という訳で、答え合わせ。


 つい先刻の、龍子さんによる衣ちゃんの過去話。

 その続き。


「そこからは、竜生が衣さんから聞いていた話そのものだったわ。殺人犯への怨念故に、日本人形に憑依した衣さんはゴーストドールとなり、逃亡を計っている殺人犯に自分を拾わせ、呪い殺した。

 この呪い殺した、というのが私の想像していた何倍もエグかったのだけれど……そこはまぁ、それ程に恨みが強かったとんだなと置いておくとして。その後、成仏失敗からの呪い反射を受けて、今に至る――――以上が、衣さんの過去の流れよ」

「……え? 終わり……?」

「うん、終わり」

「衣ちゃんの……心残りは? 僕、全然浮かんで来なかったんだけど……」

「あんたにしては察しが悪いわね、竜生……。その答えは――前半の、

「……既に……?」

「そもそも、勘違いを招く要因は、この事件名ね……思い出してみて……この事件で亡くなったのは?」

「えっと……先ずは長男さんで……次に両親さんが襲われて……最後は衣ちゃん自身だから……四人?」

「そ。じゃあ私は、一番最初に、葉隠一家は――――?」

「何人……家族? えーっと……確か――――――っ!! ああっ! そういう事か!!」

「その通り……葉隠一家は。事件で亡くなったのは。つまりこの事件には――




 




 そして話は現在へ。

 舞台は警察署の取り調べ室。

 僕達の目の前にいるのは――葉隠はがくれ まつりさん。


 葉隠一家の長女――即ち、


 【葉隠一家強盗殺人事件】を運良く生き延びた、衣ちゃんの……正真正銘の、家族である。


 心残りというのは……だったのだ。

 というのも。衣ちゃんは生前、長男さんと両親さんの遺体は、残酷ながらもその目で見ている。しかし――



 姿



 仲の良い家族だったそうだ。

 当然、姉妹仲も良かった筈。

 きっと、成仏しようとする一方で……まだ確認出来ていない


 『お姉ちゃんは助かったのかな? それとも、私達と同じように………………会いたいなぁ……』


 そして事実として、、衣ちゃんは成仏出来なかったのだ。


 それが衣ちゃんの――心残り。



「え……何で、私の名前を知っているの……? あなた達……一体何者?」

「祭さん……率直に聞きます。このに、見覚えのありませんか?」


 僕は、龍子さんが抱えている日本人形を指した。

 それを見た瞬間、祭さんの顔色が変わった。


「や、やめてっ!! そんなもの……そんなもの!! 私に見せないで!! 嫌よ……せっかく忘れてたのに!! 忘れる事が出来ていたのにっ!!」


 当然だろう……思い出したくない過去の筈だ……。

 愛する家族が亡くなっている光景を目にした時の苦しさは――――僕にも……分かるから……。


 忘れなくちゃ、生きていけないよね?

 目を背けないと、苦しいよね?

 心苦しいと……申し訳ないと、思ってしまうよね?


「ごめんなさい……ごめんなさい……! 私一人だけ生き残って、ごめんなさい!! 助けられなくて……ごめんなさい!」


 自分一人だけ生き残って……恨まれてるんじゃないかと、思ってしまうよね?


 でもね? そんな風に、青ざめて……怖がって……震えなくても大丈夫ですよ。

 だって……僕には聞こえるから……。


 祭さん……あなたの事を、心の底から愛している――――衣ちゃん妹さんの声が、聞こえるから……。


『お姉ちゃんだぁ……お姉ちゃんが生きてたぁ……! ちゃんと大きくなってたぁ……! 色んな所が大きくなってるぅ……良かった……良かったよぉ……!!』


 そして僕には見えた。



『お姉ちゃぁーーーーん!!』



 日本人形の中から……透明な、小学生低学年くらいの女の子が、祭さん向かって、飛び込んで行った瞬間を……。

 僕はちゃんと……確認した。


 その瞬間……。


「あれ……? 何だろう……? 急に……? 何で? 私いつも……あの事を思い出すと、震えが止まらなくなるのに……何で…………あれ? ……どうして……涙が出て、くる、ん……だろう……」


 祭さんの恐怖が、消え去ったのが見て取れた。


「何でこんなに……嬉しい気持ちに、なっちゃうんだろ……何で……」


 そう言って、大粒の涙を流す祭さん。

 正直に言うと……僕は、彼女のを見て、驚いていた。


「おい……竜生、お前もか?」

「はい……勿論です」


 同じく、霊が見える凛太郎さんも、驚いている様子だった。

 何故なら……。


 かの事件で亡くなった、長男、そして両親の三名が――



 として、


 即ち――衣ちゃんがそこに加わった事で、揃ったのだ。



 あの悲劇の事件で引き裂かれた葉隠一家が。

 運良く生き延びた……ううん、――再び、勢揃いする事が出来たのだ。


 そりゃ、嬉しい気持ちにもなるさ。


「家族愛、か……良い物見せて貰ったな。竜生」

「はい。そうですね」

「こういう終わり方も有りだろ」

「大有りですよ。むしろ……この方が良いとさえ思います」


 結局の所……衣ちゃんは、

 けれどこれからは、呪いを振り撒くゴーストドールではなく、家族皆で――愛する家族を守るとして歩んで行く事だろう……。


 それもまた――霊が辿り着くゴールの一つだと……僕は思う。

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