ニャートリー先生のエモいスローライフでJK女神もわちゃわちゃです。
いすみ 静江
序章 ゲーム転移完了
第1話 ニャートリー先生、JK女神が寄って来るんです
俺は、大学も夏休みに入り、自室で体感型ファンタジーゲーム、『勇者はペガサスを駆り迷宮に巣食うオーロラ魔女のサバトを阻止す』の電源を入れた。この『ペガサバ』は、俺が主人公の勇者になって、ホワイトシュシュと名付けたペガサスに乗り、自由な旅をするんだ。そして、迷宮にオーロラ魔女としてラスボスがいるようだから、そのサバトを阻止すべくヒントを拾うゲームだ。ヒントには、俺の大好きなスローライフで、種を貰いつつ、花を咲かせて、美しい花の女神から魔女の素性を訊いて行く。この過程がとっても萌え度が高い。第一、スローライフそのものがエモいだろう。
「ああ――。ペガサスから落馬ってか! ホワイトシュシュ、置いて行かないで」
先ずは、ペガサスと種がありそうな土地を開墾しようと旅立った所だった。落ちたのもゲームの演出かと思ったが、山の頂に落ちると、体中に軋みを覚えた。
「こ、腰が……。ゲームと違うの?」
俺の上空からピンクの物体が滑空して来る。咄嗟に頭を庇うが、ヤツは神並みの速さだった。
「
「アナタは、猫の神様ですか? 鶏の神様ですか?」
俺の頭上を飛び回るヤツは、ふわふわのもこもこだ。どこか、神々しさを感じ得なくはなかったが、姿がビーチボールに羽や耳に嘴があるようだ。
「失敬な質問ニャン。花園の守り神ニャ」
「なら……。
大地は、綺麗な草花や木々が季節に関係なく咲き誇っている。ニャートリーが羽ばたくと、七つの花が散った。
「女神達よ、出でよ!」
俺の脳裏に初めてではない感触があった。別のゲームにでも出て来たのか。
「本来なら、種を蒔かないと出会えない女神達ニャ。やる気をポンするサービスムービーだニャン」
名前が浮かんで来る。
「
確か、彼女達は、女子高生の筈。四季折々に咲く花の名から、JK女神の名前にもなっている。
◇◇◇
そんなこんなが彼女達との出会い。幻影だったものだから、本当に出会うべく、ニャートリー先生とエモいスローライフを送りたい。そう思いつつ桜の木陰でまどろんでいた。
「駄目ニャ。大神直人さん、浮気症だニャー」
太陽を背にして空から現れるあのピンクのふわもこは、猫のようで鶏の生ものだ。
「猫鶏、ニャートリー先生! ボク、先生のことを腐った生ものだなんて、断じて思っていません」
慌てて、天に向けて手をバタバタと振った。ニャートリーは、高らかに笑った後、不思議な質問を投げて来た。
「ニャンニャニャー、ニャン。相変わらず、ムキムキ?」
ニャートリーは、態と滑空して来て、俺の目の前でバサバサと羽ばたいている。
「ムキムキ? 何が」
「間違えたニャ。モテモテだったニャー」
黄色い声と共に、JK女神が駆け寄って来る。少女漫画風に、タッタッタと。だが、食パンはくわえずに。
「大神くん。真面目に張り切ろうね」
「大神さん。いつも優しくしてくれてありがとう」
「大神様。これから、不吉なことが起きそう。奇妙よね」
割と真面目な三人官女のご登場だ。やわらかい花の香が混ざって、素敵なブーケになる筈が、何故か芳香剤の気がしてならない。
「櫻女さん、菜七さん、紫陽花さん! うおお、本当に、俺はモテ始めたのか?」
幻影かな。いや、そうでもないだろう。俺なんて、ゴロゴロしながら頬杖をついている。
「直きゅん。好きって告れないじゃん」
「大神殿。こっち見て。男前って噂されても割と女だよ」
俺は、むくりと起きた。百合のむあっとする香りと気高い菊の香は、相反するようで、馴染むと思う。
「おー、凄い。ギャルだ、ギャルだよ。百合愛さんと菊子さん。まだいるのかな?」
コトコトと不思議な駆け足で喧嘩しながら二人の影が近付いて来た。
「大神直人さまへ。八つある恋の栞を挟んであるの」
「
皆、各々の制服姿で寄って来てくれている。
「秋桜さん、水仙さん。あは、もう笑いが止まらないな。うーむ。これは困った。いずれも美少女ばかり。恐らく、女子高生だろうよ」
リアルに可愛い子の知り合いもいないからな。俺は照れまくりだが、そうもしていられなくなった。
「実際に女子の前に立ったら、どうしたらいい。ギャルゲーなら俺の腕の見せ所だけどな」
昭和臭いが、俺の鼻を親指で擦ってみる。
「ニャ! ぎゃるげえ――?」
「吐くなよ、ニャートリー先生。これって、まさかのギャルゲーと違うのか」
「ニャルげえー」
「くどいよ」
優しくしてあげないと駄目か。
「なあ、ニャートリー先生よ。ボクって、結構可愛い生もの好きだよ。猫鶏人生、迷子になったのかい?」
「ニャーン」
「そうしていると、猫っぽいよ。鶏っぽさは?」
「猫鶏と違うんだニャ。花園の守り神ニャン」
啼き声一つとっても神々しく澄んだ空気の感じがするな。ニャートリーは、不思議そうにこちらを見つめている。おっと、羽ばたいて行ったよ。遠く。遠い空に故郷を求めるかのように。
「俺もどこか遠い故郷を目指して旅をしていたのか? それとも、さっきまでのゲームの世界だろうか」
もう一度空を見上げる。ねぐらを探しているのか。ニャートリーは深く空を掘った。これは死の世界かパラダイスかと問いかけるように。俺は旅のゲートを開ける前から、旅愁を感じてしまう。
「明日から、一つ目のクエストを始めるニャー」
さっきのモテモテもニャートリーによるやる気をポンする幻影だったのか。でも、近い将来起こりそうだ。ここが地獄だったとしても、見上げてみろよ。ピンクの毛玉が飛び回って、愛らしい天使みたいだな。
「エモいスローライフすべし。最初のJK女神は、誰かな」
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