心の乱層雲

 「女性」改め、王国騎士団第一部隊長、

「アインズ」と共に、城の廊下を進むユウキ。


炊事洗濯などを担う従者たちが忙しなく行きかう。


その誰もが、アインズとすれ違うたびに

わざわざ足を止め、軽く頭を下げる。


「……」


彼女はその度に肩ほどの高さまで手を挙げ、

笑顔で応対している。


「ここよ」


何度か踊り場を経て階段を上り、

両開きの扉の前まで来た。


アインズがノブに手をかけて押した。


昼どきの日差しが、ユウキに強烈な光を刺した。


「眩し——」


「さて、さすがに乾いているわよね」


おびただしい量の布が干されている。

その白さがまた、眩しさを強調する。


「アインズ様。如何なさいましたか?」


突然現れた二人の気配を察してか、

洗濯物を干していた女性が

垂れる布をかき分けて出てきた。


「この前洗濯してもらった

この子の服、もう乾いているかしら?」


「はい。先ほど——こちらです」


乾いた洗濯物が入れられた籠から、

ユウキの服が取り出された。


他の物とは雰囲気の異なる、

クライヤマ製の服だ。


「ありがとうございます」


女性から服を受け取った彼は安堵した。


——この服、高級感があって

  着心地に違和感があるんだよなあ


「この服と一緒に、首飾りは無かったかしら?」


「ええ、懐にございました。

ただ、つい先ほどツヴァイ様が

持って行かれまして」


「ツヴァイが?」


その名前を聞いたアインズは、

少し眉間にしわを寄せた。


「ええ。どなたの物かと

尋ねられましたので、えっと……」


女性がユウキに視線を向けた。


「ユウキです」


「失礼致しました。ユウキ様の物と

お答えしましたところ、何やら思案された後、

貰っていくと仰っていました」


「返してもらわないと……」


「ツヴァイか。ありがとう、尋ねてみるわ」


アインズが礼を言って元来た方へ戻りだした。


ユウキもそれに倣い、

女性に軽く頭を下げてアインズの背中を追った。



「あの。ツヴァイって方は

なんであの首飾りを?」


再び廊下を進みながら、ユウキが訊いた。


「どういう目的かは分からないわね。ただ……」


「……?」


「ツヴァイはユウキ君にとって、

ちょっと厄介かもね」


「厄介?」


「ええ。何て言うのかしらね……。

私も君には話しにくいけど、

を持っている人も、少なからず居るの」


「疑念……?」


「……着いたわ。ここがツヴァイの部屋よ。

疑念については、まあ話してみましょうか」


ユウキの心にもやがかかったまま、

目的の人物、ツヴァイが居るという部屋へ。


アインズは一度深呼吸し、扉をノックした。


周辺を観察していたユウキは、

今から入ろうとする部屋の入り口に


「第二部隊長ツヴァイ」


との表記を見つけた。


「アインズよ」


「ああ、入れ」


中から男性の声で返事が聞こえた。

知的な印象の声色をしていた。


だがその一方で、アインズの声とは裏腹に、

若干の冷たさを感じさせる。


ユウキは少し、不安な気持ちになった。

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