第12話

 ちょっとした騒ぎになったものの、すぐにエリスが治療したことで大事には至らなかったことからテリーに少しは手加減しろとお小言をもらった程度で解放されたレオは、家路に就く。

 相変わらずへばっているフィルを小脇に抱え、今では自分の家ともなったフィルの家へと帰宅する。


 「じゃあ、夕飯の準備をするから好きにしてて」


 「おう」


 家に帰り、少しは回復したフィルは、鍜治場に火を入れてから夕飯の支度へと炊事場へと向かう。

 料理は当然のことながらレオにはできず、父と暮らしている頃から料理をしていたフィルの担当であった。

 とはいえ、今日は初日で疲れているので、肉を焼くだけだ。

 スープも欲しいところだが、とてもではないが作る気にならなくて諦めた。

 あとは、野菜を千切っただけのサラダとパン、果汁ジュースで夕飯とした。

 レオが見当たらなかったので、裏庭を見に行ったところ、レオはまた木刀を振っていた。


 「夕飯できたよ」


 「おう、飯か。悪いな」


 「あんなに学校でやったのにまだやってるんだね」


 「あんなのじゃ物足りねーって」


 「物足りないって…」


 レオの言い草にフィルは戦慄を覚えた。

 自分が何一つ完遂できなかった訓練をこなし(フィルは倒れていたため確認できていないが全体のトップで終わらせている)、帰宅時には二十分もの距離を自分を抱えて歩いてきたのだ。

 それで物足りないなど到底理解できない。


 「鍛え方が違うからよ」


 「そ、そうだね」


 それだけではないだろうとフィルは曖昧に頷いた。


 夕食を摂りつつ談笑を交わす二人。

 フィルは疲れのせいか重いものを胃が受付けなかったので、肉はそこそこにサラダを果汁ジュースで流し込んでいた。

 レオは対照的にもともと肉食なので、フィルが残した肉を食べつつあまり好きではないサラダをフィルに押し付けていた。


 「飯食ったら鍛冶やんのか?」


 「うん、そのつもり。悪いけどお風呂の用意はお願いしていい?」


 「ああ、わかった。そのぐらいはやんねーとな」


 浴槽に水を入れるのは重労働なので今日のフィルには辛いだろうと、レオは快く引き受ける。

 そもそも居候の身であるので、風呂の用意は毎日自分がやることに決めた。


 「じゃあお願いするね」

 

 フィルが申し訳なさそうにするも、レオは気にするなと手を振った。

 夕食を終え、鍜治場にやってきたフィルは、青鋼を手に持つ。


 「抽出」


 フィルは、青鋼に錬金術の抽出を使い、不純物を取り除く。

 フィルの魔力量は多いほうではないので、買ってきた青鋼全てを一度に抽出はできない。

 残りの量を考えたらあと三日ぐらいかかるだろうか。

 抽出で取り出した青鋼は綺麗に整えられていない、不格好なものなので成型する必要がある。

 フィルは火を入れていた炉にふいごを使って風を送り込み、炉内の温度を高め、温度を保つ。

 青鋼は鉄よりも融点が高いためいつもの比じゃないぐらい暑い。

 フィルは汗だくになりながら青鋼を溶かし、ミスリル製の金床とハンマーで成型する。

 これは祖父の代からの自慢の鍛冶道具だ。

 疲れから集中力が散漫になっており、思っていたよりも時間がかかってしまったので今日の作業はこれで終わりだろうとフィルは額の汗を手で拭った。


 「おーい、フィル。そろそろ終わったらどうだ?」


 「あ、うん」


 風呂上がりのようで、さっぱりした感じのレオが頭を拭きながら呼びかけてきた。

 ちょうどいいとフィルは成型した青鋼を水桶に突っ込み、炉の火を落とした。


 「明日も朝錬金やんのか?」


 「うん、朝食作り置きしておくから」


 「おう、でも起きれんのか?」


 「うーん、あはは」


 フィルはちょっとやばいかもと誤魔化すように笑う。

 起きれるかも心配だが、筋肉痛は確実だろう。

 明日まともに動けるのかも心配だった。


 「おいおい、大丈夫かよ」


 「うーん、頑張る」


 フィルは曖昧に答えて風呂場へと向かった。



 

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