第1章 花咲けクエストBダッシュ
第1節 春は宵が似合う
第2話 桜舞う真面目っ子JK女神
ここには、雀がいないようで、朝が来てもチュンとは啼かない。寧ろ、猫鶏が啼くのではないか。
「さてさて、初のクエストニャーン」
ほら、来た。ニャンだ。しかも、今朝は、トテトテと可愛い歩み。ねぐらはどこだい。
「バババン! ニャートリーとエモいクエストをするニャン」
「ボクの命名、気に入ってくれているんだ。ニャートリー先生」
俺は、ひざまずき、花園の守り神を崇めた。あ、ピンクのふわもこがあっちを向いた。照れているのかな。
「ここは、花で一杯だニャ。やる気をポンするサービスムービーでお分かりニャン? 花々にも女神がいるニャー。それを、大神直人さんに育てて貰うニャン」
笑いを堪えている。猫鶏の背中が震えているのが、半分馬鹿にされている気がしないでもない。
「んん? ボクは、妹の
ニャートリーに首があるかは置いておいて、横に振った。尻尾がプルプルとして可愛い。猫鶏の伝えたいことは、おむつ替えについては、ノーだと理解した。
「いや、ちょっと待つニャン」
ニャートリーは、うずくまって、唸り出した。
「だ、駄目ニャン。土の上がいいニャー」
「どうした? ニャートリー先生」
自信がありそうなニャートリーが、落ち込んでいる。可愛いのパートツーだ。
「種を産むニャン!」
バババンと、俺に衝撃が及んだ。猫で鶏が、産むなら赤ちゃんか卵だ。何故、種なんだろう。
「た、種? 種を産む?」
「そうニャ。その種を育てて欲しいニャン。愛情を注ぐと、素敵な女神と出会えるニャ」
これは、一大事だ。なんつーゲームの世界だろう。
「その女神は、いずれも美少女女子高生揃い……。ニャリヨ?」
「だな。……ボクもびっくりしてやる気をポンするサービスムービーをうっかりしていたよ」
花園の守り神なのに、悪魔の囁きに聞こえる。
「ちょっと、土を掘って欲しいニャ」
「OK、OKなりよ」
卵、いや、種を産む位、ちょこっとでいいだろう。
「うういーん。草の根が張って、中々に厄介なりね」
爪に土が入り込んでも、数ミリも掘れない。いじけたりしないけれども、これでは美少女女子高生女神様とおデートできない。地味にポリポリとほじってみていた。
「大神直人さん、がんばらなくてもいいニャ。確か、抹茶ラテがお好きニャ」
「うーん。そうだけど、どうして知っているのさ」
ポリポリ、ポリポリ。まだ掘ってみるが、進まず。鎌かなんかあるといいけど。
「花園の守り神だからニャ。さーて、皆さん大好きテレテレテーのお時間ニャリ。【マッチャラー】だニャ!」
緑に輝いたスライムが渡された。
「ちょ、ちょちょちょ。これを口にしろと?」
「いいもんニャ」
「それって、果物のたたき売りに似ているような気がす……」
ぐはぼ!
