3
場所は変わり、僕の家へ。
本当なら、
「上がってください……少し荒れているかもですけど……」
と、皆を家の中へと通す。
「おおっ! 何が少し荒れてるって? めっちゃ綺麗に片付いてるやんけ!! 凛太郎の家と比べたら天国と地獄やん!! エグいやん! 空気が美味いわ!!」
「最っ高だよ、なーくん! さっきまで地獄にいた分、普通の部屋なのにここが天国だと思っちゃうよ! 凄い凄いっ!! なーくん最高っ!」
そりゃ、凛太郎さんと龍子さんの家に比べたらね……。
というか、二人の家をディスるのはもうやめてあげてください……。流石の二人にもメンタルには限界がありますので。
「ん……んん……」
「あっ、かーちゃんが目覚めたよっ!」
「お前、大丈夫なんか!?」
「ここはどこですか? 私は何で寝ているのでしょう? 夢を見ていました……黒い物体に囲まれ、荒れ狂うように動き回る大量の小バエ達……漂う悪臭……謎のドロドロとした液体……そして巨大なクモ…………酷い夢でした……その夢と、私が寝ていた理由が関連しているような気がするのですが……気の所為なんでしょうか?」
「記憶障害を引き起こしとる!!」
「大変だー! かーちゃんが大変だぁー!! 病院に連絡しなきゃっ!!」
「いや待て亀美! この世には、知らぬが仏という言葉もある! ここは一先ず、黙っといたるのが本人の為や!」
「そ……そうだねっ! 確かにその通りだねっ!」
「?」花鳥さんは寝起きで頭が回っていないのか、虎白さんと亀美さんの会話を聞きながら、首を捻っている。
ちなみに僕も、二人の意見に賛成だ。
知らぬが仏――良い言葉じゃないですか。
「お前ら、何ギャーギャー叫んでんだ。さっさとゴーストドールについて竜生から話聞くぞ。時間がねぇんだ」
話を停滞させた張本人が何か言ってる。
どの口が言うんだと言いたい所だけど、びっくりするぐらいの正論なので従っておく事にした。
ようやく始まる。
本格的な、対ゴーストドール会議が。
ゴーストドール除霊研究部の、活動が。
「竜生、話してくれる? 私達が知らない……昨日と今日の間に、何があったのか」
龍子さんが促して来た。
そして僕は、その話題の中心であるゴーストドール……衣ちゃんを机の上に置き、知っている情報を全て話した。
ゴーストドールについて……。
衣ちゃんと黒い男――――知っている事全てを。
「……つまり、ゴーストドールの中には、霊が二体いて、本来の宿主は衣ちゃん。それに割って入ったのが、その黒い男の人の霊って事ですね? そして、その黒い男が身体を操り、衣ちゃんが振り撒きたくない呪いを振り撒いている、と……なるほど……」
「ウチが気になったんは、衣とやらがその黒い男を生前呪い殺したっちゅう点やな。ちゅーことはこれはアレか――呪い反射か」
呪い反射。
霊が人間を呪い殺した後、稀に起こる霊障の事だ。
呪い殺した霊が、殺した人間の霊に呪われるという現象。
人を呪わば穴二つ、という言葉がピッタリ当てはまるその現象を、僕達はそう呼んでいる。
「……そういう事になりますね。だから僕は、衣ちゃんは成仏。その男は除霊に収めたかったんです……今すぐ除霊となると、その男と一緒に衣ちゃんまで除霊してしまう事になるんで……」
「ぐがー……すぴぃー……」
亀美さんがまた寝てる。
よくこんなに寝れるなぁ……。
「つーか、聞けば聞くほど、何故黙ってた感が強くなるな。お前マジでコレを一人で解決しようとしてたのか?」
「……はい……」
「無謀にも程があるだろ。馬鹿野郎」
「……すみません」
うぅ……馬鹿に馬鹿野郎って言われた。
けれど本当に馬鹿野郎だから仕方ない。何も言い返せないなぁ……。
「ったく……で? 解決方法は?」
「え?」
「惚けんな、ネタは上がってんだよ。お前、あの怪談サイトの管理人と繋がってんだろ?」
「な、何で知ってるんですか!?」
僕のトップシークレットだぞ!? 色んな意味で。
「だから毎回言ってんだろ。俺の情報網舐めんなって。お前がいくらバカとは言っても、闇雲に突っ込んでいく程無鉄砲じゃないってことは知っているし、理解してる。大方、その怪談サイトの管理人から打開策を得ているんだろ?」
全部、お見通しかぁ……。
「バカなのに……こういう時は鋭いんですね……」
「は? 今お前何か言ったか?」
「っ!! あ、い、いえっ! 何も!!」
やっば、声に出してた。
遂に本音が口から漏れ出すようになってしまった……くっ! ゴーストドールの呪い、恐るべし!
「とにかく、その打開策を教えてくれ。今すぐ動くのが可能なら、オレら全員即座に動くから」
「せやな、この間の凛太郎みたいに、いつどこで限界来るか分からんもんな! 即行動がベストや!」
「私達は、あなたを死なせなくありません。その為なら、好みを犠牲にしてでも動きます」
「あんたが死ぬのなんて、絶対に許さない! 私の寝付きが悪くなるわ、絶対助けてみせるんだから!」
……皆さん……。
「聞いての通り、全員の気持ちは同じだ。だから教えてくれ、竜生……『衣を除霊せずに、その男だけを除霊する』という、無理難題の解決方法を」
「……分かりました。今から伝えましょう。その……無理難題の、解決方法を」
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