第16話
模擬戦はまず学生同士の一対一で行い、勝った者が現役探索者と、負けた者は負けた者同士でもう一試合行われる。
もちろん、探索者が相手するのは人ではなくて魔物だ。
切磋琢磨することで技術の向上は望めるだろうが、対人の訓練をするということは対王国を意識してのことは明らかだ。
とはいえ、後々にはパーティー戦が行われ連携面の訓練になることや、人型の魔物もいるため模擬戦が迷宮探索にまったくの無駄ということにはならない。
「よし、それじゃ各希望職毎に集まって班を作ってくれ。その中から対戦相手はこちらで決める。ヒーラー希望は模擬戦は無しだ。その代わり怪我人が出たら治療してやっってくれ」
テリーの号令でぞろぞろと移動している学生達の中で、取り残されたように一人ぽつんと佇んでいるのはフィルだ。
一組二組合わせた五十人で支援職を希望しているのはフィルだけだった。
「お前は支援職希望だったな。うーん」
テリーが困ったなと頭を掻きながら周りを見回す。各班とも端数がなく、余っているのはフィルとヒーラー希望の五名だけだ。
「じゃあ悪いがヒーラー班から一人模擬戦に出てもらえるか」
ヒーラー班の者達が探るような目でお互いの様子を窺う中、一人の少女が名乗り出る。
「あたしがやるわ」
エリスだ。彼女はそう言うと立ち上がってフィルの方に向かって歩いていく。
「そうか、じゃあ頼んだぞ。二人は準備して少し待っていてくれ」
テリーは準備して待つように指示すると、他の班の対戦組み合わせをしにいった。
「ごめんね、なんか付き合わせちゃって」
「いいのよ。あたしもどんなもんか経験してみたかったし。あとちょっと話しておきたかったことがあったし」
模擬戦に付き合わせたことにフィルが謝罪すると、エリスは何でもないように答える。
「え、どうしたの?」
「パーティー組んであげられなくてごめんねって」
「あー、うん」
エリスはフィルがパーティーメンバーを探しているの知っていて、他のメンバーに打診してみたことがあったが、素気無く断られていてフィルに直接伝えるのもなんか違うと思い、四人でやっていくと公言するという形をとっていた。
「あたしは良かったんだけどベネットとシズカがねー、男嫌いで」
「そうなんだね」
それから二人は、テリーが対戦を決めている間に現役の探索者の教官達が魔道具を設置しているのを黙ったまま見ていた。
同時に模擬戦を複数行うため、魔法や矢が他の模擬戦のところにいかないよう防ぐ結界用の魔道具だ。
高威力の魔法や鏃のついた矢などは使わないので高出力が望めない魔道具でも防げるだろう。
フィルが興味深そうに見ていると、どよめきが起きた。
「どうしたんだろうね」
「近接アタッカーの班かしら」
テリーがいるところを見ると、どうやら近接アタッカーの班の組み合わせで起こったどよめきのようだった。
「なんか凄い組み合わせでもあったのかな」
「そのようね。あんたのお友達じゃないの?」
フィルとエリスが話しているとテリーが中央に戻ってきた。
「よし、魔道具の数の都合で二回に分けて模擬戦を行う。順番に組み合わせを言っていくから呼ばれた奴は誘導に従ってくれ」
テリーはそう言って組み合わせを発表していく。
「第五試合、レオ対ヨーク」
今度は全体でどよめきが起こる。フィルとエリスはこれかと納得した。
「最後にフィル対エリス」
最後に名前を呼ばれたエリスは現役探索者の誘導に従い立ち上がろうとする。
「あ、あの、教官。僕たちは二回目でもいいですか? 見て勉強したいなって組み合わせがあったので」
フィルがテリーに二回目に回してくれというのを聞いてエリスはまあそうよねとテリーの判断を待つため立ち止まった。
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございます」
テリーの許可を得たフィルはお礼を言ってレオとヨークのいる模擬戦場に視線を向けた。エリスもフィルの隣に座り、同じように模擬戦を観戦することにした。
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