「食わされた! 飲まされた? う、うげ……」
「吐くなニャー」
「昨日とは、別の問題だ! これは、これは――。美味いな! 京都の抹茶味だ」
ごっきゅん。すっかり飲み込んでしまった。
「凄い、【マッチャラー】のくだらない力がみなぎるよ。ボク、強い。耕します」
サクサク、サクサク。
「お日さまが高くなる前に終わるニャ」
「本当ですね。ニャートリー先生」
俺は、額の汗を焼けた肌で拭った。体を動かすゲームもさっぱりしていていいなあ。
「同じスローライフなら、エモーショナルな方がいいニャ」
「ボク、カタカナ用語使う猫鶏の先生を尊敬します」
「意味が分からないニャリネ。最初にこの春の種を産もうかニャ」
ニャートリー先生が再びうずくまると、唸り出した。
「桜の花よ、女神櫻女として、ポンと出でよ!」
ニュルポン。俺は何が起こっているのか分からないが、ここはニャートリーに付き従うことにした。
「さて、ちょっと土を被せるニャ」
「OK、OK。直植えで大丈夫かな。耐病性に欠けるけれども。所で、どうして、ニャートリー先生がなさらないんですか」
俺がそっと土をかけ、顔を上げると、ニャートリーは少々飛び上がっていた。
「そ、そりはニャーン。この体だからニャリヨ」
「悪かった。先生にも困ったことがあるんだね」
「でも、【ドラゴン放水】は得意だニャン」
ニャートリーは嘴をカッと開いた。
「花園の守り神が命ずる。【ドラゴン放水】で、種に祝福を!」
「おわああ……! 水が、水で、虹さえできている。す、凄い」
種が、分速一メートルで成長する。
可愛い桜色の光を身に纏い、腕は胸の前で交差して、俯き加減の顔を上げる。見まごうばかりの愛らしい女子に遭遇した。
神様などいないと思っていたのに。俺は女神様を拝むこととなった。
「な、桜の花が満開だ」
今の俺って挙動不審じゃないだろうか。女神様なのだから、俺の心も見透かしていそうだ。
「そして、女神様は、桜の花から顔を覗かせるのか」
その美しい人は、己の手を見つめて不思議そうに三度呟く。
「私は、どうしてこんな所にいるのでしょうね?」
桜色の瞳に桜色の髪を肩まで梳かして、ヘアーバンドに桜があしらわれている。服は、濃いグレーと淡いグレーのツートーンを金のボタンで留めており、白い襟だ。学生服か。もしもでなくても彼女は女子高生ではないか。
「JK女神、現る……」
優花以外、女子と喋っていない。どうしたらいいのか。ニャートリーは、俺が困っているときに限って上空を旋回している。仕方なく、ニャートリーを呼ぶことにした。俺は、口に手を添えて、空気を一杯に吸った。
「おーい。ニャートリー!」
すると、代わりに彼女が答えた。
「貴方は? 貴方はこの地の方ですね?」
ぎく。ぎく、ぎく。女の子の好きそうな話題を振るのが、ギャルゲームの基本だ。話題の選択肢があって、学校の話がいい。好きな教科あたりから始めると無難だ。
だが、この瑞々しい女神様は、本物の女子高生に違いない。どうしてこの畑にいるのかも分からないが、神々しく凛々しい感じを受ける。
いや、待てよ。そう、まるで桜から降誕したようだ。立派な桜の花、この桜色の美しい女子高生の柱か。柱という位だから、御神木、神様なのだろう。
後ろから風を感じて振り返る。ニャートリーが滑空し、すかさず啼いた。
「この女神のニャートリーノ投影!」
ニャートリーから女神様の後ろに大きくブルースクリーンが出された。
◆桜の女神◆
「えーと。『さくらおんな』さん?」
「そうね。私は、さくらめ……。『
しまった、名前を間違えた。いや、そこではない。俺ってば、自然と女子高生と喋ったぞ。
どうしよう。この先、どうしたらいいんだ。話題、話題、俺のリアルでゲーム好きな生活の中でシャボン玉のようなものが弾けた。
「ええ、学校は好きですか? 違う。学校がないから泣かれるかも知れない。うおっほん。好きなタイプは? プライバシー侵害とかで、引っぱたかれそうだよ。真面目そうだしな」
俺は、考えごとに夢中だ。
「先程から、独り言が聞こえていますよ」
「すまないです。櫻女さん」
俺は、ニヤニヤにながら、頭を下げた。楽しい、愉しい、スローライフ生活が、サバンナにいる気持ちで始まったでござるよ。花園ですが。
「次は、もっと楽に種を蒔けるニャ」
「ボク、ニャートリー先生と共にがんばります!」
「エモいスローライフでいいニャリヨ」
この先もゲームの世界でラッタッタだ。
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