意外な一面
——夜
「というのが、あの時、
クライヤマで起きた事です」
具材が煮えるまでの間、
クライヤマでの出来事を、
経緯からアインズに話した。
日の巫女という存在の説明から、
彼女に助けられるところまでである。
「そう、そんなことがあったのね……」
「けど、アインズさんのおかげで
僕はこうして生きてるので。
改めて、ありがとうございます」
「いいのよ、お礼なんて。
それよりゴメンなさい。
暗い事ばかり訊いちゃったわね」
「いいんです。
誰かに話せて、少し気が楽になりましたし」
焚火に薪を追加する。
火があることで、
野生動物や虫からの被害は防ぐことが出来る。
消えてしまったら大変な騒ぎだが、
森が近いため、素材には困らないであろう。
「そろそろ良いかしらね」
金属の器を、棒を使って火からあげ、
具材をフォークでつつく。
スープの具材は野菜のみ。
味も塩コショウだけのシンプルなものだ。
湯気が顔面を襲い、少し顔をそらす。
野菜はどれも火が通っていそうだ。
「うん、もう食べられそうよ」
「では、いただきます」
「召し上がれ」
ユウキも彼女と同様に火からあげて、一口。
「美味しい……」
夜は少し冷える。
そんな中で頂く野菜スープは、
身体を芯から温めてくれるようであった。
夕食はこのスープとパン、そして煮沸した水。
「アインズさん料理できるんですね」
「……どういう意味よ」
「え、いや。ただ褒てるだけですが……」
「ならいいけど」
この質素な食事が御馳走に感じるのは、
味付けや火の通し具合といった、
アインズの料理手腕のおかげなのだろう。
そんな想いで言葉を放ったユウキだったが……。
「熱っ‼」
突然、野菜を口へ運んでいたアインズが叫んだ。
「……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。大丈夫よ、全然」
——その割には恐ろしく慎重な食べ方だな
口は災いのもと、という言葉がある。
だから彼は、声には出さず食事を続けた。
「あっ、熱——なに、大丈夫よ」
——アインズはアレでおっちょこちょいな部分がある。
——その、なんだ。
——少し気にかけてやってくれ。
——ツヴァイさんが言ってたのってコレか?
食事を終えた頃には、辺りは既に真っ暗だった。
日は落ち、頼りになるのは焚火だけ。
使った食器などを片付け、
お湯を沸かして飲み、一息つく二人。
「……」
見上げると、ほとんど満天の星空が見える。
「天候が荒れなくてよかったわね」
「ですね……。星、綺麗ですね」
「そうね」
ほとんどと評価したのは
言うまでも無く、月のせいだ。
月が地表に近付いたため、
その部分の空を拝むことは難しい。
空間に穴が開いていて、
まるで吸い込まれそうな感覚に陥る。
そんな景色である。
「さて、もうお腹は休めたかしら?」
膝にポンと手を置き、唐突に、
ユウキに向かって問うたアインズ。
「え? まあ、休めましたけど」
食事が終わり、気分も落ち着いた。
——後はゆっくり休んで夜を明かすのかな
そう思っていたユウキに対して
提案されたのは——
「よし。じゃあ、騎士のお姉さんが
剣の手ほどきをしてあげる」
——王国騎士団第一部隊長アインズによる、
直々の訓練であった。
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