第2話 三領域連合警察隊
-ソウタが目を覚ます10分前-
「コレで最後の一人か」
浴衣の男が、暴れるゴロツキの後ろ手をきつく縛る。
そしてヒョイっとそのゴロツキを肩に担いで、
とある合流地点に急ぐ。
(…妙だな。司令のことだ。何か考えがある思ったが…)
16年前に、三領域連合会は領域連合軍を設立。
今では「警察隊」と名を変えて主にアストラ討伐を任されている部隊。
永らく警察隊とアストラは因縁の宿敵である。
浴衣の男の名は アイゼン。
アイゼンがここ、東方記念碑公園に派遣されてから4時間が経過している。
(この公園にいたのはアストラかぶれのゴロツキだけ…ゴミ掃除なら本部にやらせばいいものを)
アイゼンは石碑がある高台にたどり着く。
誰もいない
(…異常、なしか)
するとアイゼンの耳に付いている無線機に音声が入る。
「アイゼン、聞こえるか?」
「はい、こちらアイゼン。どうぞ」
「こちらアンバー。ここ周辺にいた奴らは全員確保した。司令が到着されるまで車内で待機しよう」
「…了解ぃ」
アイゼンは軽やかに階段を降りて、
停車中の警察隊車両に向かう。
車の前ではアンバーが待ち構えていて、アイゼンはゴロツキを彼に引き渡す。
「やはりだれもいないか?」
アンバーはゴロツキの口に拘束具をはめながら、改めて確認する。
「はい、何度捜索してもコイツら以外誰も…
87番は見つかりません」
「珍しく、司令の勘が外れたな」
アイゼン
年 齢:22
所 属:警察隊特部第一部隊 副隊長
種 族:真人族
監視番号:203
アンバー
年 齢:70
所 属:警察隊特部第二部隊 隊長
種 族:真人族
ラウ
年 齢:14
所 属:警察隊特部第二部隊 隊員
種 族:妖精族
アンバーは最後のゴロツキを車両に押し込む。
アストラかぶれは5人。
アイゼンは端から舐めるように眺めてポツリと吐き捨てた。
「もう…やみくもに探すより、コイツらに吐かすほうが早くないすか?」
アイゼンは腰から下げてた刀に手をかける。
「自分、やりますよ?」
すると車内にいたもう一人の隊員、ラウが喋り出した。
「だーめデェス。尋問拷問はNGぃデェス。
ボクもさっきやろうとしたら「口枷を絶対に外すな」て司令から言われましたもん」
アンバーが嗜める。
「ラウ、解析に集中しろ」
「やってますよぉ。でも確かにコレ、87番が通っている学校の備品と同じ型番ですねぇ」
ラウの左手には液晶の破片。
一向は粉々に砕かれた液晶テレビを階段下で見つけていた。
「87番がここに来た可能性はあります。でもまだここにいるかはなんともです」
ラウは「お手上げ〜」と両手を上げてちょける。
「アイゼンさ〜ん、ヒマなら町内もぐるっとパトっちゃってくださいよぉ」
「ナメてんなぁテメェ…!」
アイゼンはどつくための握りこぶしを作った。 が、あえなくアンバーに止められる。
「そのくらいにしときなさい。イライラするのも分かりますが、犯人たちの前です」
アイゼンとラウは黙り込む。
式典閉幕後、「空の国競技場」でちょっとした暴動が起こった。
その暴動鎮圧のため警察隊の出動命令が出され駆けつけたものの、一足先に現場にいた"司令"に、3人だけなぜか任務から外され、代わりに、田舎の公園に派遣された。
「監視対象87の保護に行け」
たったそれだけの指示しか出されず、そのため、暴動の詳細は知らない。
「…司令、まだかなぁ」
ラウはポツリとぼやいた。
なんとなく居心地が悪くなり、アイゼンはたまらず降車した。
その時だった。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオン!!!
公園中に響き渡る爆発音。
続けて星の子の咆哮が轟く。
しかし、肝心のその姿が見えない。
アンバーとラウは車を飛び出し、
すぐさま音が聞こえた方向へ走りだす。
「アイゼンっ!!」
「はいっ!」
アイゼンは車の前で刀を抜き、
刃がついた側の刀身を自らの腕に押しあてた。
ダラダラ、赤い血が流れる。
アイゼンは顔を歪ませるが、さらに切りつけていく。
「えんえん。どんどん。…そーまれ、染まれ」
低く抑揚のない声。
すると、アイゼンの肌に紫のあざが浮き上がる。奇妙なことに、傷口から流れる血は赤から藍に色を変えた。
「えんえん。どんどん。…そーまれ、染まれ」
詠唱を繰り返す。
やがてアイゼンの足元に藍色の血溜まりができる。
「…そーまれ、染まれ」
アイゼンから直線距離で70m、
階段上にいるソウタと星の子の体に、藍の色が移り染まり、ようやく肉眼で視覚化できるようになった。
「いたっ、見えた!」
ラウがいち早く駆けつけようと羽ばたいたとき、アイゼンは危険を察知する。
「ラぁあウ!止まれぇえ!!!!!」
見えてなかったのは星の子とソウタだけではなかった。
「…ヒヒ。遅い」
敵の武器、鎌の刃がラウの首に迫っていた。
(あ…しくじった)
☆
アイゼンさんに言われるまで、敵の存在に気づけなかった。
(ミスった。どうしよう)
ラウは頭をフル稼働させる。
(後ろにアンバーさんが来てる…でもボクが避けたらきっと当たっちゃうんじゃないかなぁ)
だったら…
もう避けられないと悟ったラウは、小刀を取り出す。
敵と目が合う。
目の周りには青い鉱石が散らばっている。
間違いない、アストラのメンバーだ。
(リーチは奴の方が長いっ!投げるしか)
首には、今まで経験したことない熱と痛み。
「やめろっ
アイゼンの声が聞こえて、
せっかく見えた敵がまた見えなくなっていく。
(オイ、術解くなよ。馬鹿なの?87番、また見えなくなりますよ?…ボクが引きつけてますから。ちゃんと当てますから)
ラウは防御を捨て、ナイフに集中する。
痛い。
…コレが最後なんて……腹立つ。
せめて役に立ってみせる。
ただで死んでたまるもんかっ!!
