第19話 叫べ七柱
あれは、オーロラ。間違いない。ここは花園の筈。それなのに可笑しいと思わないか。
「そもそも、オーロラは、太陽風が北極や南極にある酸素や窒素を刺激して、光を出すんだったな」
科学って、さり気なく役に立ってくれる可愛いヤツだ。あずま大学は、この際、関係ないよな。
「そうだ。太陽に散々苛められていたっけ。それも影響しているのだろう」
高緯度では、日中の陽射しが強いため、直視するものではない。だから、サングラスが必要なのだが、RPGでペガサスに乗るのに、サングラスは必要なかった。だが、ゲームをしているときの装備としては、ベッドに横になって、ゲーミングパソコンからアイシールドを装着するカッコいいものなんだ。ケーブルをなくせないかと思ったけれども、不用意に通信が切れることがある。それで、諦めたっけな。
「ゲームの名前と酷く被るな。『勇者はペガサスを駆り迷宮に巣食うオーロラ魔女のサバトを阻止す』なんて、前向きな復讐劇をプレイしていたんだよな」
どこが被るかと言えば、JK女神らは、子どもだから分からないだろうが、オーロラ魔女って惹かれるものがないかな。孤高な感じを受けるよ。
「さて、冷静に次の行動を決めるか。ここを観察したいのも山々だが、どうも霊でもいそうな雰囲気がある。できれば、おさらばしたい古代遺跡だ。しかし、電気蔦がなあ……」
弱気な訳ではない。
「ゆっくりしていられないな。おおがみファームへ戻らないと」
俺の胸から雫のようなものが光る。
「どうして、そこまでして、農場長をしていたいんだ? お腹が空く訳でもない。作物ができれば、嬉しくない訳でもないからか。だが、動機としては十分ではないだろう?」
ひんやりとした空気にゾッとしたようだ。とうとう出たか。正体見たり枯れ尾花であることを祈る。けれども、ここには、電気蔦しかないとは。とほほ。
「花園の守り神がお迎えに来たニャー」
「ニャート……」
一瞬にして、海亀化が始まってしまった。俺でさえ、自身の顔を覆うよ。ダバダバと流れる涙、止めようとしたって無理だよな。
「ニャートリー先生!」
卵がつまったときは、海亀化だなんて言って悪かった。こんな風に、コントロールできないものだ。
「沢山泣いてもいいから、これからもJK女神達とも共存して行きたい。どうか、ボクを仲間に入れてくれないか?」
「最初から、なかよしニャ」
あたたかい。ここは、とても冷えているのに、胸の奥がぽわっとする。
「入った所から、出て来られるかニャ?」
「そうしたいのだけど、電気が走ったかのように、痺れる蔦があるんだよ」
他に出口とやらが見つかればいいが。
「そうだ。特技で、どうにかならないのかな?」
「それが、古代遺跡だけは、難しい関係にあるニャリ。JK女神も中に入るのは無理だと思われるニャー。残念ニャン」
相談できるのは、ニャートリーだけだから、しっかり話したい。どの女神の特技も駄目だとすれば、自力で出るしかないのか。
「分かった。どうかにかして、あのビリビリを堪えてみる」
ニャートリーが唸る声が聞える。もう、お産はないだろうよ。
「あんニャー。ここは、オーロラの力が霊的に働いているんニャ」
「ボクも同じことを感じていた! だから、皆が入れないのか?」
自分で口にしていて可笑しな話だが、図星かも知れないと思った。
「女神達の目を覚まさせて、ここへ連れて来るニャン。待っていてニャー」
焦って、出ることもあるまいよ。俺は、もう一度天井に顔を向けた。色とりどりの波が美しいオーロラが、キラキラと語り掛けている。
『大神直人よ。大きなペガサスの翼のように、羽ばたく力がないのか?』
「ペガサスの翼か――。ニャートリーにも可愛い翼があるな。オーロラよ。仮にボクが近付こうとしよう。それから、どうしたいんだ? JK女神の特別な秘密でも握っているのかい?」
オーロラは大きな唇のようなものなのに、黙りこくっていた。俺の台詞の某かに引っ掛かるものがあるのだろう。
◇◇◇
寒いと感じる位になっていた。待つのは、寂しい作業だな。
「きったニャーン。連れて来たニャリヨ」
「おお! 皆がか? あったかいかあ――?」
一気に俺は陽気になった。
「気温がニャ? 体温ニャ?」
「両方かな」
深く考えないで訊いてしまったな。
「眩しい程の太陽があるニャリヨ」
「そうだった。外は太陽が厳しいんだよ」
外の世界をゆっくりと思い出していたとき、聞き覚えのある声が、わっと聞こえて来た。
「大神くん! 今、亡くなったら、小麦のパンとかを食べられずに終わります」
「大神さん! ホットミルクを美味しく飲めると思うの」
「大神様! 茸に当たったのではないです。……ふう、そうです」
これは、櫻女さん、菜七さん、紫陽花さん。小麦、ミルク、茸は、成功したね。ミルクを飲めるようにするまで、あと一歩だ。
「直きゅん! 折角、菊きゅんと会わせてくれたのに? それじゃ終わっちゃうリン」
「大神殿! 果樹のお仕事はこれからだ。働きぶりをご覧入れよう」
これは、これは、お二人さん。栗拾いは難しくないから、エモいスローライフとして楽しんで欲しい。二人で、チクチクするとか、はしゃぎながら収穫するのもいいよ。
「直坊! わらわじゃ」
どなたでしょうか。秋桜さんではないな。こちらからは、観察できないから、残念だ。
「井戸から押し掛けて、許してくだされ。冬まで待てなかったからじゃ」
「なーにー! どうやって出て来た? わらわって誰だよ」
「失敬。水仙と申す」
そうか。新しいJK女神か。いつの間にって感じだな。
「今、心に描いたことを瞼に焼き付けてください。栞……。【八栞】の能力通りに、女神達が引き寄せ合って集まっております」
「わらわまで呼ばれたわ! 秋桜――!」
掴み難い異様な雰囲気の二人だ。仲良しなのか、喧嘩しているのか。
「とにかくだ、皆、楽しくしていてくれ」
「楽しくですか? 大神くんが古代遺跡に入ってしまったのに?」
「そうだ。せめて、外では、わちゃわちゃしていて欲しい……」
俺自身の意外な本音だった。自分が楽しみたい、ゲームの世界と少し違う。皆が楽しんでいるのをゆったりと眺めるのが、最高のスローライフだ。エモいスローライフなんだよと、一人帰結していた。
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