第29話
オルガ国のペチャペチャの町を後にして、ワシ達一行はル゛ノ゛ー ガン゛クーⅢに乗り込み、この領地と接しているケベス国の国境近くの前線基地に向う。
ガン゛クーⅢの乗り心地は最高で、少々の悪路ならば難なく走破してしまい、オマケに荷物と乗車定員は七人も乗れる優れ物で、燃費も悪くないときたらお買い得な車と言えるだろう。
舗装されてない道を進む事三時間、目的の前線基地に到着したので、歩哨に騎士か下士官が居るかと訊ねるが、生憎二人とも国境近くまで出ていて留守であった。それならばと、ワシが助けた者は居るかを訊ねると、居るそうなので会わせて貰う事ができた。
「あら、こんなに早く戻ってきて、どうされたのですか?まさか、領軍に入隊したいとか?」
ワシはリーゼとミミを伍長に紹介すると、伍長はニヤニヤし始めていた。
「この子達と、旅をし始めたのですね。オジサンは手が早いですね。シスターがこの事を聞いたら、激昂して追い掛けられるかもですね」
えっ、何でシスターの事を知っているんだ伍長殿?
「そりゃー、あれだけ煩ければ、誰だって気が付きますよね……」
確かにシスターの声は大きいかったが、まさか……気が付かれていたとは……
「あっ、用件って何でしたかね?」
慌ててどうしたんだ伍長殿?用件は、オルガ国とエクスタシ国の合同作戦は何処の地で行うかが知りたいのだが。
「もしかして従軍されるのですか?」
うむ、その通りだ。戦場配信送信主が、こっちの子で、もう一人が相方送信者なんだ。そしてワシは、この子達の相談役みたいな者だな。
「なるほど、軍に協力してくれるならば、軍事機密を少しだけ話しましょう。私は下士官なので詳細までは知らされていませんが、大まかな事ならばお話できます」
それでも構いません。
「では、会戦場所はエクスタシ国のヅコパコ平野と流れてますが、あれは欺瞞行動の一環です。実際はオルガ国とエクスタシ国の間にある山脈ルートから密かに少数で進行して、敵の背後を奇襲すると言うのが大まかな作戦の様です」
そんな情報をよく知っていますな?
「あっ、これは映像ギルドが協力してくれていて、軍の特別回線を使用したら誰でも観る事が出来る情報なんですよ」
なるほど。それは中々に便利ですな。
「そうでしょう、そうでしょう。映像ギルドが出来て間もないですが、軍に協力をしてくれているので、頻繁に反撃作戦や緊急事態の遣り取りが出来るのが、連合王国の強みでもありますが、向こうは数がこっちの数倍なので、中々勝てないのも実情ですね……」
でも、向こうも無傷では無いのでしょう?
「そりゃーそうですよ。こっちも被害は出てますが、向こうの被害の方が多いと噂されている位ですから、でも、直ぐに減った兵士の数も時を置かずに元通りになっているから、苦戦を強いられているんですけどね」
苦戦しているのは、帝国の兵士の補充する人数が多いから、そう言う事ですな?
「その通りです。どうにかして、帝国の補給路か補充する兵員を出来れば、連合王国も盛り返せるのですけどね……」
伍長殿?顔が真っ青になってますが、どうなさったのですか?
「武器庫からハルバート何って持ち出してきた……逃げてオジサン、早く」
えっ?なにが?
「シスターが、さっき武器庫に入ったから嫌な予感がしたのよね。本当に逃げて!」
ワシが窓の外を見やると、中央の建物方面から出入り口の隣にある建物までを槍を肩に担ぎ走っているシスターの姿が目に入ってくる。あれは紛れも無く、一昨日に会った事のある人物だった。
「早く、早く、こっちから出れるから」
ワシ達は伍長の指示で、裏口から外に出ると、直ぐに門の外に出してもらう事が出来た。そして、ヴィヴィアン達が待っているガン゛クーⅢまで、全速力で走りに走っていたが、ワシの息が上がってしまい立ち止まってしまう。
「見つけたぁぁぁぁぁぁぁ、オジサマ私と一緒に死にましょうね♡」
そして迫る影が、ワシの背後まで近づいている。
なんでだ?何でそうなる?
迫るシスターを目の前に、ワシは対話を試みてみた。
「だって、オジサマが私を捨てて逃げるからよ……私の事なんって……遊びだったのでしょう?」
ワシは旅人だぞ。聖職者と旅人が一緒には居られないだろう。
「そうだけど、結婚すれば此処でも一緒に暮らせるのよ」
いや、ワシはオルガ国の国民でもなければ、連合王国の民でもない。そんなワシが軍の施設で暮らせるはずがなかろう?
「うっ……でも、でも……」
(シスターアンジェ、シスター止めなさい)
伍長が部下の兵士を引き連れ、門を出てから追いかけてくれたみたいで、伍長の姿がシスターの後方に見えていた。
伍長がシスターが持っていた槍を奪い取ると、シスターを羽交い絞めにして取り押さえてしまった。
「止めてよ、まだオジサマとお話してるんだから、止めてよ」
こうして、ワシはシスターの乱心から身を守れ、怪我も無く事無きを得たが、気になるのはシスターの事だった。
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