怪談マニアさんと長々通話している間に、電車は目的としていた場所へ到着した。

 僕は改札を潜り、駅の外へ。

 この時、注意するべきはだ。


 北条亀美さん――

 言わずと知れた、ハーレム三人衆のメンバーの一人だ。

 彼女は聴覚に優れている。

 いや、最早優れているなんて言葉は超越している。とも呼べるレベルで。

 何故なら彼女は――のだから。いや、正確には――動物の声が聞き分けられる、と言うのが正解だろう。

 声が聞き分けられる=動物の言葉が分かる。即ち、会話が出来るという事。

 僕が霊と会話が出来るのと理屈は同じだ。


 要するに――この鬼ごっこの最中、最も警戒すべきは亀美さんなのだ。

 もし、僕の姿がその辺にいる鴉や雀、犬や猫に見られてしまったら、一瞬で居場所が割れてしまう。特に鳥類が危険だ。

 犬や猫に見られるのは、移動範囲が狭い為、凛太郎さん達がこの街に目星をつけこの街までやって来ないと会話が出来ない。よって亀美さんも、情報を得るのに時間がかかる。

 けれど鳥類は別だ。鳥類は空を駆ける。

 隣町などひとっ飛びだ。

 状況によっては、今すぐにでも居場所が伝わってしまう可能性がある……だから、鳥類には細心の注意をはらわなくてはならない。


 出来るだけ顔を見せないように、フードを被って。

 サングラスをかけて、マスクを装着。

 匂いにも注意だ。犬や猫は鼻が利く。香水をこれでもかと付けて……ふむ、これで良し!

 この街ではこの姿で歩こ……。


「ちょっとそこのあなた」

「え?」


 声を掛けられた。


「私、こういう者ですけど」


 警察手帳を見せられた。

 え? 警察の方?

 僕みたいな清廉潔白な男子高校生に何の用なのだろうか?

 僕は警察とは程遠い人種なのだけれど? 虎白さんじゃあるまいし……警察沙汰になる事なんて何も…………。


 …………あ、僕今学校サボってる!


 補導か? 補導されるのか?

 それはマズイ! 何とか誤魔化さないと!


「ここで何をされているんですか?」

「い、いやぁー……ちょ、ちょっと散歩を……最近仕事をクビになっちゃって、無職なもんで……暇潰しに」

「そうですか……」


 良しっ! ナイスだ僕! 駄目な大人が言いそうな事をちゃんと言えたぞ!

 これで何とか凌ぐ事が……。


「一応、身分証明できる物をお見せ頂いても?」

「へ?」

「免許証や保険証など……」

「へへ?」


 それはマズイ! 何とか誤魔化さないと……。


「す、すいません……なにぶん、ただの散歩なもので、生憎サイフを家に置いて来ているんです……なので今は持ち合わせてなくて……」

「……そうですか」


 ふぅー……流石は僕だ。

 上手い事躱す事が出来たぞ……これで納得して……。


「サイフを、持って来ていないのですね」

「はい、すいません」

「あなた今、駅の改札から出て来ていましたよね?」

「へへへ?」

「という事は、電車に乗っていらっしゃった?」


 ……くれないかー。

 しかも相当痛い所付かれた。


「ちゃんと買っていましたよねー? 切符。見間違いでしょうか?」

「そ、そうですね。ひ、人違いなんじゃ……」

「そうですかぁー。でしたらすみません」

「い、いえいえ……そ、それでは、ちょっと散歩を急いでますんで……」

「あ、最後に一つお聞きしても?」

「ひ、一つだけなら……」

「最近、この辺りでストーカー被害が多発していましてね……」

「ストーカー?」

「はい」

「そ、それがどうかしました?」

「幾つか目撃情報が上がってましてね」

「目撃情報……? そのストーカーの?」

「はい。で、その目撃情報というものがですね。一貫して、この暑い時期に、フードを被って、サングラスをかけて、マスクをつけているというものなんです」

「ふむ……」


 確かにそれは、如何にもストーカーといった風貌だな……。

 でも、この暑い日にそんな格好している人が居たら目立つと思うし……逮捕は簡単そうだな。


「早く、見つかると良いですね。そのストーカー」

「ええ、そうですね。……所であなた――こんな暑い日に、そんな格好して、暑くないんですか?」

「へへへへ?」


 そんな格好……?

 僕、そんなおかしな格好してる?

 ただフードを被って。

 サングラスをつけて。

 マスクを着用して。

 香水を念入りに付けて…………ん?

 フードにサングラス、マスク…………んん? んんー!?


 僕――パッと見ストーカーじゃんっ!!


「署までご同行、お願いしても構いませんか?」


 こっちが本題か!!


「お……」

「お?」

「お断りします!!」


 よし、逃げよう。


「待ちなさい! このストーカー!!」

「僕はストーカーじゃないですし! 人違いですからぁ!!」

「ストーカーは皆そう言うんです!」

「じゃあ本当に違う時は何と言えば良いんですかぁ!!」

「ストーカーじゃないって言えばいいでしょ!?」

「だからそう言ってますよ!!」

「その怪しい格好で逃走を図る男性を前にして、素直に信じられますか!!」

「ごもっともです!!」


 驚く程、ぐうの音も出ない正論!

 人の心を動かすには、何を言うかではなく誰が言うかが重要とはよく言ったものだ。

 僕は今、その言葉の真髄を味わっている!


「てゆーかあなた足速いわね! 仕方ない! 応援を……」

「あぁーっ! もうっ!! 時間がないのにぃー!!」


 変人達との鬼ごっこ飲みに飽き足らず。

 警官との鬼ごっこも開幕した。


 ……先が思いやられるなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る