第18話
「えー、お主らがここを卒業してから潜れるようになるビギナーダンジョンは三つ存在する。まず一つは…」
午後の座学が始まり、授業を受けているフィルは机に突っ伏していた。
「まだまだだったな」
「もっとやれると思ったんだけどなあ」
にやにやしながら揶揄ってくるレオにフィルは溜息を溢しながら答えた。
模擬戦でエリスと対戦したフィルは、初の対人戦ということもあってかへっぴり腰で戦った結果、あっさりと敗北した。
続く二回戦目もヒーラーと対戦することを想定していなかった現役探索者からフィルとエリスの再戦を勧められて対戦することとなった。
初戦を見ていたレオに尻を蹴られて気合いを入れられたフィルは、まともに打ち合えるようになって接戦を繰り広げたもののまたもや敗れることとなった。
そのため、模擬戦後のランニングに昼休みを経た今でも落ち込んでいるのだ。
ちなみにレオは、二戦目の現役探索者との対戦では、中級探索者の剣士と対戦し圧勝している。中級に成り立てとはいえ、デビュー前の探索者養成学校生が勝利するということはここ数年は無かった事であり、しかもそれはヨークと対戦したときよりも容易く行っていたのだから驚きは相当なものだった。
「迷宮で最も恐ろしいのはイレギュラーエンカウントと呼ばれるものじゃ。これはその名の通り通常起こりえない魔物との遭遇、つまりより下層の強力な魔物や迷宮主と上層で出会うもので…」
疲れのせいもあって座学の内容が頭に入ってこないほど沈んでいるフィルは、あと三か月に迫った卒業後の探索者活動に対して不安を感じていた。
「はあ、僕探索者やってけるのかなあ」
「問題ねーだろ」
フィルの深刻そうな呟きに対してレオはなんでもなさそうに答える。
(まあどこかで剣には引導を渡してやらねーとだけどな)
レオから見て、フィルの剣はそう悪いものじゃない。だが、同時に致命的な欠点も見えていた。
致命的な欠点、それは近接戦闘への適正の無さ。剣を振る、型をなぞることがどれだけ上手かろうと実戦でそれができなければ何の意味もない。模擬戦でも最初はへっぴり腰でまともに剣を振れていなかったし、二戦目でもどこかおっかなびっくり打ち合っていた。
あれでは魔物と相対したときに戦えないし、それはいずれ致命的なミスを犯すことになるだろう。
それならば適性があるらしい弓に変えてしまったほうがいい。それもできるだけ早く。
しかし、
(こいつ頑固だからなあ)
そう、フィルは頑固だった。周囲の人々が尽く反対する中、探索者になろうとするぐらいには。
そのため、レオは説得することを諦めてフィルが自分で武器を変えるよう誘導するつもりだった。
(弓に変えたところでそろそろ完成しそうな小刀も無駄にはならねーだろ)
先月完成したレオの刀に続いてフィルが作っている小刀。フィル用のそれは、取り回しが良く、腰に差していたところで弓を射る際に邪魔になることはないだろう。
また、魔物に接近されたときにある程度抵抗できるぐらいには役に立つはずだ。
なにもフィルが倒す必要はない。自分が援護に回れる時間さえ稼いでくれればいいのだから。
(フィルが自分で諦めるようにするならやっぱり実戦で少し痛い目に合わせないといけねーかもな)
フィルは頑固だけど自分勝手な奴ではない。それを知っているレオは、迷宮で自分やフィル自身がフィルのせいで危険な目にあったり、フィルが近接戦闘では役に立たないということを理解すれば無理してまで剣や刀に固執し続けることはないだろうと考えていた。
(まあ、それまでは好きにやらせておくか。ここに入ったときの目標の体力も付いてきたしな)
自分一人だけでも中級探索者まではいけるだろうと思っているレオは、気楽に考えることにした。ただ、それまで他の武器種も訓練させておけばいいだけだ。
「今日の授業はここまでじゃ」
ハンスの言葉と共に一つ欠伸をしながら帰る準備に取り掛かった。
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