6
友達に声を掛け、呪いに対する対処方法を行った。
結果としては良好だったようで。
『もしもし竜生! 兄貴、目を覚ましたっ!』
「そうか……それは良かったね。安心したよ……」
『うん! 本っ当に一安心っ! 今はピンピンして、ベッド上で跳ね回ってる』
「はは……それは病院に迷惑がかかるから、やめた方が良いね……」
『……あれ? 何か今度は……竜生が元気ない?』
「え? そう? ちょっと走り回ったから、疲れちゃったのかな? 自分では気付かないもんだね……」
『疲れちゃった? ……それならいいんだけど……』
おっと……これは気付かれかけているな。
今度は、ゴーストドールの呪いを僕が受けているという事に。
電話越しでも、龍子さんの女の勘は発動するのを忘れてた……。
こりゃ、学校生活では油断ならないな。
『かなり、無理してくれたんじゃない?』
「いやいや、こんなの、普段あなたから受ける無茶ぶりに比べたら、全く大した事ないよ」
『何それ嫌味?』
「いいや、そういう訳じゃない。ただの現状報告」
『そう…………ねぇ竜生』
「何? 龍子さん」
『兄貴を助けてくれて……ありがとう』
「どういたしまして」
『またお礼するわ。じゃあね、詳しい事は明日学校で聞くから』
「え? 聞きたい事ある?」
『うん、めちゃくちゃある』
えぇ……龍子さんと長話はリスクあるなぁ……。
見破られたら怒るだろうなぁ……。
怒られるだろうなぁ……。
それは嫌だなぁ……。
『何よ。私に言えない事でもある訳?』
「……いいや、ないよ」
『そ、なら明日ね。本当なら、今すぐにでも聞きたいのだけれど……今兄貴が看護師さん達に囲まれててね。ベッド上で跳ねないでくださいとか、静かにしてくださいとか、ゴミはゴミ箱に入れてくださいとか、電気を点けたり消したりしないでくださいとか、廊下は走らないでくださいとか、トイレで前転しないでくださいとか、公衆電話を携帯電話のように持ち運ぼうとしないでくださいとか、色々説教されちゃってて、そっちの援護に入らなくちゃいけないのよ』
「それ、援護する必要ある?」
怒られるべきなんじゃない?
どう考えてもそれは凛太郎さんが悪いし……。
てゆーか本当に凛太郎さん元気になったんだな……良かった。
元気になり過ぎて、病院側が困ってそうだけど。
『あ、私より先に
「…………」
今、三人衆の皆さんに、ど腐れ糞野郎共なんて酷いルビを振ってなかった? 気の所為かな?
いや、気の所為じゃないな……どんだけあの三人の事が嫌いなのさ。
というか、あの部はどうするんだろう?
『ゴーストドール除霊研究部』――元々は、凛太郎さんを呪いから解き放つ為に作られた部活である訳で……その目的は果たされた訳だし、もう存在意義は内容に思う。
廃部かな?
廃部になるとしたら、あの部活でした事って、自己紹介と与えられた部室の扉を虎白さんが蹴り壊した事くらいなんだよね……。あ、あと救急車呼んだくらいか。
先生達や学校に迷惑しかかけない部活だったな。
けれど、凛太郎さんは『ゴーストドールという怪談を終わらせる事が目的』とも、語っていた。
その点から見ると、まだ部活動は継続する可能性はある。
どっちなのだろうか?
