7
かくして、対ゴーストドール会議が本格的に始まった。
始まった……の、だが。
「残念ながら、今日の昼休みは自己紹介だけで終わりそうだ。何せ、残り十分程度で昼休みが終わってしまう」
時は有限。
僕ら学生の本分は勉強だ。
授業ボイコットするのは流石に気が引ける。そんな訳で、放課後に再度集まり本格的な会議を始める事となった。
時間配分ミスり過ぎだろ、とは突っ込まない。
そんな訳で一先ず解散。
「やばっ、ウチら次体育やん、早う着替えんと!」
「そ、そうですねっ!」
「ぐぅー……」
「ほら、亀美ちゃんも寝てないで、急ぎますよ」
「えぇー……眠いよぉー……ぐぅー……」
「あっ! また寝ちゃった! しょうがないですねぇ……」
「しゃーないから、ウチがおぶったるわ」
「お願いします」
「てな訳で、また放課後な! 竜生」
「よろしくお願いします。竜生くん」
「じゃーねぇー」
「あ、はい。こちらこそお願いします」
虎白さん、花鳥さん、亀美さんが去って行った。
理科室に取り残されるのは、僕と凛太郎さんだけ。
「凛太郎さんは、着替えなくて大丈夫なんですか? 同じクラスじゃ……」
「今の俺に、運動なんて出来ると思うか?」
「あ」
そうだった。
平気な顔で会議を回してたから、すっかりと忘れていた。
この人、ゴーストドールの呪いで体調不良だったんだ。
体育なんて、参加出来る訳がないよな。
「まぁ、普通に参加するんだけどな」
「参加するんですか!?」
本気!?
「やめといた方が……」
「いや、ここで休んでしまったら、俺の体調不良が龍子の耳に入ってしまうかもしれない……だから絶対に休まない」
「凛太郎さん……」
「あいつに、妙な心配はかけたくない。分かってるな? 竜生……龍子には、今回の件……」
「秘密ですね。分かってます」
「話が早くて助かる。じゃあな、また放課後な……」
「は、はい……」
凛太郎さんも、少しフラフラとした足取りで理科室から出て行った。
恐らく、男子更衣室へと向かったのだろう……。
相当しんどい筈なのに……凄い人、だな。
龍子さんには、心配をかけたくない……か。
それならそもそも、ゴーストドールなんて拾わなきゃ良かったのに――とは、思わない。
それは単なる結果論だ。
拾った人形が、たまたまゴーストドールだった。それだけの話だ。
確率的に見れば、拾った人形がゴーストドールである可能性の方が低い訳で。凛太郎さんは、大凶ともいえるクジを不運にも引いてしまったに過ぎない。
むしろ僕は、逆にゴーストドールを拾ったのが凛太郎さんで良かったと思う。
凛太郎さんには悪いけれど、あのレベルの超人でなければ、ゴーストドールの呪いは背負い切れなかった事だろう……。
早い話、一般人がアレを拾っていたら――恐らく今頃死んでいた。
冗談ではなく……本当に。
そういった視点から見ると、今現在、ゴーストドールの呪いを、凛太郎さんという超人で縛れているというのは最高の利点でもある。
この怪談を終わらせるには、絶好の好機とも言える。
ただし時間はない。
幾ら凛太郎さんが超人とはいえ、いつまでもつか分からない。
万が一が、一週間二週間後……早ければ今日中に起こる可能性すらある訳だ。
と、なると……。
決着は、早ければ早い方が良い。
凛太郎さんの身に、万が一があった場合……――
「おっそぉーい!! 様子見するのに何分かかってんのさぁ!!」
「あ、龍子さん」
色々と考え事をしている内に、教室へ辿り着いていたようだ。
龍子さんが僕の顔を覗き込んでくる。
対ゴーストドール会議に参加していた、なんて本当の事は言えない。
そもそも、対ゴーストドール会議って何だ。ネーミングセンス壊滅的すぎだろう……。
「ごめん。ちょっと、三人衆の皆様に見つかって、濃厚な絡みを受けちゃって、遅くなった」
「…………ふぅーん……で、どうだった? 兄貴の様子」
「……うーん……そうだなぁ……元気そうだったし、大丈夫そうだったよ」
「そっか、なら良かった」
「……うん」
これが真実なら、本当に良かったのに。
「……龍子さんは、本当に凛太郎さんの事が好きなんだね」
「何言ってんのよ。当たり前でしょ」
「だよね」
「? そんな事より……ほら、コレ食べなさい。あんたまだ昼ご飯食べてないでしょ?」
手渡された袋の中には、焼きそばパンとサンドイッチが入っていた。
「こんなに遅くなるとは思わなかったから……その、ごめんなさい……昼休みがもうすぐ終わっちゃうけど、次の休み時間にでも……」
「いや、今いただくよ」
「え? でも後五分も時間ないわよ?」
「大丈夫、かき込むから」
「そ、そう……?」
「うん。ありがとう、いただきます」
僕は先ず、焼きそばパンを口に運ぶ。
うん、美味しい。
「の、喉に詰まらせないでよ?」
僕は頷いた。
大丈夫、僕は龍子さんを困らせるような事は絶対にしない。
絶対に……。
もし万が一、凛太郎さんの身に万が一が起こってしまったら――龍子さんは、間違いなく悲しんでしまう。
それだけは絶対、あってはならない。
僕が絶対許さない。
「はいコレ、お茶」
「ふごふぁほぉう……(ありがとう)」
この子が大切にしている人を……僕が必ず、助けてみせる。
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