その後、僕達はその答えを聞いた。

 衣ちゃんの心残りを――

 ゴーストドールの、自分でも認識していない――心残りを。


 時刻は二十時を過ぎようとしている。

 しかし、そんなことは関係ない。

 僕達は即座に動き出した。


 謎が解ければ……簡単な話だったのだ。


 ……そんな、簡単な話。


 僕達は、


 凛太郎さんの幅広過ぎる人脈。

 亀美さんの声のかかった動物達。

 それらを駆使すれば、たった一人の人間を捜し出す事など、造作もない事だった。


 捜索開始の、わずか二十分後――


「どうやら、〇〇県の警察が見付けたようだ。本人確認も取れている」


 凛太郎さんの幅広過ぎる人脈の内の一人が、そのを発見したようだ。

 〇〇県――良かった、まだ近い方だ。


「難癖から事情聴取で、警察署まで引っ張って貰ってるから、そこで対面出来るぞ」


 難癖……事情聴取……警察署?

 何も悪い事していないのに……? 可哀想な人だ。

 とにかく、急いでその場所に行かなきゃ!


「ありがとうございます。行きましょう! そして――この一件に、階段に、終止符を打ちましょう!!」

「「おぉっ!!」」


 さて、問題はどのようにして県を跨ぐか……なのだけれど……電車では遅いし……うーん……と、悩んでいると。


「ふふんっ、りーくんに発見は先越されちゃったけど、カメミはこっちで役に立っちゃうもんねーっ! こんな事もあろうかと、呼んでおいたんだぁー。おいでっ! 怪鳥さんっ!」

『クエエエエェエエエエェエェェェエエエーっ!!』


 一羽の、大きな怪鳥が空から現れた。

 人間七人は軽く乗れそうな、大きな怪鳥が。


「みんなっ! この怪鳥さんに乗って、ひとっ飛びしちゃいましょー!」

「助かります。亀美さん!」

「えへへっ! さぁ乗った乗ったぁー! しっかり掴まっててよぉー! 振り落とされないでねぇー! いざ、しゅっぱぁーつ!!」


 亀美さんの号令と共に、怪鳥が羽ばたきを始めた。

 僕らはあっという間に空へ。

 街がどんどん小さくなっていく。


「す、凄いな……この怪鳥、飛ぶのめちゃくちゃ上手くなってるじゃん……」

「えへへっ! めちゃくちゃ訓練したからねー! ぐぅー……すかぴぃー……」

「寝たっ!!」


 寝る迄のスパン早っ!!

 気を抜くの早っ!!


