第20話 電気蔦と鏡の水仙

「とにかくだ。天井から出るのは、オーロラもあることだし、不測のことが起こりそうだ」


 やはり、入ってしまった入り口から出るか。それでこその出入り口だしな。


「皆は、わちゃわちゃして楽しんでいてくれよ。ボクはボクで、間もなく混ざれるだろう」


 喜々とする声が聞える。JK女神達は、とうとう七柱となったが、幼くないか。


「かあ! 一部、喧嘩もしているな。仲良くして欲しいものだよ」


 二歩、入り口方面から下がった。勢いを付けるためだ。


「行くか……。慎重にしても、適当でも同じなら、運に任せる」


 心の中で、叫んでいた。ニャートリーよ、ニャートリーは、俺のことを思っていてくれているかな。


「ボクを応援してくれ……」


 ビリビリビリビリ。


「ンン、ウンアア――! い、痛――!」


 叫ぶのも疲れた頃、あんなに寒かった古代遺跡の中から、放り出された。背中を反らせて、悶える。


「うう……。中は寒かったから、ここは天国だな。やけにあたたかい。天国って逝ってしまったら、本当に誰にも会えなくなるのか。それは、勘弁して欲しいな」


 辞世の句を考えていた頃、わちゃわちゃの足音が聞こえて来た。少しずつ、少しずつ。いや、寧ろ煩い。流石の俺も目が覚めた。


「あんな、七柱のJK女神と、そこのニャートリー先生!」


 俺は白目になって、ピンクのふわもこを人差し指でビシッと示した。


「は、はいニャン? 大神直人さん。花園の守り神ニャリヨ」


 続いて、皆も俺に反応する。


「大神くん。櫻女です」

「大神さん。菜七だと思うの」

「大神様。……ふう。紫陽花に、茸がむきむき」

「直きゅん。百合愛まで、わちゃわちゃして煩かったリン?」

「大神殿。菊子が男前一人、モテちゃって困るよ」

「大神直人さま。秋桜ですが、【八栞】の効果があり過ぎたようです」

「直坊。これから、わらわの話を聞くがよし。どうして井戸から上がったかも」


 混乱するだろうよ。


「ボイスが八カ所から――! でも、聞き分けられた。ボクは偉い」


 ボフッと顔面がピンクに覆われた。


「よかったニャン! 出て来られたニャン」

「あーあー、元気な生ものだな。いつも、いつも、そうしてボクの傍にいてくれたらいいよ」


 ももももっと、もっとピンクが押して来るではないか。


「たらしニャ」

「酷い! そんなつもりは、欠片もないのに」


 ももももっと、俺の顔はピンクのふわもこがどうなっているのか、知りそうになった。


「いつか、大神直人さんの卵を産むニャリ」

「――な!」


 愚かなことを。


「了解してくれて、嬉しいニャリヨ」

「ニャートリー先生、大きな勘違いをしておりませぬか? 驚いたのですけど、ボク」


 猫鶏化した俺が産まれるのかい。


「電気蔦を出られてよかったよ。皆も心配してくれて、本当にありがとうな」


 七柱からも喜びの声が上がった。


「わあー」

「きゃー」

「やったー」


 拍手まで、とてもありがたい。俺は本気で感謝しているときだった。


「――気を付けろ!」

「誰だ?」


 今のは、JK女神でもニャートリーでもない。そう、男の声だった。振り向くと、そこには、古代遺跡しかない。まさか、話をする遺跡など聞いたことがない。


「誰だ? さっさと名乗れば、とがめないよ」

「――JK女神には裏がある。だしに使われるな!」


 そこまで知っているのなら、教えて欲しい。


「古代遺跡よ、もっと話をして欲しい」


 眩しい太陽とオーロラの関係も知りたいしな。


 ◇◇◇


 大切なコンタクトを取っているとき、櫻女さんから、ウインクバチンが来た。悪いことしていないよな。


「大神くん、水仙さんが、自己紹介をしたいそうです」

「実にいいタイミングだな。でも、仲間だから、知った方がいいよね」


 櫻女さんに促されて、そそと水仙さんが立ち上がる。


「わらわは、水仙。縁あって、参った。本当は、花の召喚魔法を待っておったが、冬にならないと呼ばれないでな。先にこちらの世界へ召喚された気になる方がいるので、自ら井戸に身を投げたのじゃ」

「ふむ。ここで、ニャートリーノが欲しいな」


 後ろから風を感じて振り返る。ニャートリーが滑空し、すかさず啼いた。


「この女神のニャートリーノ投影!」


 ニャートリーから女神様の後ろに大きくブルースクリーンが出された。


 ◆水仙の女神◆水仙すいせん・特技【合奏がっそう


「ナイス! ニャートリー先生。仕事が早いね」

「ニャンとも褒め過ぎニャリ」


 さて、ここにも井戸はあるが、話がおかしいな。


「うーん。どの時代の井戸かな? その前に日本かい」


 ざばりと水を被っているが、その水の粒はきらきらとはしていなかった。淀んで見えたのは俺だけか。


「水仙さんと仰る。髪まで黄色と白の花に彩られていて、水仙を思わせるよね。和服姿か。他の女子高生女神達は各々の制服を着ているけれども」


 懐かしい、そして、遠い目をして、水仙さんが口を開いた。


「元紅花高等学校、元一年きく組、そして堂々の帰宅部きたくぶで有名じゃったのう」

「その学校の名前、知っているよ。菊子さんと一緒だ」


 はっとした顔で、俺に笑いかけた。


「驚いたかのう?」


 水仙さんは、素敵な着物の懐から、抹茶セットを出した。啜る。この異次元のポケットは、どうなっているんだ。しかし、触れば痴漢になってしまう。百合愛さんの、エッチバチンと変わらないかな。


「偶然かも知れないがな。黒いシャツの制服ではないと」

「わらわの時代は、着物に袴が正装じゃて」


 お洒落で和装ではないんだ。左右に赤いリボンで結った髪から、金の髪が流れ行く。それに沿って、水仙も散る。胸元は、水仙で沢山覆われている。瞳は、深いブルーが見事だ。


「時代! いつの時代でしょうか?」

「タイショウじゃよ?」


 大正だ。


「日本の古き元号か。うちの曾祖母が生きていたら、同じ位になるね」


 水仙さんは、喉を潤したのか、落ち着いたのか、抹茶セットを懐に戻した。恐るべし、異次元ポケット。


「この付近で鍋を拾っても正しい使い方以外は駄目じゃ。とかく鍋を被ってはならない。断じて」


 当然だろうよ。ざるも被ると駄目だよな。


「この言い伝えは、戦時中に、鉄砲等が怖くて鍋を被っても貫通したと聞いたが、知らぬか?」

「初耳ですよ」


 横道にそれたが、水仙さんがご降誕だ。てっきり、JK女神は、種から現れると思っていた。不意打ちを食らったようなものだよ。嫌いじゃないけれども。


「降誕されたタイミングが分からないよな」

「直坊。女子高生女神にも因果応報の欠片があったりするものじゃ。鏡の欠片のように。だからじゃよ」


 鏡の欠片。この言葉がとても気になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る