第3話 佐義ソウタ

 佐義さぎソウタは夢を見る。

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陽光が優しく窓ガラスに差し込み、虹の木漏れ日が寝室に降る。ベッドにいる祖母の白髪にも光が映り、顔がよく見える。


今日は少し疲れてそうだ。


弱々しいが微かに笑みを浮かべながら、祖母は何やら筆を動かしていた。


僕は朝食のスープがこぼれないように慎重におぼんを運ぶ。祖母が大好きなキノコのスープ。


やがて祖母も僕に気がつき、書く手を止め、僕の危なげな配膳を静かに見守ってくれる。


ベッド横のサイドテーブルに何とかおぼんを載せた。


「おはよう!ばあちゃん!」


「おはよう、ソウタ。今日もありがとう」


祖母はそう言って僕の頭を撫でてくれる。


「何してたの?」


僕は描きかけの紙を指差した。


「ボケ防止さ。意味なんてないの」


祖母は穏やかに答える。


僕はベッドのそばまで椅子を引きずり、祖母の横に座った。


「…ねぇ!今日もお話しして?」


「ふふふ、好きだねぇ。そしたら今日は、ばあちゃんのお母さんから聞いた話をしようか」


「ばあちゃんのお母さん?」


僕は指折り数えようとした。


「今から95年前の話だよ。」


ばあちゃんは僕の計算が終わらないうちに頭を撫でながら言う。


「ばあちゃん、産まれてないね!」


「そうだね。ばあちゃんもソウタの父ちゃんも知らない

      …昔の世界の話だよ」



________________


うつらうつら目を覚ます。

薄暗い。


(もう少し…)


懐かしい夢の続きを見ようと僕は二度寝をかます。

しかし、ツンと血の匂いがかおった。


気になって少し瞼を持ち上げると



血まみれの女の子がすぐ横で眠っている。




 ………



「うわぁああっ!!」


僕はすぐに飛び退いた。



(えっ?はっ?! 死体!え…生きてる?

 寝てるだけ???)


女の子はピクリとまゆを動かす。


「うおっ!!」


(動いた、動いた、動いた生きてる!)



女の子はパチリと目を覚ます。

恐ろしいほど美しい。


女の子は眠そうにあくびをしてやがてソウタを見る。


「早起きだね」



ドキンっと心臓が跳ねた。

全く状況が掴めない。

何も覚えてないし、え?しでかした?


すぐに寝ていたベットから下り、全力で土下座する。


「ご、ごめんなさい!あ、ああの僕、何も覚えてなくて…あ、いやマジでとにか…」


「シー」


「んっ!?」

唇に…あたっ……!?


「だぁめ。まだ寝てるから起こしたら可哀想よ」


女の子はクスクス笑いながら立ち上がり、僕の手を引く。


(え?え?どこ行くの?)


まいった。ドキドキが収まらない。

美少女と手を繋いでいる。

う、生まれて初めてかも…


「静かにね」


彼女は今度は自分の口元に指を当ててささやく。


(あ…)


彼女の一挙一動に目が離せない。


可愛いな…


彼女に連れられて、隣の部屋に移動した。

リビングのような場所だ。

そこには数人の男性が雑魚寝していて、

少しもピクリとはせず、泥のように眠っている。


じっと見ていたら、グイッと手を引かれる。


「こっち」



声は出さず口の動きだけで話しかけてくる。

当然、大人しくついていく。



(手、柔らかぁ。包帯…両腕に巻かれてるけど血がでてる…意外と鍛えてるんだ…どこでかしこも引き締まって…ん?…え!!!)


僕はやっと気がついた。

彼女はキャミソールとパンツ姿。

つまり下着姿だった。


(なんちゅう格好してるの?!)


思わず手を離してしまった。


「ん?」


彼女は不思議そうに振り返るが、僕は慌てて目を逸らす。いや、今更だけど。


急いでそこらの椅子にかけてあった黒い軍服を彼女の肩に被せた。


「え?」


上目遣いがとてつもなく可愛い。


「き…着といて…ください」


彼女はキョトンと僕を見つめてくる。


「あの…だから服」


「あ、ああ。ごめん」


ようやく要求の意図が伝わったようで彼女はボタンを留め始める。

その間必死に下を向いていた。



「ソウタぁ…水でいい?」


「え?」


顔を上げたところでバンッと冷蔵庫の扉に当たった。

「いっ!…」

足元ばかりで前を見てなかった。間抜けすぎる。



「ソウタ?」


彼女がヒョイっと扉から顔を出す。かわいい。


「あっ!うん、何でも」


彼女はクスクス笑う。 かわいい…

そういえば、彼女は一体誰なんだろうな…



……ん?


「………つか、ここどこ?」



          ☆


もうすぐ日の出。

僕らは屋上にいた。



「ほい」


ペットボトルの水を渡される。

僕は大人しくそれを受け取るが、飲む気になれない。


「まだ暗いね、夕焼けも好きだけど朝焼けも素敵」


彼女は猫みたいにのびをする。


先ほどとは一転、

僕は冷え冷えとした気持ちで彼女を眺めている。


何であんなに浮かれてたんだろうな…

僕が彼女に着せた上着だってれっきとした警察隊の軍服だ。


「君は、警察隊なんだね」


「うん」


正直、うっすらとしか覚えていないが、

星の子が僕に向かって襲いかかってきた時、

瞬きする間に星の子は

青い光が舞い散るの中で、僕は女神を見たんだ。


(きっとこの子が助けてくれたんだろうな…)


「…なんで僕なんか助けたの?」


「え」と彼女は驚いた顔をする。


「いまさら…僕が何者かなんて、警察隊なら知ってるはずだろ。何で僕みたいなの助けたんだよ」


「…死んじゃこまるもの」


彼女は本当に悲しそうに答えた。




ごめん。僕はもっと他に言うことがあるよね。

死にたかったわけじゃない。

助けてくれて、感謝だってしてるんだ。

…だけど


「警察隊が嫌いなんだ。連合会はもっと嫌い。父さんを助けてくれなかった」


彼女は目を閉じて深呼吸をする。


しばらくの沈黙のあと、やがて彼女は手頃な段差に座り込み、隣をトントンと叩いた。


「座って」


辺りが明るくなり始める。

彼女がとても優しい顔をしているのがよく分かる。

…逃げ出したい


「ソウタ。座って」


逃げ出せないよな…


朝日はもう、昇ってきてる。


                   つづく

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STAR SPiNE -星の背- 史上最悪の大罪人の息子が未来と引き換えに革命を選ぶ 宮端 海名 @miyahata_umina

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