第10話

  ワシはリーゼとミミを両手でハグすると、二人に口付けをした。


「オジサマ、どうしたの」

「嬉しいですオジサマ」


 口付けを終えると、ワシは無言で二人を放して雑貨屋を探し始め、二人を両脇にはべらせて歩いてゆく。二人は照れくさそうにしており、身体をくねらせて、モジモジしているが、ワシの両手が二人の腰から尻に回ると、ビックンと身体を震わせている。


「恥ずかしいよ。いきなりどうしたの」

「寡黙なオジサマもステキ」


 しばらく歩くと、リーゼが雑貨屋を見つけ、ワシ達三人は雑貨屋に入る。日本で言う所のコンビニ位の広さのお店であったが、品の多さは安さの殿堂と謳っている店に似ている。ワシは二人のリュックを選び始めた。


 このお店は、リュックだけでも何種類もあり、二人の背中に背負って歩ける物を選んだ。リュックは各自で持たせており、ワシの次の目的は靴である。この世界には登山靴や軍用ブーツなどはない。でも皮靴はあるので、二人の足のサイズを測り靴に入るサイズを探した。


 それと、麻袋を各自二つ持たせて、綺麗な服や下着を入れる袋と汚れ物を入れる袋に分けさせる為だ。それと、木の樹脂を入れた陶器の壷を一つとハケを三つ買う。陶器の中身は桐油である。桐油は燈火油、油紙、雨合羽などに利用された油である。この他の使いかたとして、農村では防虫剤として重要な役割を果たした。


 これだけの物を買うだけで、五千五百アクメもした。ワシは五百アクメ安くならないかと交渉を続けて、やっと五千アクメぴったりで購入する事が出来たのだ。


 まだ時間は昼を回ったばかり、ワシは急いで人気の居ない場所で水場を探し、二人に買ったリュックと革靴と麻袋四つ取り出させた。全ての買った物に桐油をハケを使い塗る。塗った物は近くの木と木の間にロープを使い吊るし乾かした。


 洗濯バサミ類の小物もサイドポケットに入っていたのは行幸である。ワシもすっかり忘れていたが、洗濯物を干す様に入れていたの思い出した時には、顔を綻ばせていた様だ。


「「全てに塗り終わった」」


 二人の元気な声がワシに聞こえてきた。ワシは直ぐに井戸で水を汲むと、二人の手に付いた桐油を洗い流し、そして洗剤を付けて洗わせた。洗剤は台所洗剤である。頑固な油汚れも、難なく落とす優れものである。


 リュックの小物類も一度しっかりと、確認作業をしないと駄目だな。何をリュックの中に入れているか忘れているからだ。サイドポケットや隠しポケットの中にも色々な物を入れていた気がする。


 二人にはリュックとかの品物が乾くまで、その場所で番をして貰い、ワシは雑貨屋に戻り店主に使い終わって残った桐油を渡した。これが店主との約束である。残った桐油を譲るなら五千アクメで良いと言ったのだ。全ての桐油を使うはずもないので、ワシはその条件で取引したのだ。


 店主に桐油を渡し終え、ワシは二人の待つ場所に急いで戻ると、二人は太陽の光が気持ち良かったのか、ワシを待っている間にうたた寝をしていた。風邪を引かないように二人に着るバスタオルのバスローブを取り出し掛けておく。


 二人が寝ている間に、ワシは二人に渡す物をリュックから取り出すと、分けてから並べて行く。冬用シュラフ・小型水筒・タオル・軍用ポンチョ・折り畳み式チエア・折り畳み式バケツ・折り畳み式手桶・手斧・刃渡り九寸(約三十四cm)の剣鉈・洗濯バサミ十個・洗濯用洗剤などを出しておく。


 そして、そろそろ夕暮れになろうかとしていた。


 ワシは井戸の側に簡易的な竈が眼に入り、此処でもキャンプをしているのだと気が付く、キャンプをして良いのなら話は簡単である。テントを設営し、焚き火の用意をしてから夕飯の支度である。


 今晩の夕飯の準備をする為に、クーラボックスを設営した台の近くに置くと、何を作ろうかと思っていると、ふいに数年前に作った鍋を思い出していた。だが、食材には鳥鍋の材料も無ければ、鍋の素もなかった。

 

 ワシは少しガッカリしながらもクーラーボックスに手を入れると、そこには鳥鍋の素と鶏肉や野菜が入っていた。ワシは目を疑ったが確かにあるのだ。これはもしかしてと思い至ると、ワシの行動は早かった。


 すぐさま、クーラーボックスに入れた事のあるレトルト食品や食材やデザートを思い浮かべると、クーラーボックスを開けてみた。すると、そこには思い浮かべた材料があったのだ。


 冷凍うどんとレンジでチンするゴハンが出てきていた。それと、プリンが三個入っている。これらは全て過去に入れた覚えのある物である。水筒やリュックだけではなくクーラーボックスにも、こんな秘密が隠されていた。


 この世界に来た時には食料に不安であったが、此れならば食料の不安もなくなり、安全に暮らしていける。もしも、三人で暮らし始めても、ワシが出した品を売れば食って行くだけの事はできるはずだ。


 そう思ったら、凄く気が楽になり、彼女達に美味しい鳥鍋を食べさせてあげたくなった。両手鍋を取り出し、鍋の素を入れて煮ていくだけの簡単な調理だが、味にハズレはない。うどんも最初から投入して、煮込みうどんにする。デザートはプリンを食べれば彼女達も喜ぶだろうと、ワシは二人が喜ぶ顔を思い浮かべながら、二人の寝顔を見て微笑む。


 



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