行脚の方針

 ニューラグーン国へ向かう道中。


ユウキとアインズは、

旅の方針について話し合いを進める。


「今向かってるのは、クライヤマから見て北の鎖よ」


地図上で指を滑らせ、ユウキに向けて説明する。

クライヤマを丸で囲み、そこから北へ。


「で、この辺りがニューラグーン国」


ここまではメーデンの説明で

分かっていたユウキ。


「仮にそこの鎖を破壊したとして、

次はどっちに行くのがいいですかね……?」


「そうねえ……。まあ、北、東、南と回って」


彼女はまた指で示しながら話す。


クライヤマを中心に、

時計回りに円を描くように進み——


「いったんブライトヒルに戻るのがいいかもね。

体勢を立て直して、それから

西側の鎖に向かいましょうか」


北、東、南、西。

その順番で鎖を破壊して回る。


そして——


「西を壊したら、いよいよクライヤマね」

「クライヤマ……」


ユウキにとって故郷であり、

トラウマの地でもある集落。


最後の鎖がその場所にある。


「これで晴れて全破壊ね。月は戻って

バケモノも消滅……なんて上手く

いってくれればいいけれど」


「そうですね」


「じゃあ、そういう感じで進めましょうか」


大まかな方針は決定した。


すべて計画通りに

進められるとは限らないが、

次に何をするべきかが決まっているだけで、

精神的な負担が大きく減少する。


不安定になりやすいこの状況では、

非常に有用な心作りと言えよう。


「……ところで、そろそろ暗くなってきたわね」


「本当ですね。この辺りで一晩過ごしますか」


「ええ。ただ、もう少し西側に寄りましょうか」


「西へ?」


「ええ。近くにフュンオラージュ

って言う川があるのよ」


「なるほど」


水は何かと生活に欠かせない。


長旅だと疎かになりがちな清潔さの維持や、

そもそも飲み水の確保は大きな課題だ。


感染症や脱水は、旅の継続を妨げる。


多少回り道であっても、

水を確保することには多くの利点がある。




 ——フュンオラージュ川、近傍


「よし、この辺りにしましょうか」


川を囲う様に生い茂った森が見える。

その森の終わった辺り、川端からから

十数メートルほどの地点。


「ですね」


馬車を停め、アインズが慣れた手つきでもって

馬を落ち着かせる。


その間に、ユウキは草むらへ。

焚火に使えそうな枝や火口を探す。


「お、これならいけそう」


乾燥した枝や葉を拾い、拠点とする場所へ運ぶ。


馬をなだめ終えたアインズが、食材を用意していた。


荷物が増えても困るが故、

最低限ではあるものの、

一食分にしては満足な量だ。


「おかえり。良い素材はあった?」


「結構ありましたよ」


両手に持った植物を地面に置く。


その内、綿のようになっているものを拾い上げ、

左右の手で持って思いきり擦り合わせる。


すると、表皮が破れ、中身の綿が露になる。


よく乾燥しているため、

火口として使う事が可能だ。


「はい、火打石と打ち金よ」


「ありがとうございます」


二つを打ち付け、火花が綿に落ちるのを待つ。


五回ほど打つと、

いくつかが目的の場所に落ちてくれた。


火花の落ちた箇所が、赤く光っているのが分かる。

消えてしまう前に、ゆっくりと息を吹きかける。


やがて光は大きくなり、炎となった。


「あら、上手いものね」


「まあ、クライヤマでずっとやってたので」


ブライトヒルでの生活に比べると、

クライヤマのそれは原始的であった。


そこで生活してきたユウキにとって、

これくらいは朝飯前であるよう。

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