第16話

 ワシは、焚き火の前でシュラフに入ていたが寒い、もう秋から冬に入ろうかとしている位の寒空である。ワシは堪らずにテントをもう一組だすと直ぐに設営をしてから中に避難してしまう。


 テントに背負子に括り付けているリュックも入れてしまう。流石にワシの荷物も、二人が寝ているテントに入れてしまうと、二人の寝る場所がなくなるから外に出していたのだ。


 これで、寒さからは開放されたのだが、焚き火番は暇で仕方がない。ワシは何か暇を潰す物はないかと探すが、本は車に置いたままにしてきていたので、暇つぶしをする物がなかった。


 仕方がないので、そこら辺を散歩する事にする。此処は壁に守られた町の中である。町に入るのもお金か身分証がいるので、変な奴はおいそれと入っては来れないだろう。


 ワシ達の他にも、キャンプをしている者達が、ちらほら見えるから、治安の心配はしなくても大丈夫そうだ。衛兵らしき武器を持った者達が巡回もしてる姿も、視界の端に入ってくる。


 ワシは、テントがぎりぎり見える距離まで歩くと、そこで立ち止まり辺りを見渡す。そうすると、隣でキャンプをしていたテントから、甘い声が漏れて聞こえてきていた。


「っぁあぁっ、いいっ、いいの、もっと、もっと突いてぇぇぇぇぇ♡」


 テントの入り口は、少しだけテントの中が見えており、胸がデカイ女性が、胸の中くらいの女性の穴に、肉棒を挿入している姿が見えてきた。ワシは覗きをしている訳ではないので、そそくさとその場を離れ、テントに戻る。


 この世界は娯楽が少ないのか、夜になると、する事は皆一緒である。ワシは朝からしていたが、これはご愛嬌だ。


 他人の行為を見てしまい、肉棒が元気になってしまうが、二人は寝ているから我慢である。こんな事で二人を起こしては、二人に悪いからだ。


 ワシは、反対の方角に散歩に行くと、今度は裏路地から仄めかしな声が漏れてくる。ワシは、気が付かれない様に、そっと裏路地を見やると、そこには鎧を着込んだ女性が、壁に手を付けてバックから突かれている。槍は壁に立てかけられているが、二人の激しさで、今にも槍が倒れそうであった。


 此処でもワシは、気が付かれる前に退散してしまう。


 この世界では、性交が盛んなようだ。昨夜のシスターも普通なら聖職者が旅人に股を開く何って事はないだろう。好みのタイプだからと言ってないな。


 ワシは、壁際を歩いてテントに戻ると、人影が動くのが目に入る。どちらかが起きたのかと思って近寄るが、そうではなかった。


 ワシが夜食に作っていたオートミルのシチューを、ご丁寧に器に移して食べている者が、そこには居たのだ。


 おいキミ、そこで何をしている。


「あっ、ごめんなさい、ごめんなさい、お腹が空いていて我慢できずに……」


 そうか、お腹が空いているのか、それならば少しまっておれ。


 ワシは自分のテントからリュックを出し、菓子パンを取り出してから、女性に手渡した。


「これは、何ですか?」


 ワシは、菓子パンの袋を開けると、パンを出してから、女性の口に運んでやる。


「これはパンですよね?、食べてもいいのですか?」


 ワシは頷くと、女性は勢いよく食べ始める。事情は彼女が食べ終わってから聞く事にすると、ワシは暖かい紅茶を淹れてあげた。


「暖かいです。ごめんなさい。悪いとは思ったのですが、もう何日も飲まず食わずが続いてしまい。この町に入った時に、お金は使い果たしてしまい、日雇いで食いつなぐ日々をしていました」


 そうか、それは難儀したな。遠慮なく食べなさい。


「はい、ぐすっ、ぐすっ、うっぅぅぅぅぅ」


 人間、腹が減ると碌な考えが浮かばない物である。怒るのは簡単だが、人を許すのは、そうは行かない。だが、ワシは食べ物に困ってはいないので、心のゆとりが生まれていた。


 彼女は泣きながら食べ続け、シチューも菓子パンも綺麗に平らげてしまう。ワシは彼女から事情を聞こうと横に座ると、彼女は少し脅えてしまう。


 別に怒る訳ではないから、心配するな。


「本当ですか?だって私は悪い事をしてしまったのです。叩かれても仕方がない事なのです」


 まずは何があったか事情を話してくれないか、この町に着てからは分かった。町に来る前には何があった?


「はい、私は隣国の狐獣人族の者です。戦乱で町は焼け落ち、人間に狩られて、この国まで落ち延びてきました。逃げる時には少しだけ蓄えはあったのですが、逃げつく町で、食料を買っていると、何時の間にかお金が少なくなってしまったのです。祖国を脱出して難民となっても、行く宛てなどありません。お金もありません。このまま、私は死んで行くだけ……うっうぅぅぅぅ」


 此処にも戦乱に巻き込まれた者がいたか、戦乱とは何も生まないな、生むのは混乱と悲しみだけだ。


 ワシは、彼女の名前を聞いていた。


「私の名前は、ヴィヴィアン、トネール町のヴィヴィアンです。歳は十八になったばっかりです」


 ワシは安部と言う。





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