「竜生くん、ツッコミも良いですけれど。あなたの身体も心配です……着くまでの間、疲労軽減の香りを撒きますので、少しでも休んでください……」

「あ、ありがとうございます……花鳥さん」

「ほんまやで! ちゅーかもうお前の出番はないでぇ! 衣が成仏したら、後はうちに任しとき!! そんな糞男、ウチがタコ殴りにしたるから!」

「頼りにしてます。虎白さん……」


 本当に……僕は何を早とちりをしてしまっていたんだろう……。

 僕一人だったら、この怪談の解決は難しかったかもしれない……ううん、むしろ、不可能だったかもしれない。

 不可能で――きっと僕は、死んでいた。


 そして、あの男は図々しくも世にはばかり。

 衣ちゃんは、より深く苦しむ事になっていただろう……。


 僕の身勝手のせいで……。

 何でも自分一人で出来るつもりでいて……ちっとも、周りが見えていなかった。

 反省だな……。


「僕は……大馬鹿者、だな……」

「やっと気付いたか、大馬鹿者」

「凛太郎さん……」

「お前は本当に大馬鹿者だった。フォローのしようがないくらいにはな」

「すみません……」


 大馬鹿者に大馬鹿者と言われるのは癪だけど……返す言葉がないな……。

 凛太郎さん大馬鹿者の言う通りだ。


「けどな? 竜生。お前がいなかったら――――きっと、衣ちゃんは、この心残りを果たせないまま、この世を去る所だった。間違いなく、この成果は、お前の手柄だ」

「え……」

「お前が……。それは誇れ! 反省点はあるが……お前が衣ちゃんを思って行動した事は、何一つ、間違っちゃいない。……反省点を……勘違いするなよ?」

「…………はいっ……」


 本当に……この人は……馬鹿な癖に……阿呆な癖に……。

 たまに、極たまに……心に刺さる事を、言ってくれるんだよなぁ……。

 それは僕の十八番オハコなのに……。横取りしないでいただきたいものだ……。


「なぁーに、暗い顔してんのよ! 皆分かってるから大丈夫っ! 竜生が、衣さんへの優しさで動いたって事は、皆知ってるから! だからさ、明るく行こうぜ!!」

「龍子さん……」

「この怪談は――明るく、終わるべきだから」

「……うん! そうだね!!」


 そして、怪鳥に乗って空を飛ぶこと二十分……。


「見えたぞ! 〇〇警察署だ! 急いで亀美を起こして、怪鳥に屋上に降り立ってくれと頼んでくれ!」


 よし来たっ。


「亀美さん! 起きてください!」

「亀美ちゃん、着きましたよ! 起きてください!」

「おい亀美! お前何してんねん! さっさと起きんかい!!」

「ぐぅー……ぐぅー……すぴぃー……すやすやー……」


 くっ……!

 駄目だ……起きない……。

 こんな時に……! 何をしているんだこの人は……!


「甘いわよ。あんた達」


 龍子さんは、そう言った。

 その手に持っているのは――――激薬! 『眠々飛ばし』。


「起きろって言ってるのに……起きないんだから、仕方ないもんね?」


 そして龍子さんは躊躇なく、亀美さんのだらしなく開いた口の中へ、『眠々飛ばし』を一本丸ごと流し込んだのだった。



 無事、その人物が連行されているという警察署に辿り着いた僕達。

 警察署の屋上へ降り立つと、恐らくお偉いさんであろう警察の方が出迎えてくれた。

 ご丁寧に。


「話は後だ……すぐにの元へ連れて行ってくれ」

「かしこまりました。凛太郎様」


 凛太郎……様!?

 どういう関係!? 何をしたら、警察のお偉いさんにそんな風に呼ばれる事が出来るのさ!

 凛太郎さん、怖っ!!


「こちらです」


 その警察の人が歩みを進める。

 僕達は着いて行く。

 エレベーターに乗り、二階へ。

 エレベーターから降りると、


 怒鳴り声のような、声が。


「はぁ!? いきなりラーメン食い逃げの容疑を着せられて! 顔がラーメン食い逃げ犯っぽい顔してるって犯人扱いされて! 仕事が終わってヘトヘトなのに、警察署まで何故か馬車で連行されて! 取り調べ室まで散々迷って連れて来られて! 何か追求されるのかと思ったら、カツ丼三杯食べさせられて! 挙句、面白くもないオジサン警察の婿入り話を延々と、お経の如く聞かされたのに! 事もあろうか、『真犯人が北海道で掴まったので、帰って良いですよ、すみませんでした』ですって!? ふざけないで!!」


 …………いや、それは本当にふざけないでって言いたくなるよね……。

 誤認連行にも程があるような……。

 もっとマシな時間稼ぎの方法はなかったのだろうか……?


「危うく悟りを開いて神通力を使えるようになる所だったわよ!!」


 誤認連行されると悟りを開くの!?

 悟りを開くと、神通力が使えるようになるの!?

 そうなの!?


「まぁ……カツ丼が美味しかったので……良いですけど……」


 良いんだ……。

 てゆーか、多分コレ、カツ丼三杯は自分から進んで食べたな……この人……。


 それにしても……似てる……。

 が――――だ。


「はぁ!? 私に会いたい人? 誰よ? ……え……高校生……? 何の話よ! これ一体どういう事なの!? テレビ番組のドッキリか何かなの!? 隠しカメラは……隠しカメラはどこっ!? 化粧、今からしても遅くないかしら!? 映える顔で映りたいわ!」


 聞けば聞くほど……瓜二つだ。



 そして――僕達は対面する。


 と……。


「えぇ……? えっ……と……本当に……誰? 私……あなた達とどこかで会いましたっけ?」


 突然ゾロゾロと現れた僕らを見て、その人はキョトンとしながら問い掛けてくる。

 当然の反応だ。

 この人じゃなくても、この状況下なら誰しもがこのような対応になる筈だ。


 そんな中、間髪入れずに、どストレートに――凛太郎さんは、こう訪ね返した。







さん、ですね?」

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