第17話

 レオと向かい合っているヨークは木剣と木製の盾を握りしめながら冷や汗をかいていた。


 (いきなりこいつとぶつけてくるなんてあの教官は一体何を考えているんだ)


 この学校の初日に感じたあの恐怖は今でも鮮明に覚えていた。

 この三か月間で自分も腕を上げた実感はあるが、まともに戦ったら到底敵うとは思えなかった。


 (ここは切り札を使うしかないか)


 そう考えたヨークはテリーの方に向き直る。


 「教官、魔法を使ってもいいですか?」


 「ああ、構わないが、高威力の魔法は禁止だぞ?」


 「はい、ありがとうございます」


 テリーに許可を得たヨークは、これで万全の力で戦えると気合いを入れる。

 例え模擬戦だとしても英雄の子孫であり、特級探索者を目指すパーティーのリーダーである自分が、簡単に負けるのは許されることではない。

 

 (彼は僕が支援魔法しか使えないと思っているはずだ。その虚をつく)


 近接型のアタッカーは基本的に魔力が少ない者が就くことが多い役割だ。

 しかし、血が大分薄れているとはいえ、エルフの血を引くヨークは人族基準からしたら膨大な魔力を有している。つまり彼は言うなれば魔法剣士という稀有な存在だ。

 養成学校では魔法の訓練を行っていないけれども、家では魔法の腕も地道に磨いてきている。

 魔法と剣術を組み合わせた戦闘方法が彼の真骨頂。人族最高峰のポテンシャルを持つと自負する彼の牙がレオに向けられようとしていた。


 「よし、始め!」


 テリーの合図と共に後ろに飛んだヨークは素早く詠唱する。


 「ファイアボール」


 瞬く間に生成された炎の球がレオに襲い掛かる。


 「おっと」


 思いがけない魔法攻撃に様子を見ていたレオは一瞬驚いたものの、素早く横に躱してヨークに目を向ける。

 すると、既に距離を詰めていたヨークがその勢いのまま体をひねり木剣を横から振りぬいた。

 木剣と木刀が激しく打ち合う音が響く。

 レオは力任せに木刀を木剣に叩き込み、ヨークを弾き返す。

 数歩分ほど飛ばされたヨークはうまく体勢を立て直しながら着地し、再度魔法を詠唱する。


 「まだまだ! ファイアランス」


 今度はファイアボールよりも速度の早いファイアランスを打ち込む。それをも半身になって躱したレオはヨークがまた魔法を詠唱しているのをその場に立ったまま黙って見ている。

 その様子を見たヨークはギリっと奥歯を噛み、詠唱中の魔法を破棄し、支援魔法を自身にかけた。青色のオーラにヨークの体が包まれたことでレオも支援魔法をかけたことが分かったことだろう。

 

 (もっと本気を出せってことか。いいさ、見せてやる)


 ヨークは剣と盾を握り直して盾を前に押し出しながらレオに突進していく。

 支援魔法の効果により先程よりも速度を増したヨークの突進をレオは獰猛な笑みを浮かべながら木刀を正眼に構えながら待ち受ける。


 「ファイアランス」


 ヨークの頭上に突如現れた炎の槍がレオの顔面目掛けて近距離から放たれる。

 これを顔を傾けて躱したレオの眼前にヨークの盾が迫る。


 「ふんっ」


 僅かな隙間に木刀を差し込んだレオは力を入れて踏ん張り、ヨークの突進の勢いを止めた。すかさず持っていた木剣でレオの胴体に当てに行ったヨークの腹部に衝撃が走る。


 「ぐふっ」


 前傾になっていたヨークの腹をレオが蹴り上げたことでヨークの体が浮かび上がる。レオは木刀を袈裟斬りに振り下ろし、ヨークの首元で木刀を止めた。


 「そこまで! レオの勝ちだ」


 注目度が高い一戦のため、審判役をやっていたテリーが試合を止める。


 「げほっげほっ」


 一遍に空気を抜かれたヨークは咳き込み腹部を抑える。


 「また今度ひねってやるよ」


 余裕の表情で立ち去っていくレオを蹲ったまま見上げたヨークは悔しそうに睨み付けていた。


 (くそっ、身体強化すら使わせられないのか)


 獣人族が使用する身体強化は、使用すると体が赤く光るため、使っているかどうかの判断はしやすい。それがなかったので、ヨークは悔しさに拳を握る。

 第一試合で、ヨークと同様にベネットに負けたゴンソ、マロンに負けたサブと三人で端っこに座る姿は、まさにお通夜状態だった。

 しかし、ヨークの評価が落ちたわけではない。相手が悪かったし、魔法と剣術を組み合わせた戦闘方法は見事で、高いポテンシャルを覗かせていたのだ。やはり英雄の子孫だなとテリー達は評価していた。


 「はー、やっぱあんたの友達はとんでもないね」


 「うん、僕もあんなに強いなんて思ってなかったけど」


 レオとヨークの模擬戦を観戦していたフィルとエリスは感想を述べ合う。

 観戦していた他の学生と同様にレオの想像以上の強さに驚いていた。


 「次はあたしたちね。手加減しないから頑張りなさいよ」


 「うん、よろしくお願いします」


 フィルもこの三か月間頑張ってきた。

 一番センスが感じられるのは弓なのだが、かっこいいものに憧れる年頃のフィルは、剣や刀に拘っていて、特に基礎訓練の時にも振っている剣は見られるぐらいにはなっていた。もちろん、エリスとの模擬戦も剣でいくつもりだ。


 「第二試合を始めるぞ」

 

 テリーの声掛けと共に第二試合が始まった。

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