第30話
時は既に夕暮れまじかになっており、お腹も空き夕飯の仕度をしないといけない時間になっていた。だがワシ達が居る場所はと言うと、伍長と話した建物ではなく、騎士様が司令部として使っている建物の一室に通されていた。
そこには、ワシが助けた伍長や助けた兵士達がワシを取り囲んでおり、ワシは何か悪い事でもしたのかと錯覚してしまう。だが、ワシは何も悪い事はしていない。
「オジサン、シスターがすまなかった。この事は上官に報告はしたが、上官も大事にはしたくないと言っているから、どうかシスターを許してはもらえないだろうか?」
「あんな事をご主人様にしておいて、そんな勝手な言い分が通るはずがないです」
ヴィヴィアンが伍長に対して、正論を言うがヴィヴィアンをワシは制して伍長と話し始める。
ワシもシスターの件は大事にはしたくないのは一緒だ。だが、シスターに処罰が一切ないって訳ではないのだろう?
「……そう、問題は処罰をどうするかなんですオジサン」
ワシとしては、重い処罰にはしないで貰いたいのだが、鞭打ち刑や奴隷落ちはないのであろう?
「そんな重い処罰は考えてないと……ないと思いたいですが、決めるのは上官と助祭様なので、今は何とも言えませんね……」
そうか……もしも、重い罰になるのなら、ワシの顔に免じて許して貰いたいのだが、それも無理だろうか?
「私に決定権はありませんので、申し訳ないですオジサン……」
ところで、何でワシ達は此処に閉じ込められているんだ?
「いや、これは……オジサン達の身を危険から守る為の処置と考えて下さい」
それにしては……
ワシは周りを見渡し、完全武装で部屋を取り囲んでいる兵士達を眺めて、護衛をしていると言う風には見えず、ワシ達を逃がすまいとしている風に見えてしまう。
兵士達もワシに助けられた者が大半で、兵士の顔は困惑の色が隠せないで佇んでいる者達ばかりであった。
「取り合えず、上官達の話し合いが決まるまで、此処に逗留して貰う事になります。不便をおかけしますが、何卒ご理解くださいオジサン」
伍長は、そう言うと部屋を部下に任せて、部屋を出て行ってしまった。多分だが、上官に報告しに行ったと思われる。
そうこうしている内に、部屋に食事が運ばれてきて夕飯を食べる事にした。
「オジサマ、此処にどれ位まで居るのかな?」
「早く移動したいのにねオジサマ」
リーゼとミミは、此処に拘束される事が不満の様で、不貞腐れた顔をしながら食事を取り始めていた。不満はヴィヴィアン達も同じで、彼女達は何も言わないが、明らかに不満たらたらであった。
ワシは食事の途中であったが、席を立ちガレージの人用の通用口を開き、ガレージの奥へと姿を消してしまうと、部屋で護衛をしていた兵士が騒ぎ出し始めた。
直ぐに一人の兵士が部屋を駆け出して出ると、伍長に報告に走って行ったみたいであった。
ワシがガレージから酒の入った瓶を何本か抱えて出てきてみると、部屋には伍長や上官と思しき兵士の姿が目に入り、ワシが出てきたガレージを眺めていた。
「オジサン、それは魔法なの?魔法なら召還魔法?」
魔法……これって魔法になるのかな?
「ご主人様は召還魔法使いです。それも特級魔法使い並みの使い手だと、私は自負しております」
(――特級だと……伍長、これは報告にはなかったぞ。どう言う事なんだ)
(はっ、申し訳ありません。ですが、私も始めて聞きまして……まさか、特級の魔法使い様だとは……気が付かずに申し訳ありません)
(だが、領主様に報告すれば……アンジェ様の処遇も悪くはならないか……いや、いっそう結婚して貰い、辺境伯家に魔法使いの血が残せる可能性も……)
(少佐殿、今はその様な政治的な事は……)
何やら不穏な単語がワシの耳に入ってきているのだが……辺境伯家?何それ美味しいの?平民が玉の輿になるって事なら美味しいよな……でも、ワシは権力に興味がないんじゃが……
「失礼した。私は此処を取り仕切っている上層部の者で、階級は少佐を拝命している者だ。貴殿は魔法使い殿とお見受けするが、我が国に何様でいらっしゃったかお伺いしても宜しいかな?」
本当の事を話すと、何やら不味そうなので、ワシは言葉を濁してから話を始めだした。
ワシは流れてこの地に辿り着いた者で、戦争をしている事など知りもしなかった。だが、目の前で死に掛けている者達を見捨てる事も出来ずに、そこに立っている伍長や他の者も助けたのは知っていると思うが、それだけなのだ。信じて貰えないと言うのなら、ワシは直ぐにでも国外に出ようと思う。
「なるほど、旅の途中で立ち寄った国が戦争状態だったと、稀に聞く話ではありますね。それと我が軍の兵士を助けて頂まして、改めてお礼を言わせて貰います。部下達を助けて頂まして、本当に感謝しております」
少佐はワシに感謝を言った後に伍長の方を熱い眼差しで見やり、伍長は少佐に熱い眼差しで見られた事で顔が紅潮しており、二人がどう言う関係かを察してしまった。
ワシは少佐の感謝の言葉を受け入れ、少佐にこの後の事を聞くと、話し合いはまだ続くと言われてしまい、ワシはガレージから持ち出したワインを木製のワイングラスに注ぎ少佐に手渡して、飲む様に進めたが、少佐は毒殺でも恐れているのか、中々ワインに口を付けずにいた。
そう言う時は、まずワシが毒など入っていない事を証明する為に、ワイングラスに注がれていたワインを飲み干す事にした。
ワシがワインを飲んだ事で、確信が取れたのか少佐もワインを口に運ぶと、「このワイン……シュワシュワして美味しい……」と呟いていたのを聞き、伍長もご相伴にあずかりワインを飲んでいた。
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