「惜しい。
もう少し内側に捻らないと当たらないよ」
ピンと、見えている景色のトーンが上がった。
あれ…?
司令の声が聞こえる…
キてるのか。 死ぬってこんな感じ?
ラウは言われたとおり手首を捻り、
小刀を敵に向かって投げて、そのまま落下する。
思っていたよりゆっくりとした時間が流れる。
へぇ〜走馬灯ってこんなにあったかいんだ…
当たったかな、 当たるといいな
ごめん。アイゼンさん、アンバーさん
でも、さっき司令の声が聞こえたよ、
もう少しで来るはずだから、 だから大丈夫
「ラウっ!!!!」
☆
「大丈夫、寝てるだけよ」
司令はラウを抱えながら華麗にアイゼンの目の前に着地した。
「プツンって緊張が切れたんだよ。痛かったろうに、よく、がんばったね」
司令はラウのおでこに優しくキスをする。
ラウの表情は柔らぎ、スースーと寝息を立て始めた。
「し、司令…」
「遅れてごめんね。星の子もやっつけたから
安心して」
司令の左手には赤い球体。
まだあどけなさが残る顔で少女は笑う。
メラナ
年 齢:17(推定)
所 属:警察隊特部 最高司令官
種 族:不明
監視番号:03
(やっと来てくれた…ラウも生きてる…)
アイゼンはフラフラとその場に崩れこむ。
(やべ…カッコ悪…)
出血で頭がふらつく。まだ敵がいるのに…
「司令…」
「ん、休んでな」
司令メラナは優しく微笑むと、ラウをアイゼンに任せて敵と戦闘中のアンバーに駆け寄っていく。
「へっへへ〜イ!バトンタ〜チ!」
アンバーの肩口で囁く。
「87番は階段上。敵の罠がまだ仕掛けられているかも。私が抑えるから慎重に動け」
アンバーは小さくうなずき、階段に進路をとった。
「させるかよぉお!」
敵は、ヒビが入った鎌をアンバーに振りかざすが、今度こそメラナに粉々に壊される。
「っ!」
「フフ」
メラナは不敵に微笑む。
(この女っ!どうなってる!?さっきだってあと少しで仕留められたのにっ!素手で…素手で刃を砕きやがった!)
「随分ななまくらねぇ。アストラは武器をあてがうお金もないのかしら?」
「…テメェ、さては特異個体だな?
アストラ様から聞いてるぞ…ハハッ!俺の手柄だ。ギタギタにしてやるよ」
敵の体がふたたび透けはじめる。
それを見てアイゼンはハッとする。
(まずい!)
「司令ぃ!ソイツっ…!」
(あれ、俺の刀は?)
アイゼンの右手に握られていたはずの刀が消えている。
「うぐっ!!」
アイゼンはすぐさま司令を見る。
メラナは藍色に染まった刀を握っている。
「あれ、ココかな」
メラナは刀で空中を数回斬りつけると誰かの赤い血が飛び散った。
「うっがぁあ…!!」
「ほらほらぁ。その変な術解かないと、私やめないよ〜」
(いつのまに…)
アイゼンは文字どおり空いた口が塞がらない。
やがて血だらけになった敵がみえてくる。
もう、虫の息だ。
刀は敵の喉仏に鮮やかに止まる。
「大人しくしてね。逃げたら殺すから」
(相変わらず…意味わかんねぇな、あの人)
そんなことを考えつつアイゼンは拘束を手伝う。
「87番を襲った目的は?」
「…………」
「ふ〜〜ん…」
メラナはニコニコ笑っている。
そして目にも止まらぬ速さで敵のみぞおちを殴った。
敵は血を吐く。
「がっ………え"っ…」
「87番を襲った目的は?」
「誰がっ…誰がんなごどっ…」
ゴッ
もう一度みぞおちを殴り込まれる。
「87番を襲った目的は?」
「やめ…」
ゴッ
「87番を襲った目的は?」
そのような繰り返しが計5回繰り返させる。
その間もメラナはニコニコしていた。
「さ…攫えってアストラ様に言われて…」
敵はそのまま気絶した。
メラナは残念そうに「あ」と一言こぼしたが、穏やかな表情は変わらない。
「一旦はこんなもんかしらね」
メラナはケロッと立ち上がる。
「アイゼン」
「は、はい」
「全員、車に詰め込みなさい。本部に戻るわよ」
それだけ言うと、メラナはラウを抱き抱えて、スタスタと歩き出す。
「ちょ!待ってください!」
アイゼンは慌ててメラナの後を追う。
「…ごめん」
「え、なにが…」
「隊長がアストラにやられた。アストラが式典に潜り込んでたの」
「は?隊…ちょう…が?」
アイゼンは驚きのあまり、担いでいた敵を落とす。
「ゔっ……」虚しいうめき声がした。
メラナは振り向き、アイゼンの目を見る。
「…始まるわ。気を引き締めて」
つづく
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