教室に辿り着いた。

 最優先にすべきは、あの人に話しかける事。

 きっと向こうも、僕に話し掛けられるのを待っている筈。

 何故なら彼女は、なのだから。


 何処だ? 席にはいない、今日に限って休みとか? でも鞄はあるし……どこだ? どこにいるんだ? トイレか? 女子トイレだろうか?

 なら女子トイレへ行こう、そしてトイレの前で待ち伏せしよう。

 いや、窓から逃げられる可能性がある。

 ならば女子トイレの中に入って待とう。それなら逃げられる心配もない。

 そうだ、そうしよう。

 それが最善策だ。


「そんな最善策があるかぁー!!」

「ぐほぁっ!!」


 廃部に衝撃を受け、気が付いたら吹き飛んでいた僕。

 一瞬の内にクラスメイト達の注目の的となってしまう。

 何が起こったんだ? と、頭の整理がつかない内に、グイッと胸ぐらが浮き上がってしまう。

 どうやら胸ぐらを掴まれているようだ。

 僕の心の中を察し、ツッコミを入れてくる人物なんて決まっている。


 一人しかいない。


「き、い、た、わ、よ!! 竜生ぃ!! あんた、ゴーストドール除霊研究部とかいう奇妙奇天烈な部に入部していたんだってねぇ!! なぜ私に黙ってたぁ!! そして兄貴の件ありがとう助かったわ!! 私はあんたに、兄貴の様子を見て来いと頼んだだけだったのよ!? ミイラ取りがミイラになってどうすんのよ!! このバカタレ!! 兄貴の件凄く感謝しているわ! またお礼させてね!! そもそもあんたは、女子トイレに入るとかそういう馬鹿な事言うキャラではないでしょうが!! 昨日の件で頭がバカになっちゃう程動いてくれてありがとうなのだけれど! すっごくありがとうなのだけれど!! とにかく!! 何故入部の件を私に黙っていたのよぉ!! 話せ!! 理由を述べよ!! そしてありがとう!! さぁ! 言えぇっ!!」

「お……落ち着いてよ、龍子さん……」


 ごっちゃになってる。

 追求とお礼が、ごっちゃになって意味が分からなくなってる。


「落ち着いてるわよ! 私は!!」

「その感じで落ち着いてるのならヤバいよ?」

「何がヤバいのよ! 言ってみなさいよ!!」

「じょ……情緒不安定な、所……とかかな」

「…………」

「と、とりあえず、胸ぐらから手を離してくれる、かな?」

「……それは無理」

「えぇ……」


 何で?


「私……あんたに感謝しているけど、怒ってるから」

「っ!」

「何であんたは、? 私の知らない所で、難問とぶつかり合っちゃってさぁ! 昨日だって、相当大変だったんでしょ? それなのに! 私にはケロッとした風に、何事も無かったかのように、いつも見せててさぁ! ムカつくのよ!!」

「龍子さん……」


 僕の事を、心配して……怒ってくれてい――


「何より……今、私より先に人葉に声を掛けようとしていたでしょ? それが何よりムカつく……何それ? 私があの子より女として劣ってるとでも言いたい訳……? あぁん?」


 あ、そっちが本題な訳ね……。

 プライドが捻じ曲がってるなぁ……どうして、そう捉えてしまうんだか……。


「誤解だよ、どちらが劣ってるとかそういうのじゃないから。色々と誤解してるよ、龍子さん。それに君にも、外川さんにもそれぞれ良い所があるんだから! 比べるようなものじゃないよ!」

「……じゃあ、私が人葉より良い所言ってよ」

「龍子さんの……外川さんより良い所……?」


 僕は全身全霊を持って思考する。

 ありとあらゆる過去を思い出し、その際の言動、行動を精査する。

 その情報量を処理する為に脳みそはフル稼働。

 それでも答えは出ない。

 そんな筈はない!

 限界を突破し、僕は問題解決へと挑む。


 何かある筈だ!

 龍子さんより、外川さんの方が優れている所が!!

 いや、間違えた。それならいっぱいある。

 外川さんより、龍子さんの方が優れている所が!!

