第11話

 筋力トレーニングを終えた後、最後の訓練として素振りを行う。

 魔法職や弓職のような者であっても魔物に接近されたら自衛のためにも短剣など持つ場合がほとんどなので、素振りは全くの無駄とはならない。

 皆が木剣で素振りする中、レオは変な癖ができたら嫌だと、テリーに許可を取り持参の木刀で刀術の型を繰り返す。

 

 (模擬戦なければこんなもんか)


 全体で訓練している以上、個々のレベルに合わせたものができるわけがないのは分かっていたが、レオは物足りなさを感じていた。

 せめてテリーと模擬戦でもできればなと思いつつフィルの様子を窺う。

 どうやらもう腕が上がらないようで二の腕がプルプルしていた。


 (あんなんで帰ってから鍛冶できるのかね)


 朝に帰ってから鍛冶の続きをやると言っていた親友の心配をするのだった。


 素振りの開始と同時にひっくり返していた砂時計の砂が落ち切る。


 「よーし、今日はここまでだ」


 テリーの号令と共に素振りを終了する学生達の大半は座り込んでしまう。

 そんな中で隣で素振りを行っていたフィルとレオは一方は倒れこみ、もう一方は平然と汗を拭っているといった対照的なものだった。

 

 「おーい、フィル帰るぞー」


 「も、もうちょっと待って」


 依然として肩で息をしながら倒れこんでいるフィルを覗き込んでいると、背後に人の気配を感じたレオは振り返る。


 「やあ、やっぱり凄いもんだね、白獅子ってのは」


 にこやかに声をかけてきたのは英雄ヨシュアの子孫、ヨークだった。

 取り巻きのゴンソとサブも後ろに控えている。


 「おう、なんか用か?」


 御託はいいから早く要件を言えとでもいうようなレオの態度にヨークは肩を竦める。


 「いや、君に僕たちのパーティーに入らないかという提案なんだけどね」


 「そういうことか」


 まさか断らないよなといった態度の取り巻き二人を横目に見つつレオが答える。


 「ああ、いいぜ。こいつと一緒ならな」


 レオは横で倒れているフィルを指さす。


 「そんな雑魚がヨーク君のパーティーに入れるわけないだろ! 誘ってるのはお前だけなんだよ」


 ゴンソがいきり立って叫んだ。

 サブも同じ気持ちなのかレオを鋭く睨み付けている。


 「まあ待ちなよ、ゴンソ。とはいえ僕も同意見だ。いずれ特級探索者となり迷宮自治都市最強となる僕のパーティーに彼のような者は相応しくない」


 ヨークはゴンソを優しく窘めているが、言っていることは同じだった。

 

 「そうかい、じゃあお断りだ。他をあたってくれ」


 やっぱり人族はだめかとレオは内心落胆しながらも、同時に苛立っていた。

 例え事実だったとしてもフィルを、親友を公然と馬鹿にした三人に対してだ。

 そして、彼らはそれに気付かない。


 「なんだと! ヨーク君の誘いを断わるって言うのか、貴様ぁ!!」


 堪忍袋の緒が切れたのか、激高したゴンソがレオに殴りかかる。

 レオはそれを軽く首を傾けて躱し、カウンター気味に割と本気でゴンソの鼻面を殴りつけた。

 ゴンソは派手に吹っ飛んで、数回転がった後白目をむいて気絶する。

 鼻骨を折ったのか、鼻は折れ曲がり止めどもなく血が流れ出ていた。

 

 「誰にケンカ売ってんだ、てめぇ」


 タンク職を希望するゴンソは、背も高くがっちりとした体格であり、とてもではないがあのように飛んでいいわけがない。

 人間離れした力を目の当たりにし、遠巻きに見ていた学生達から悲鳴が上がる。

 そんな中、エリスはゴンソが倒れている方に駆け寄っていく。

 どうやら治療をするつもりのようだ。


 「貴様ぁ!」


 サブが目を怒らせながらレオに詰め寄る。

 こいつもついでにやっておくかとレオは構えを取り、獰猛な笑みを浮かべる。


 「よさないか」


 ヨークはサブの腕を引っ張り止める。

 気勢を削がれたサブはレオを睨み付けながらもなんとか踏み止まった。


 「いきなり殴りかかったゴンソも悪い。悪かったね、レオ君。今日のところは諦めるとするよ」


 「ああ」


 ちょっと残念そうなレオを見てヨークは自分の判断が正しかったことを知った。

 こんな奴を制御できるわけがない。内心の焦りを隠しながら冷や汗をかいていたヨークは一礼してからサブを連れてゴンソの方へと向かっていった。


 「ごめんね、僕のせいで」


 一部始終を見ていたフィルはレオに謝る。


 「お前のせいじゃねーよ」


 レオは素っ気なく言うが、フィルはやりすぎじゃないかなと思いつつその優しさが嬉しくて微笑んだ。




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