第21話

 レオの初めての敗北を見届けた学生たちは大いに沸き立つ。


 「レオが負けた!」


 「やべー、エルフ最強か?」


 「ざまあみろ!」


 好き勝手言われて腹も立つがレオは素直に敗北を受け入れていた。


 (ちゃんとした役割構成と人数、一人でやり合ったらやっぱ勝てねーな)


 痺れる体を仰向けに倒してレオは空を見上げる。

 ノーム二体とサラマンダー一体を倒し、残りのサラマンダーを置き去りにして精霊は無視できると思ったところに呼び戻して目の前に出現させるとは思いもしなかった最後の判断ミスは痛かったが、遅かれ早かれ負けていたのは確実だった。


 (やはり数は正義だな。今更だがパーティーメンバーを増やせなかったのは痛い。あとはフィルか。最初は支援魔法だけでいいと思っていたが、自分の身も守れないようではすぐに死んじまう。元々戦闘に不慣れで視野が狭いのに近接だと更に狭くなってる感じだ。あとで反省会だな)


 レオは今回の模擬戦で反省や不足点などを頭の中で並べ立てる。


 「レオ、大丈夫?」


 すっかり痺れも取れて動けるようになったフィルはレオが動かないのを心配して声をかける。


 「オレは大丈夫だ。それより帰ったら反省会な」


 「あ、うん。わかった」


 フィルだって何も感じなかったわけじゃない。何もできずに終わってしまって情けなかったし悔しいと思っていた。

 

 「二人ともおつかれー」


 「おっつおっつー」


 「お疲れ様」


 「お疲れさまでした」


 ティナ達が精霊を還してからやってきた。


 「あ、お疲れ様」


 「…お疲れ」


 フィルはちょっと恥ずかしそうに、レオは不承不承といった感じで返事を返す。

 

 「いやー、レオっちには最後まで肝を冷やしたよ。魔力も空っぽになっちゃった。フィルっちは…ドンマイ!」


 「フィルは全くいいところなかったね。せっかくうちらも教えてあげたんだから弓使えばいいのに」


 「そ、そうだよ」


 「その通りですね」


 フィナの言葉にフィルの心に刺さる。

 分かっているのだ、先日のレオに言われてからも考えていたことだ。それでも踏ん切りがつかない、諦められない。

 フィルは、きっかけを求めている状態だった。


 (せめて、一度魔物と戦ってみたい。そこで通用しなかったらそのときは…)


 ビギナーダンジョンでなら一対一で戦えるだろうし勝てないと思えば逃げることもできる。最悪の場合はレオもいるので尻拭いをしてくれるだろう。


 (ほんと最悪だ、僕。いつもレオに頼ってばかりだ)


 フィルは最低なことを考えているという自覚もある。それでも自分で自分に引導を渡せる瞬間を待っているのだ。もっと柔軟に考えられれば、拘りをもっと簡単に捨てることのできるある意味強さを持っていればこんなに苦悩することもなかっただろう。フィルは、手先は器用でも心は不器用だった。


 「フィルっちは無駄に腕力もあるんだし強い弓も引けそうなんだけどなー」


 「無駄にって酷いよ。これでもバランス良くなってきたんだけどな」


 ティナのいい様にフィルは苦笑を浮かべる。

 腕の筋力だけ発達した歪だった体のバランスもこの五か月間の訓練によって大分解消されている。それはフィルの努力の賜物であり、懸命に食らいついてきた結果だ。


 「こいつは頑固だからな。一回痛い目見ないと分からねーんだ」


 「へえ、そうなんだねぇ」


 よくぞ言ってくれたと若干機嫌の良くなったレオはエルフ達に混ざり、フィルをいじり始める。

 負けはしたが収穫もあったし、課題も見つかった。

 在校中には見つからなかったが、パーティーメンバーが同じ組の者である必要もない。ビギナーダンジョンでフィルがものになってからでも遅くはないはずだとレオは前を向く。

 探索者養成学校の卒業は、もう間近にまで迫っていた。

 

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