第19話
「よし、出来た」
初めての模擬戦があった日から数日後、フィルは青鋼製では二本目となる、自分用の小刀を完成させていた。
自分一人で鉄以外の鋼材を使用した鍛冶品を作るのは初めてだったフィルは、最初は戸惑ってはいたものの今ではすっかり慣れた様子である。
最初の一本目が自身でも会心の出来で、レオにも褒められたという成功体験から生まれた自信というのもあったのだろう。二本目のそれも一本目に負けず劣らずの出来でフィルは満足げに小刀を見つめていた。
「お、出来たのか」
「うん、これでチェインメイルも間に合いそうだよ」
「そうか」
風呂から出て様子を見に来たレオもフィルが握っている小刀を目にして声をかけてきた。
「なんか珍しいね、レオが鍜治場に来るなんて」
「ん、まあな。フィルがエルフの奴らになんか頼まれてただろう? それやって遅れてねーだろうなって様子見にな」
「あー、あれね」
フィルはエルフの四人娘と話しているうちに自分が鍛冶屋の息子で鍛冶をしているということを打ち明けていて、それならと鉄製の鏃を安く作ってくれと頼まれていた。
(鉄で鏃を作る練習ができると思えばこっちにも都合がいい)
渡りに船とはこのことで、レオはフィル用のものとして鏃を作らせようと考えていた。そのための練習を依頼という形でできるというのは都合が良い。
「どのぐらい作れるかわからないけど、チェインメイルが組み立ての段階になったらちょこちょこ作ってみるつもりだよ」
「ふーん、チェインメイル作っても青鋼は余りそうか?」
「うーん、どうだろ。ちょっと余るかなあ。でも、どうして?」
「いや、別に」
レオは、青鋼が余るのならそれで鏃を作らせたいと思い探りを入れる。
毎回矢を回収しないといけなくなるが、青鋼製の鏃が付いた矢の威力は折り紙付きである。鉄製の鏃の付いた矢よりもはるかに貫通力の高いそれは、中級ダンジョン、いや、弓の腕が成長すれば上級のダンジョンでも通用する攻撃力を備えたものになるだろう。
フィルの得物を弓に変えたいレオからしたら是非とも欲しいものだった。
「なにそれ、変なの。そういえば僕が作った刀の具合はどう?」
「ああ、調子いいぜ。やっと手に馴染んできたところだ」
「そっか、よかった」
「居合の感覚も掴めてきたしいつ探索者になっても問題ないぜ」
フィルのことは心配していても自身の鍛錬には手を抜いていない。
むしろ、自分の刀を手に入れたことで今までできなかったことを含めてより一層の鍛錬を積んでいた。
「僕も小刀作っちゃったし刀術頑張らなくちゃ」
「刀術もいいけどよ、ちゃんと自分に合った戦い方も考えておけよ? オレもいつまでもお守してるわけにはいかねーからよ」
「えっ、うん」
フィル自身もレオの足手纏いになっているという認識はもちろんあった。
だから、あまり結果は出ていないけれども自分なりに頑張ってきて、レオもそれを見守ってくれていると思っていた。それが突き放すようなことを言われてフィルは戸惑っていた。
(でもそうだよね。探索者は遊びじゃなくて命懸けの仕事なんだし)
レオが一緒だからとどこか甘く見ていたのかもしれない。かっこいいからとどこかふわふわした気持ちでやっているのをレオは見抜いていて模擬戦が始まって、探索者養成学校の卒業が近づいたことでこのままじゃだめだ、死ぬぞと注意してくれたのだとレオの意図に気付いたフィルは自分を見つめ直す機会を得た。
「そうだよね。よく考えてみるよ」
「ああ」
レオは、あとはフィルが自分で気付いてくれればいいと笑みを浮かべた。
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