10

 東龍子は――間違いなく今、僕に嘘をついた。

 バレバレの嘘をついた。


 メッセージを確認した時の表情……僕の見立てでは、恐らく、

 そして、その後の取り下げ発言からみるに……考えられる可能性は一つ。


 その確認していなかったメッセージの内容が――


 という内容だった。という可能性だ。


 この仮説が正しかった場合。

 龍子さんや凛太郎さん、そして三人衆の面々は――


 僕にきづかれないように、行動を起こそうとしている。という事になる。


 思い返せば、朝の凛太郎さんも様子がおかしかった。


 早い話、僕は審査されていたのだ。


 凛太郎さんに。

 このケースの場合、恐らく、ゴーストドールがまだ健在である事を、凛太郎さん達は知っている。

 そして……僕に今、取り憑いていることすら、把握されている。


 これらの仮説を元に、僕と凛太郎さんが交わした会話を思い返すと……その審議の結果はこうだ――



 央竜生は、嘘をついている。



 まったく……やられたね。

 もしこの仮説が正しかった場合、本気でやられた。

 僕とした事が、まんまと嵌められてしまった。

 こんな簡単な罠に引っ掛かるなんて……これも、呪いのせいなのだろうか?

 まぁ……今更考えても仕方ない。

 その答えはもうじき出る。


 僕は二年の教室前に足を運び。

 バレないように、耳をすませる。


 聞こえてくる、数々の声。その中から、僕が聞きたい声と会話だけを集中して聞き取る。

 カクテルパーティー効果ってやつ? 


 さぁ……声が聞こえてきたぞ……。


「そうですか……凛太郎くんが、嘘を……」

「ああ、あれは間違いなく、ゴーストドールを庇ってる」

「何考えとんやアイツ……仲間に手ぇ出した奴を、ウチらがどつかん訳ないのになぁ?」

「き、きっと! なーくんにも意図があるんだよっ! 庇う理由が!」

「私もそう思います……。どうします? 凛太郎くん。ゴーストドールの始末は……」

「決まっとるやろ! ぶっ殺し確定や。それ以外にあらへん!」

「私が聞いているのは、凛太郎くんです。虎白さんは黙っていてください」

「何やとぉ?」

「ふ、二人共落ち着いてっ!」


 …………もう、充分だ。

 分かった。僕の仮説は正しかった。


 間違いなく、凛太郎さん達は、ゴーストドールの除霊を目的に動く。


 間違いない、僕にこの事を伝えない――伝えようとしない事から、その答えは明白だ。


 まったく……四面楚歌だな。


 あの男に加えて、更に手強い変人達まで相手にしなきゃいけないなんて……あー糞っ! めんどくさいなぁ! もうっ!!


 僕は走った。

 走り出した。

 行き先はもちろん、自分の教室などではない。

 自分の家だ。


 教室に鞄を置きっ放し?

 そんな物取りに帰る暇なんてない。

 教室には、龍子さんがいるんだ。

 の――龍子さんがいるんだ。


 家の鍵を、ポケットの中に入れていて助かった。


 鍵がなかったら、無理やりにでも玄関をぶっ壊さなくちゃいけない所だった。

 大ファインプレーだ。ナイス僕。


 さて、ここから僕がするべき事はただ一つ。


 僕が死ぬ前に。

 変人達から逃げ続け。

 あの男のみを除霊する方法を探り出し。

 頃ちゃんを、成仏させる。


 これ以外にない!


 自宅の家に到着。

 すぐさまリュックサックを取り出し、色んな荷物を詰め込む。

 当然、ゴーストドールもその中へ。


『え? なになに? どうしたの? 竜生お兄ちゃん!?』

『ちょっと暗いけど……我慢してね!』

『ど、どこ行くの!?』

『遠い所――逃げるよ。衣ちゃん』

『に、逃げるって!? 何から!?』

『化け物みたいな人達から』


 僕は玄関の戸をしっかりと閉め、逃走を開始する。


 さぁ……僕の命と、衣ちゃんの成仏を賭けた。

 時間制限付きの変人達との鬼ごっこの――開幕だ。

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