場所は変わり、僕の家へ。

 本当なら、ゴミ屋敷凛太郎さん宅に訪れた汚く埃まみれな状態で家に上がって貰うのは遠慮して欲しいのだけれど、こうなってしまうと仕方がないので渋々それを了承した。


「上がってください……少し荒れているかもですけど……」


 と、皆を家の中へと通す。


「おおっ! 何が少し荒れてるって? めっちゃ綺麗に片付いてるやんけ!! 凛太郎の家と比べたら天国と地獄やん!! エグいやん! 空気が美味いわ!!」

「最っ高だよ、なーくん! さっきまで地獄にいた分、普通の部屋なのにここが天国だと思っちゃうよ! 凄い凄いっ!! なーくん最高っ!」


 そりゃ、凛太郎さんと龍子さんの家に比べたらね……。

 というか、二人の家をディスるのはもうやめてあげてください……。流石の二人にもメンタルには限界がありますので。


「ん……んん……」

「あっ、かーちゃんが目覚めたよっ!」

「お前、大丈夫なんか!?」

「ここはどこですか? 私は何で寝ているのでしょう? 夢を見ていました……黒い物体に囲まれ、荒れ狂うように動き回る大量の小バエ達……漂う悪臭……謎のドロドロとした液体……そして巨大なクモ…………酷い夢でした……その夢と、私が寝ていた理由が関連しているような気がするのですが……気の所為なんでしょうか?」

「記憶障害を引き起こしとる!!」

「大変だー! かーちゃんが大変だぁー!! 病院に連絡しなきゃっ!!」

「いや待て亀美! この世には、知らぬが仏という言葉もある! ここは一先ず、黙っといたるのが本人の為や!」

「そ……そうだねっ! 確かにその通りだねっ!」


 「?」花鳥さんは寝起きで頭が回っていないのか、虎白さんと亀美さんの会話を聞きながら、首を捻っている。

 ちなみに僕も、二人の意見に賛成だ。

 知らぬが仏――良い言葉じゃないですか。


「お前ら、何ギャーギャー叫んでんだ。さっさとゴーストドールについて竜生から話聞くぞ。時間がねぇんだ」


 話を停滞させた張本人が何か言ってる。

 どの口が言うんだと言いたい所だけど、びっくりするぐらいの正論なので従っておく事にした。


 ようやく始まる。

 本格的な、対ゴーストドール会議が。

 ゴーストドール除霊研究部の、活動が。


「竜生、話してくれる? 私達が知らない……昨日と今日の間に、何があったのか」


 龍子さんが促して来た。

 そして僕は、その話題の中心であるゴーストドール……衣ちゃんを机の上に置き、知っている情報を全て話した。

 ゴーストドールについて……。

 衣ちゃんと黒い男――――知っている事全てを。


「……つまり、ゴーストドールの中には、霊が二体いて、本来の宿主は衣ちゃん。それに割って入ったのが、その黒い男の人の霊って事ですね? そして、その黒い男が身体を操り、衣ちゃんが振り撒きたくない呪いを振り撒いている、と……なるほど……」

「ウチが気になったんは、衣とやらがその黒い男を生前呪い殺したっちゅう点やな。ちゅーことはこれはアレか――か」


 呪い反射。

 霊が人間を呪い殺した後、稀に起こる霊障の事だ。

 呪い殺した霊が、殺した人間の霊に呪われるという現象。

 人を呪わば穴二つ、という言葉がピッタリ当てはまるその現象を、僕達はそう呼んでいる。


「……そういう事になりますね。だから僕は、衣ちゃんは成仏。その男は除霊に収めたかったんです……今すぐ除霊となると、その男と一緒に衣ちゃんまで除霊してしまう事になるんで……」

「ぐがー……すぴぃー……」


 亀美さんがまた寝てる。

 よくこんなに寝れるなぁ……。


「つーか、聞けば聞くほど、何故黙ってた感が強くなるな。お前マジでコレを一人で解決しようとしてたのか?」

「……はい……」

「無謀にも程があるだろ。馬鹿野郎」

「……すみません」


 うぅ……馬鹿に馬鹿野郎って言われた。

 けれど本当に馬鹿野郎だから仕方ない。何も言い返せないなぁ……。


「ったく……で? 解決方法は?」

「え?」

「惚けんな、ネタは上がってんだよ。お前、あの怪談サイトの管理人と繋がってんだろ?」

「な、何で知ってるんですか!?」


 僕のトップシークレットだぞ!? 色んな意味で。


「だから毎回言ってんだろ。俺の情報網舐めんなって。お前がいくらバカとは言っても、闇雲に突っ込んでいく程無鉄砲じゃないってことは知っているし、理解してる。大方、その怪談サイトの管理人から打開策を得ているんだろ?」


 全部、お見通しかぁ……。


「バカなのに……こういう時は鋭いんですね……」

「は? 今お前何か言ったか?」

「っ!! あ、い、いえっ! 何も!!」


 やっば、声に出してた。

 遂に本音が口から漏れ出すようになってしまった……くっ! ゴーストドールの呪い、恐るべし!


「とにかく、その打開策を教えてくれ。今すぐ動くのが可能なら、オレら全員即座に動くから」

「せやな、この間の凛太郎みたいに、いつどこで限界来るか分からんもんな! 即行動がベストや!」

「私達は、あなたを死なせなくありません。その為なら、好みを犠牲にしてでも動きます」

「あんたが死ぬのなんて、絶対に許さない! 私の寝付きが悪くなるわ、絶対助けてみせるんだから!」


 ……皆さん……。


「聞いての通り、全員の気持ちは同じだ。だから教えてくれ、竜生……『衣を除霊せずに、その男だけを除霊する』という、無理難題の解決方法を」

「……分かりました。今から伝えましょう。その……無理難題の、解決方法を」

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