少なくとも、これ以上あの人達は、ゴーストドールに関わらない方が良いと思う。
お互いの為に……。
『あ、あの
ゴーストドール――衣ちゃんが、めちゃくちゃ驚きつつ震えた声を放っている。
うわぁ……これ、トラウマレベルで心に傷を負っちゃってるなぁ……。
うん、やはりこれ以上、衣ちゃんとあの面々を関わらせるのは良くない。
部活継続の話題が出たら、何とか言いくるめて廃部の方へ話を持っていく事に全力を注ごう。
最悪、龍子さんに話を持っていけば何とかしてくれそうだし。
そして最終手段としては、怪談マニアさんかな……。
「……はぁ……」
それにしても……。
「身体が……重いなぁ……」
これが呪い。
ゴーストドールの呪い。
衣ちゃん曰く、黒い男たる霊が放つ呪い。
いや、これは……この重圧は、霊なんて生易しいものじゃない……これはもう、悪霊と呼べる類いだ。
これは辛いな……たった一日目でこれ程とは……。
両肩にズシンと乗りかかる重圧。それに抗う為、身体中が興奮しているのが分かる。心臓は鼓動を早め、息が苦しい、身体が熱を持つ……。
コレを三週間も耐え切った凛太郎さんは、やはり人間じゃない……変人だ。
『大丈夫? 竜生お兄ちゃん……辛そうだよ?』
『大丈夫だよ……ちょっと疲れただけだからね』
『そ、それなら良いんだけど……また私が……ううん、黒い男の人が迷惑を掛けてるんじゃないかなぁーって……』
『ははは……まさか。知らないのかい? 僕は無敵なんだよ』
『そ、そうなの!? 竜生お兄ちゃん、無敵なの!?』
『ああ……だから、気にしなくていいよ。ずっとこの家に居て良いから……』
『……本当に?』
『うん……本当に』
『やったぁー! ありがとう! わーい!!』
『…………』
とは、言いつつも、本格的に早く動かないと……。
一日目でコレだと……呪い終盤頃には身動きが取れなくなっているかもしれない……。
何とかして、その黒い男の人と接点を持たないと……。
しかしどうすれば……。
『ふわぁーあ……何か喜んでたら眠くなって来ちゃったよぉー』
『眠たかったら寝ていいよ。安心して』
『本当? 寝てる間に、捨てに行ったりしない?』
『ああ、そんな事しないよ』
『もし捨てたりしたら――黒い男の人、凄く怒るよ』
『へぇー、そうなん……っ!!』
黒い男が……凄く、怒る?
『怒るって、どんな風に?』
『トコトコトコ、グワァーってなるの。ああなったら、私止めるの大変だから……』
『とことことこ、ぐわぁ?』
曖昧な表現だけど……とことことこ、か……それってもしかして……。
もしもそうなら……試す価値はある。
『よし、分かった。絶対に捨てたりしないから、安心して眠りなよ』
『うん……おやすみなさい』
『……ああ、おやすみ』
『…………すー……すー……』
……………………。
よし、寝入ったな。
「ごめん、衣ちゃん……何もなかったら、明日の朝、必ず迎えに行くから」
僕はゴーストドールを持って、外へ出る。
そして五分ほど歩いた所で、道端の見つかりそうにない所へ、ゴーストドールを置いた。
そのまま、手ぶらで再び自宅へと戻る。
「さぁ……鬼が出るか、蛇が出るか……」
呪いの人形は、捨てても戻って来る。
これはほぼ確定事項といってもいい。
捨てるだけで呪いが解けるのならば、ここまで被害者は広がっていない筈だ。
即ち――捨てようにも、捨てられない理由がある筈。
賭けてもいい……百パーセント、間違いなく、ゴーストドールは戻って来る。
必ず。
それまで僕は待つ……ゴーストドールを、衣ちゃんを、そして――
その、黒い男とやらを。
時刻は――午前二時を回る。
ガチャリ……と、玄関のドアが開いた音がした。
こんな時間に来客? そんな訳がない。
来た。
僕は眠気を誤魔化している身体を無理やり動かし、寝室からリビングを通り、音のした玄関へと足を運ぶ。
誰もいない、そして何もない。
にも関わらず、玄関の戸が、少し――開いている。
どこかに、身を隠しているな……?
玄関で隠れられる場所といえば、下駄箱の中か?
そう思い、僕は下駄箱の戸を開ける。
中には――
『そんな所へ隠れている訳がないだろう……』
――何もなかった。
しかし、声は聞こえた。
衣ちゃんの声とは違う、野太い男の声だった。
背後から聞こえた。
なので僕は振り向く。
すると、さっき僕が通って来た筈のリビングの机の上に、日本人形が足を組んで座っていた。
僕とした事が、寝惚けて気付かなかったのか?
いや、そんな筈は……。
『ワシの声が聞こえるのか……ククッ、面白いなぁ……面白いぞ、お前』
偉そうにも見えるその態度は到底、衣ちゃんには見えない。
放たれている禍々しい空気感が、まるで別物だ。
次元が違う。
この場にいるだけで、身体が重たい空気に押し潰されてしまいそうだ。
『お前が……呪いの正体、って事で良いんだな?』
日本人形は、その無機質な口元を歪に歪ませ、ニヤリと笑う。
そして軽やかに口を動かし……。
『ああ、そうだ』
と、肯定したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます