第2章 JK女神の十字ボタン

第1節 八柱でエモスロー

第23話 ドラゴンの巣

「ドラゴン! 花園のドラゴンよ、まだ、聞きたいことがある」

「我は、巣に帰らなければならない」


 ドラゴンは、翼を高く翳したかと思うと、一つ風を送った。俺も飛ばされそうになる。


「ス? 酢? 素? ええと、巣が正しいよな。何処にあるんだ?」

「とても近くて、とても遠い。微妙な位置にある」


 花園のドラゴンの巣とは、花が沢山咲いているのだろうか。禿山のようなのだろうか。


「ボクも行ってみたいな」

「ドドドン! 正直でなければ、落ちる。それでもよければ来い」


 花園のドラゴンは、三つ程羽ばたいて、飛翔して行った。正直かって、特に問題はないと思うが。省みてみると、百パーセントは難しいだろう。それが、人ってものだ。


「ボクの名前は、直人。真っ直ぐな人と書く。名前に相応しいかは、疑問も残るかもな」


 カッコいいドラゴンとは、折あらば、再び会えるだろう。


 ◇◇◇


 さて、JK女神、八柱の件に立ち返る。皆の方を振り向いた。


「水仙さんが、ラストJK女神じゃなかった。七柱で終わらなかったのか」


 おお。我ながら閃いた。


「分かった。春が桜と菜の花で、夏が紫陽花と百合で、秋が菊と秋桜と二組ずつなのに、冬は水仙だけで女神の咲く花が少ない。ボクは、てっきり、冬は咲く花も少ないからかと思い込んでいた。だが、水仙さんは、井戸から自力で現れたらしい。そうだよな?」


 落ち着き払っている水仙さんにしては、顔面が引きつっている。


「わらわは、急いでおったのじゃ」

「花から召喚されるのも美しいと思うよ」


 綺麗とは言えない水に濡れていて、怖かったな。


「ともかく、皆、八柱の女神を知っていて、黙っていたのか」

「それには、事情もあるニャー」


 例のラプソディーとも関連があるな。毬藻ってるヤツだ。


「ニャートリー先生も一枚噛んでいたのか」

「悪者扱いしないでニャン。水仙さんには、会いたい人がいたニャリ」


 暫く前のバタバタを思い出す。


「例のアレか。菊子さんは、百合愛さんと仲良くしているけれども、秋桜さんの登場で、べたべたもしていられなくなった。花から召喚した途端、菊子さんがビンタをしていたな。ボクが仲裁に入っても止められなかったのを残念に思う」


 菊子さんが肩を竦めて、さも自分が正しいかのように振る舞う。


「ああ、オレが失敗した駆け落ちにチャチャ入れてくれたよ」


 デター。この恨みは、忘れないだね。顔から気品が抜けて来たな菊子さん。


「新たな愛で寄り添ってくれた百合愛の唇を容易く奪い去った」


 菊子さん、自信家だな。そもそもをはっきりさせよう。


「駆け落ちしたのは、誰なんだ?」


 誰の声かも分からない、甘い囁きが流れて来た。とても耳がこそばゆい。


「――だよ」


 声が風化して、聞こえなかった。


「わらわは、孫として百合愛を心配しておる」

「おっと、びっくりー! 百合愛さんの祖母が水仙さんなのか?」

「直坊、そうじゃて」


 あんぐりとするわ。


「世の中分からないな」

「目元とか、似ているみたいリン」

「そうだな、風貌がね。百合愛さん」


 そうだった。揉め事は元から直さないと駄目だったな。


「秋桜さんが、百合愛さんを求めて、キスをした。そこまでは、理解した」


 ニャートリーがゆでダコになっている。


「この話題は、苦手なんだニャー。色恋沙汰は困ったニャ、ニャ、ニャ」


 先程の甘い囁きを思い出す。


「誰かボクに耳打ちしなかったか?」


 皆が首を横に振る。駄目だ。どうして、こうなった。幻にしては、感触がリアルだな。そっと、耳に触れてみたとき、驚きの声がつんざいた。


「この中に、魔女がいるのです!」


 ファンファーレかと思ったぞ。


「秋桜さん、女神の園で突飛だろう?」


 問題山積みじゃないか。今は誰が駆け落ちを邪魔したかだ。


「魔女がいる訳がないよ」


 制服の胸を叩いたのは秋桜さんだ。


「騒がしい【八栞】によればです。必ず、この中にいます」


 困ったな。騒がしくなるぞ。わちゃわちゃならいいんだけどね。

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