 考えろ! 考えろ! 考えるんだ竜生!! お前ならきっと出来る! 導き出せ答えを!! きっと何かある!! きっと!!


 うおおおおおおおおおおおぉおぉおおおぉおおおおぉおーーっ!!


 結果導き出した結論は――――


「おっぱいが小さい所とか」


 脳を散々駆使したので、僕の脳みそは既にバカになっていたのだ。

 うん、これは仕方ない。


「それのどこが良い所だぁーーっ!! 舐めてんじゃねぇぞゴラァ!! 私はそこを一番気にしてんだよぉーー!!」

「ぬああっ!!」


 殴られた。

 左頬がジンジンしてきた。

 吹き飛んだ時ぶつけた左肩と腰が痛い。

 まぁけど……これに関しては、龍子さんが怒るのも無理はないな……。

 だって百パーセント僕が悪い。

 でも……元をたどれば、良い所がこれ程までに見当たらない龍子さんが悪いので、痛み分けというのが正しいね、うん。


「という訳で、仲直りしよう。龍子さん」

「どういう、という訳なんだよぉ!!」

「がふっ!」


 今度は腹に蹴りを入れられた。

 な……ナイスキック……。


「わ……私、そんなに魅力ないんだ……辛いよぉ……」

「いや……辛いのは、僕の方なんだけど……」

「あぁ?」

「何でもないですすみませんでした」

「…………」


 はぁー……と、呆れた風にため息をつく龍子さん。


「もう良いわ……とにかく、私も入る事になったから。その、ゴーストドール除霊研究部に……」

「へ……?」


 ああ、そう言えば今日の朝廃部が決まったので、龍子さんは知らないのか。


「あの……龍子さん。実はその部活、今日廃部に…………」

「はぁ? 何言ってんの? 今日の放課後、部室に集合でしょ? あんたも当然、行くのよね?」

「だ、だから……」

――RAIN?」

「え?」


 RAINとは、スマホに搭載されているメッセージ交換アプリの事だ。

 今、若者を中心に大流行しているアプリであり、ゴーストドール除霊研究部もこれを使用し連絡を取り合う予定となっていた……の、だが。


 グループRAIN? そんなのあったの?


「グループRAINって……いつ作られたの?」

「ん? 昨日の夜だけど……あれ? ひょっとして竜生、? ハブられてるんだぁー、ぷぷぷっ」

「…………」

「あれ? 反応なし?」


 僕はRAINを開き確認する。

 やっぱり、グループRAINの招待はされてない。

 招待を忘れているだけ?

 それとも……。


「ねぇ、龍子さん」

「ん?」

「ついさっき、そのメッセージが届いたって言ってたよね? それ、何分くらい前?」

「え? そんな細かいこと聞く?」

「教えて」

「はいはい……ちょっと待ってねぇ、確認するから……」


 龍子さんはスマホを取り出し、弄り始める。

 先程届いたというメッセージを確認しているのだろう……だろうけど……。

 僕は見逃さなかった。


 メッセージアプリを、開いた瞬間のを。


「……なる、ほど、ねぇ……」


 と、言って、少しギクシャクとした表情のまま、龍子さんはスマホをポケットの中へと戻した。


「あー……あの件、なんだけどねぇ……やっぱ無しだって。ゴーストドールについてはもう動くの辞めたんだってさー……あはは、兄貴の送り間違いだったみたい。だからさ、気にしないで」

「…………そっか。分かった」

「ごめんね、情報ごっちゃにするような事言っちゃって……あはは……」

「いいよ。間違いなんて、誰にでもある事だからさ」


 ……なるほど。

 そういう事か……。


「? どこ行くの? 竜生。もう朝のホームルーム始まるよ?」

「……ちょっと、トイレにね。ホームルーム前に出すもん出しとかないと」

「出すもんって?」

「う〇こ」

「最低っ!!」


 そんな訳で僕は席を立ち、教室の外へ。

 行き先は、トイレではない。


 二年生の教室だ。


 僕の勘が正しければ……事態は最悪の方向へと向かっている。

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