7
その後、僕達はその答えを聞いた。
衣ちゃんの心残りを――
ゴーストドールの、自分でも認識していない――心残りを。
時刻は二十時を過ぎようとしている。
しかし、そんなことは関係ない。
僕達は即座に動き出した。
謎が解ければ……簡単な話だったのだ。
今日中に解決出来そうな……そんな、簡単な話。
僕達は、人捜しを始めた。
凛太郎さんの幅広過ぎる人脈。
亀美さんの声のかかった動物達。
それらを駆使すれば、たった一人の人間を捜し出す事など、造作もない事だった。
捜索開始の、わずか二十分後――
「どうやら、〇〇県の警察が見付けたようだ。本人確認も取れている」
凛太郎さんの幅広過ぎる人脈の内の一人が、その人物を発見したようだ。
〇〇県――良かった、まだ近い方だ。
「難癖から事情聴取で、警察署まで引っ張って貰ってるから、そこで対面出来るぞ」
難癖……事情聴取……警察署?
何も悪い事していないのに……? 可哀想な人だ。
とにかく、急いでその場所に行かなきゃ!
「ありがとうございます。行きましょう! そして――この一件に、階段に、終止符を打ちましょう!!」
「「おぉっ!!」」
さて、問題はどのようにして県を跨ぐか……なのだけれど……電車では遅いし……うーん……と、悩んでいると。
「ふふんっ、りーくんに発見は先越されちゃったけど、カメミはこっちで役に立っちゃうもんねーっ! こんな事もあろうかと、呼んでおいたんだぁー。おいでっ! 怪鳥さんっ!」
『クエエエエェエエエエェエェェェエエエーっ!!』
一羽の、大きな怪鳥が空から現れた。
人間七人は軽く乗れそうな、大きな怪鳥が。
「みんなっ! この怪鳥さんに乗って、ひとっ飛びしちゃいましょー!」
「助かります。亀美さん!」
「えへへっ! さぁ乗った乗ったぁー! しっかり掴まっててよぉー! 振り落とされないでねぇー! いざ、しゅっぱぁーつ!!」
亀美さんの号令と共に、怪鳥が羽ばたきを始めた。
僕らはあっという間に空へ。
街がどんどん小さくなっていく。
「す、凄いな……この
「えへへっ! めちゃくちゃ訓練したからねー! ぐぅー……すかぴぃー……」
「寝たっ!!」
寝る迄のスパン早っ!!
気を抜くの早っ!!
「竜生くん、ツッコミも良いですけれど。あなたの身体も心配です……着くまでの間、疲労軽減の香りを撒きますので、少しでも休んでください……」
「あ、ありがとうございます……花鳥さん」
「ほんまやで! ちゅーかもうお前の出番はないでぇ! 衣が成仏したら、後はうちに任しとき!! そんな糞男、ウチがタコ殴りにしたるから!」
「頼りにしてます。虎白さん……」
本当に……僕は何を早とちりをしてしまっていたんだろう……。
僕一人だったら、この怪談の解決は難しかったかもしれない……ううん、むしろ、不可能だったかもしれない。
不可能で――きっと僕は、死んでいた。
そして、あの男は図々しくも世にはばかり。
衣ちゃんは、より深く苦しむ事になっていただろう……。
僕の身勝手のせいで……。
何でも自分一人で出来るつもりでいて……ちっとも、周りが見えていなかった。
反省だな……。
「僕は……大馬鹿者、だな……」
「やっと気付いたか、大馬鹿者」
「凛太郎さん……」
「お前は本当に大馬鹿者だった。フォローのしようがないくらいにはな」
「すみません……」
大馬鹿者に大馬鹿者と言われるのは癪だけど……返す言葉がないな……。
「けどな? 竜生。お前がいなかったら――――きっと、衣ちゃんは、この心残りを果たせないまま、この世を去る所だった。間違いなく、この成果は、お前の手柄だ」
「え……」
「お前が……俺達を動かしたんだ。それは誇れ! 反省点はあるが……お前が衣ちゃんを思って行動した事は、何一つ、間違っちゃいない。……反省点を……勘違いするなよ?」
「…………はいっ……」
本当に……この人は……馬鹿な癖に……阿呆な癖に……。
たまに、極たまに……心に刺さる事を、言ってくれるんだよなぁ……。
それは僕の
「なぁーに、暗い顔してんのよ! 皆分かってるから大丈夫っ! 竜生が、衣さんへの優しさで動いたって事は、皆知ってるから! だからさ、明るく行こうぜ!!」
「龍子さん……」
「この怪談は――明るく、終わるべきだから」
「……うん! そうだね!!」
そして、怪鳥に乗って空を飛ぶこと二十分……。
「見えたぞ! 〇〇警察署だ! 急いで亀美を起こして、怪鳥に屋上に降り立ってくれと頼んでくれ!」
よし来たっ。
「亀美さん! 起きてください!」
「亀美ちゃん、着きましたよ! 起きてください!」
「おい亀美! お前何してんねん! さっさと起きんかい!!」
「ぐぅー……ぐぅー……すぴぃー……すやすやー……」
くっ……!
