第15話

 二日目の座学は何事もなく終わり、午後は屋内訓練所で行うことになった。

 どうやら、グラウンドと交互に訓練を行うらしい。

 屋内訓練所ではそれぞれの得手武器を使用した訓練を行う。訓練所の二角は吹き曝しとなっており、それぞれ弓術と魔法訓練用の的が外に設置してある。


 「君は支援職志望だったね。得意な武器とかもなさそうだし一通りの訓練を経験してみるのはどうだろう? 自分に合う戦い方も見つけられるだろう」


 屋内訓練所では、それぞれの武器種毎に教官が用意されている。その中で統括する教官であるミークに提案されたフィルはその通りにやってみることにした。

 まずは剣術をやることにしたフィルは、木剣を渡され担当の教官に振ってみてと言われたので、昨日テリーに教わった通りに振ってみることにした。


 「ふーん、形にはなっているみたいだね」


 職人の家系のためか、フィルは器用なようで剣を振る姿は様になっていた。

 しかし、才能があるというわけではない。平均点は取れるけどのような典型的な器用貧乏だった。


 「よし、それじゃ次の型に入るぞ。よく見て覚えておけ」


 「はい」


 そうしてフィルは、今日一日を剣術の型を覚えるのに費やした。

 この日から隔日で剣、槍、弓等の鍛錬を重ねていくことになる。

 魔法については支援魔法の向上に努め、攻撃魔法に手を出すことはなかった。

 元々朝は錬金工房、夜は鍛冶にと魔力を使用しているため、攻撃魔法に費やす魔力がなかったという理由もあるが、どうにも他の魔法使いと比べると威力がないようだと判断したためである。

 こうして日々を重ねる毎にフィルの周囲からの評判も段々と変わってきていた。

 初めは数日で音を上げて学校を辞めていくだろうと思っていた大半の人族の学生達も予想とは裏腹に必死に食らいついているフィルに対して無能から頑張っている奴ぐらいには評価が上がってきていた。元から嫌ってはいなかった亜人達からは猶更である。

 養成学校も後半に入って、フィル達二組は午前に訓練、午後に座学と順番が入れ替わったので、朝からグラウンドに来ている。


 「おー、フィルっちおはよー」


 「おっすおっす」


 「おはよー」


 「フィルさん、おはようございます」


 弓の修練時に会話するぐらいになったエルフ四人娘のティナ、フィナ、ニーナ、レナは、フィルがマーサの錬金術の弟子であると知ると、更に対応が柔らかくなった印象だ。同族であるエルフで高齢のマーサは、エルフの中でも発言力もあり尊敬される存在なのでこういった対応になるのも必然だろう。

 仲が良くなったとは言え、パーティーを組めるかというと別の話ではあったが。

 彼女達四人は、全員が精霊魔法を行使できるエルフである。

 精霊魔法で喚び出された精霊は実体を持ち、それぞれの属性に対応した能力を持っている。例えば火の精霊は炎による攻撃を、土の精霊は頑丈な体で盾役をといった具合にだ。

 そのため同時に精霊四体を出せる彼女達は、疑似的に八人パーティー相当で戦えるので他のメンバーを必要としていない。

 そういった事情でやんわりと断られたフィルが他にパーティーを組める相手がいるかといえばそれも厳しい。

 ヨーク達は、ベネット達を誘って断られたものの他の人族の三人と組むことに決めてパーティーを結成したのでここに加わることはないだろう。

 もっとも、レオとの関係は相変わらず冷え切っていて改善の兆しもないので合流することはありえないのだが。

 ベネット達はといえばレオとマロンは相変わらず顔を合わせれば罵り合いを繰り広げているし、そもそも男性メンバーを入れる気がないのでパーティーを組めるはずもなく、彼女らも取り敢えずは四人でやっていくようだ。

 その他亜人達は、フィルに好意的な者もいるものの、レオを恐れているのか舎弟のようになっていて、同じパーティーなど恐れ多いと断固拒否される始末である。

 そのように状況は芳しくないものの、三か月程の月日が流れ、紅葉もすっかり散って雪がちらつき始めた頃には、フィルの体力も付き訓練も慣れてきていた。

 エルフ四人娘やレオと雑談しながら待っていると、テリーがやってきた。


 「今日からは現役の探索者が訓練に参加してくれることになっている。模擬戦が中心となるので覚悟しておけよ」


 テリーの言葉を肯定するように若い探索者風の男女が背後にずらりと並んでいた。


 (これからが本番ってところなのかな)


 フィルが内心でつぶやきつつ、緊張しているのを余所に探索者養成学校の後半が始まろうとしていた。

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