の迷宮に誤って入らないようにする措置である。
もちろん、受付の者が控えているので基本的に間違えることはないのだが、稀に強引に別の迷宮に潜ろうとする愚か者がいるためである。
フィル達が魔法陣に入ろうとすると、帰還用の魔法陣から探索局の職員に連れられた探索者パーティーが帰還してきた。
どうやらスライムの森で受付をして獣の楽園の魔法陣に入っていったらしい。
「受付で木札を貰っただろうが。誤魔化せるとでも思っていたのか?」
「うるせーな、離せよ!」
転送先の迷宮入り口にある建屋は、砦並みの堅牢さを誇り、そこには常時十名ほどの探索局職員が詰めている。
これは魔法陣を魔物などの外敵から守るためである。
また、こうした不正をする探索者を取り押さえるために職員は皆元探索者が務めていて、引退した探索者の再就職先として機能していた。
元探索者の職員にビギナーの探索者が敵うわけもなく、上階へと連行されて行った。彼らは初犯ということもあり十日ほどの資格停止処分で済むだろう。
「なるほど、ああなるわけだな」
「うん、気をつけなきゃね」
改めて不正をしないことを誓ったフィル達は魔法陣へと入って行った。
魔法陣から転送されると目の前には探索局の職員が椅子に座って寛いでいた。
どうやらここで受付に貰った木札を提出するらしい。
「ほう、初日からここに来たのか。なかなか気合いが入っているな」
職員はそう言ってにかっと笑う。
曖昧な笑みを浮かべて挨拶を返したフィルは初めての迷宮探索へと足を踏み入れた。
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