巫女の嫌疑

「何か用か?」


一瞬だけツヴァイとユウキの目が合った。


「この子の持ってた首飾り、

あなたが持って行ったんだって?」


「ああ、この日長石の事か」


部屋の中央奥側にある大きな

机の上から首飾りを手に取って言った。


窓から差し込む光に当て、その輝きを観察している。


「君の持ち物とのことだが……」


突き刺すような視線をユウキへ。


怯みそうになったユウキだが、

そんなことで諦めるわけにはいかない

代物であるが故、平静を装って答えた。


「はい。確かに僕の首飾りです。

返していただけると——」


「貰い物か?」


——僕の話、聞く気ないな


「子供が簡単に手に入れられるような

物ではなさそうだが」


「大事な人の、形見です」


「……形見か。相当価値の高いものだろうが、

一体、何者から受け取った?」


日長石の首飾りの元の所有者は誰なのか。

その質問への回答を、ユウキは少しためらった。


この部屋に入る前にアインズから聞いた、

疑念という言葉を思い出したからだ。


「……日の、巫女です」


「やはり、そうであったか」


「はい。だから、返し——」


「悪いが、君にこれを返すわけにはいかない」


「……え?」


「ツヴァイ!」


返せというユウキの頼みにツヴァイが

応えることは無く、

彼は首飾りを自身の懐へしまった。


「どういう事ですか⁈」


「どうもこうも、

邪神のアイテムなど、渡すわけにはいくまい」


「邪神……?」


邪神という言葉を聞いたユウキの脳裏には、

クライヤマでの悪夢がフラッしバックしていた。


そのこともあり、彼の平静は簡単に崩壊した。


「やめなさい、ツヴァイ。

まだ、クライヤマの巫女が

悪と決まったわけじゃないでしょ」


「何、言ってんだ……?」


日の巫女は、

クライヤマに恩恵をもたらしていた。


それはクライヤマ出身のユウキにとって、

至極当たり前のことだ。


だが一歩外に出たらどうだろうか。


よくわからない巫女という存在の住まう地域から、

突然バケモノが湧いて出て襲ってきた。


巫女の死を知っているユウキとは違い、

畏怖や疑いの念が生じるのは、

悲しくも当然の事であろう。


「巫女は、邪神なんかじゃ——」


「なら、この状況はなんだ? 

なぜ巫女は悪でないと言い切れる?」


「ふざ……けるな……」


歯を食いしばり、拳に力が入った。


爪が掌に食い込む痛みなど、

ユウキの悔しさを紛らわす麻酔にはなりえなかった。


「巫女が……リオが、邪神だって? 

あの子が、悪だって⁈」


「そうだ。状況からして、巫女がバケモノの

親であるとするのが自然だろう? 

そうなれば、この首飾りに執着する君も怪しく見えて——」


「いい加減にしなさい、ツヴァイ!」


「……なんだ、邪神に情が移ったのか? アインズ」


「ユウキ君は、バケモノに殺されかけていたのよ?」


アインズの言葉で、ユウキは自身に迫る

バケモノの姿と、背中に伝わる岩戸の

冷たさを思い出した。


「少なくともこの子に悪意が無いのは、

どう考えても明らか——」


ツヴァイに対し、アインズがユウキの

潔白を訴えていた、その時。


廊下から大きな声が聞こえた。


「ツヴァイ隊長! アインズ隊長!」


それを聞きつけたツヴァイは、

部屋の扉を開けて返答した。


アインズも彼の横に並んで状況確認を行う。


「何事だ?」


「街の近郊に、例のバ、バケモノが現れました!」


「……なんですって?」


「揉めごとは後だ、アインズ」


「ええそうね。ごめんね、ユウキ君。

首飾りは必ず返すから」


ユウキの返事を待たずして、

二人の騎士は部屋を飛び出していった。


目まぐるしく変わる目の前の状況に、

彼はただ立ち尽くす事しか出来なかった。

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