駄目だ……起きない……。
こんな時に……! 何をしているんだこの人は……!
「甘いわよ。あんた達」
龍子さんは、そう言った。
その手に持っているのは――――激薬! 『眠々飛ばし』。
「起きろって言ってるのに……起きないんだから、仕方ないもんね?」
そして龍子さんは躊躇なく、亀美さんのだらしなく開いた口の中へ、『眠々飛ばし』を一本丸ごと流し込んだのだった。
無事、その人物が連行されているという警察署に辿り着いた僕達。
警察署の屋上へ降り立つと、恐らくお偉いさんであろう警察の方が出迎えてくれた。
ご丁寧に。
「話は後だ……すぐにその人の元へ連れて行ってくれ」
「かしこまりました。凛太郎様」
凛太郎……様!?
どういう関係!? 何をしたら、警察のお偉いさんにそんな風に呼ばれる事が出来るのさ!
凛太郎さん、怖っ!!
「こちらです」
その警察の人が歩みを進める。
僕達は着いて行く。
エレベーターに乗り、二階へ。
エレベーターから降りると、女性の声が聞こえた。
怒鳴り声のような、声が。
「はぁ!? いきなりラーメン食い逃げの容疑を着せられて! 顔がラーメン食い逃げ犯っぽい顔してるって犯人扱いされて! 仕事が終わってヘトヘトなのに、警察署まで何故か馬車で連行されて! 取り調べ室まで散々迷って連れて来られて! 何か追求されるのかと思ったら、カツ丼三杯食べさせられて! 挙句、面白くもないオジサン警察の婿入り話を延々と、お経の如く聞かされたのに! 事もあろうか、『真犯人が北海道で掴まったので、帰って良いですよ、すみませんでした』ですって!? ふざけないで!!」
…………いや、それは本当にふざけないでって言いたくなるよね……。
誤認連行にも程があるような……。
もっとマシな時間稼ぎの方法はなかったのだろうか……?
「危うく悟りを開いて神通力を使えるようになる所だったわよ!!」
誤認連行されると悟りを開くの!?
悟りを開くと、神通力が使えるようになるの!?
そうなの!?
「まぁ……カツ丼が美味しかったので……良いですけど……」
良いんだ……。
てゆーか、多分コレ、カツ丼三杯は自分から進んで食べたな……この人……。
それにしても……似てる……。
声が――――そっくりだ。
「はぁ!? 私に会いたい人? 誰よ? ……え……高校生……? 何の話よ! これ一体どういう事なの!? テレビ番組のドッキリか何かなの!? 隠しカメラは……隠しカメラはどこっ!? 化粧、今からしても遅くないかしら!? 映える顔で映りたいわ!」
聞けば聞くほど……瓜二つだ。
そして――僕達は対面する。
その人物と……。
「えぇ……? えっ……と……本当に……誰? 私……あなた達とどこかで会いましたっけ?」
突然ゾロゾロと現れた僕らを見て、その人はキョトンとしながら問い掛けてくる。
当然の反応だ。
この人じゃなくても、この状況下なら誰しもがこのような対応になる筈だ。
そんな中、間髪入れずに、どストレートに――凛太郎さんは、こう訪ね返した。
「葉隠 祭さん、ですね?」
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