剣の手ほどき

 ——フュンオラージュ、川端


「じゃあまずは、剣を構えてみましょうか」


「はい」


地面に置かれた剣。

その柄の部分を両手で持つ。


「うっ」


持ち上げると、

初めての時ほどではないにしろ、

やはり体がふらつく。


剣を支えられず、

逆に、剣に振り回されてしまっているのだ。


「腕の力だけで持とうとしちゃダメ。

極端に言えば、脚と腰で持ち上げるイメージよ」


腕よりも脚腰の方が大きな力を出せる。


その言葉をどこかで聞いた覚えが

あったユウキは、少し記憶を探ってみた。


——ああ、農具だ


クライヤマで畑仕事を手伝った際に

聞いた文言であった。


すんなりと思い出せた彼は、

その経験をもとに、

脚腰でこの重い武器を支えてみる。


——脚腰で持ち上げる


——腕は細かい制御に使って


「うん、良い感じね。後は、

身体の重心を動かしてみて。

何処かに、ユウキ君がちょうどいいと思う

場所があるはずよ」


言われた通り、ちょうどよい場所を探して

体重のかけ方を変えてみる。


と——


「あ、あれ、軽くなった?」


数秒前までフラフラしていたユウキだが、

突如、それは一変した。


驚くほど安定し、剣を支えることが

出来ている様子であった。


加えて、安定感を維持することも出来ている。


「あら、良いじゃない」


思ったよりも早い習得に、

アインズは驚きと共に密かに感心した。


「じゃあ次。剣を振るときは、更に注意が必要よ」


「注意?」


「まず、脇をしめること」


「はい」


これはまさにクワなんかと同じで、

経験があった少年はすぐに達成。


「それから、剣の重さに

振り回され過ぎないこと。関節抜けるわよ」


「怖っ!」


「まあ、夢中になって

振りすぎた場合の話だけど」


「あはは……よかった……のかな……?」


安堵すべきかどうかわからず、

取敢えずの苦笑いを一つ。


「じゃあ最後。私に、一撃打ってみなさい」


「え、いいんですか?」


「ええ。いつでも、どこからでもどうぞ?」


ふと、バケモノとの戦いが頭の中で蘇った。


あの初陣とは異なり、

今はアインズの教えによって

身体と武器を制御できている。


武器をふるう際の注意点も把握した。


その事が自信につながり、

自然と落ち着くことが出来た。


凛と立つアインズに

向ける視線は毅然としている。


——良い眼ね。ユウキ君の覚悟が見えるようだわ


様々な面において少年に感心した彼女は、

その想いに応えるため、

全力で一撃を受けると決心した。


「行きますよ‼」


剣を大きく振り上げて走る。

その姿勢に見合う体重のかけ方を

模索しながら距離を詰める。


アインズが受けとめ体勢をとる。


そこへ、全身全霊の力を込め——


「はあっ‼」


ガン‼ と、剣同士が激突する音。


少年は、持てる力をすべて使って押し込んだ。


「なかなかいい攻撃じゃない」


一瞬、アインズが少しだけ肘を曲げる。


「あ、ありが——うわっ⁈」


今度はその肘を一気に伸ばし、

ユウキを押し返した。


不意にバランスを崩されたユウキは、

その場で尻餅をついてしまった。


「剣の持ち方は大丈夫そうね。けど——」


構えていた剣を鞘に戻しながら続ける。


「力だけの攻撃じゃ、

今みたいに弾かれちゃうわよ。

自分の攻撃の後まで考えておかないとね」


「はい……」


「さて、今日はそろそろ休みましょうか」


「そうですね、ありがとうございました」


軽く頭を下げて礼を言った少年は、

アインズの立ち位置が一歩たりとも

変化していないことに気付いた。


——普通にすごい人なんだな




「ふあ~、眠くなっちゃった」


馬車の座席車へ乗り込む。

今晩は半分野宿のような環境で寝ることになる。


決して柔らかくない長椅子をベッドにする。


脚を伸ばしきれない半端なサイズ感が、

若干ストレスを与える。


複数の要因があるが、少年が寝にくいと

感じる一番の要因は、

座席車の構造によるものであった。


「……」


「どうかしたの?」


「い、いえ、なんでもないです」


そもそも宿泊施設としての

用途は想定されていない。


——ちょっと気まずい……


すなわち、

座席同士が向かい合った構造であるのだ。


「……」


なるべくアインズと目が合ってしまわないよう、

ガラスに反射する焚火の残渣を眺める。


やはり火は心を落ち着かせる

視覚的効果があるようで、

少年は次第に襲い来る睡魔に服従していった。



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